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53話 ゾンビごっこ

 一通り遊んだ三人はゲームセンター内の椅子に腰を掛ける。


「はぁー、遊んだ遊んだ。そろそろどっか違うとこ行く? それとも、まだここで遊ぶか?」


 ゲームセンターの遊びに満足した真琴が二人に尋ねる。

 すると、智香が少し言い辛そうに口を開く。


「……ゲーム続きになっちゃうけど、私の部屋でコレやらない?」


 智香は手に提げていたゲームが入った袋を見せた。


「もしかして、ずっとやりたかった? ごめんっ」

「いいよ、いいよ。ここで遊ぶのも楽しかったし」

「じゃ、次は智香の部屋で遊ぼうぜ」


 買ったゲームで遊ぶこととなり、三人は寮の智香の部屋へと場所を移した。



 智香の部屋に入ると、真琴は部屋の中をきょろきょろ見回す。


「すげー、何だこれ。テレビ三台もあるじゃん。ゲームソフトもめっちゃあるし」


 テレビ台の上にはテレビが三台も並んでおり、下の棚には多くのゲームソフトが敷き詰められていた。

 智香はゲームの準備をしながら喋る。


「みんなでやると画面小さくなっちゃうやつあるからねー。そういう時用」

「智香ってゲーマーだったんだ。意外」

「そうかな?」

「うん、めっちゃ意外。ゲームよりは図書室とかで本読んでそうなイメージ持ってた」

「えー? 私、本は漫画くらいしかまないよ。あ、真琴ちゃんホラーゲーム大丈夫? 結構アクション寄りで、そんな怖いのじゃないけど」

「全然、大丈夫だぜ。やる前にラウンジでお茶貰ってきていい? 実はさっきから喉渇いてて」

「冷蔵庫にジュースあるよ」


 智香はゲームの準備をしながら小型冷蔵庫を指さした。


「いいの? サンキュー」


 真琴は早速部屋に備え付けられていた小型冷蔵庫のところへ行き、扉を開ける。

 だが、中にはジュースなどなく、お酒の瓶や缶がびっしりと敷き詰まっていた。


「何このジュース?」

「お酒のジュース。普通のジュースと大して変わらないから大丈夫だよ」

「え、ここ酒なんか売ってんの? てか、あたしらが飲んでいいやつ?」

「うん。アルコールは入ってないから。お酒って名前が一緒なだけで、地上のとは違うみたいだよ」

「へぇ、そーなんだ。じゃあ、試しに飲んでみようかな」


 真琴は小型冷蔵庫からお酒の缶を一本取る。


「私もちょっと飲もっと」


 ゲームの準備を終えた智香も手を伸ばして一本取っていった。


 缶を開けて口を付ける真琴だったが、一口飲んだところで即座に口から離す。


「うわ、何だこれ。不味いじゃん」

「えー、そう? 私は美味しいと思うけど」

「マジで? 何かジュースに注射が混じったような味がすんだけど」

「あ、懐かしい。私も最初はそう思った。慣れたら気にならなくなるよ」

「慣れたらかぁ。これを慣れるまで飲み続けるのはちょっと……」

「ここに来たばかりの頃は、何でも美味しかったから私は飲めたけど、今はちょっときついかもね。いらないなら私飲むから置いといて」

「せっかくくれたのに悪いな。急いでお茶貰ってくるから、ゲーム始めようぜ」



――――



「おら、死ねや!」


 智香が操作するキャラがゾンビの集団に向かって銃を乱射する。

 ゾンビ達は無数の銃弾を受け、ドミノのように倒れていった。


「あはははははは、皆殺しー」


 倒れて動かなくなったゾンビに更に銃弾を撃ち込みながら智香は喜ぶ。


 そんな智香を真琴はビクビクしながら見ていた。


「な、なぁ。智香の奴、どうしちまったんだ?」


 真琴は小声で優奈に尋ねる。


「酔っぱらっちゃったみたいだね。いつものことだから気にしなくていいよ」


 怯える真琴とは対照的に、慣れていた優奈は平然としていた。


 その時、画面で智香の操作キャラの後ろからゾンビが襲い掛かってきた。


「あ、てめーこのやろ。くたばりやがれ」


 反撃して殴り倒し、倒れたところをナイフで滅多刺しにする。


「怖えーよ」


 その様子に真琴は益々顔を青褪めさせた。


 そこで智香が唐突に言う。


「真琴ちゃん遅れてるじゃん。ちゃんとついてきてよー」

「あ、は、はい。すみません」


 真琴は思わず敬語で返す。

 そしてすぐに優奈に向けて再び小声で助けを求める。


「優奈、どうにかしてくれ」


 真琴はホラーゲームなどより智香の方がよっぽど怖く感じていた。

 助けを求められた優奈は智香に言う。


「智香ちゃん、そろそろ休憩にしようか」

「えぇー? 始めたばっかだよ?」

「真琴ちゃん、普段あんまりこういうゲームやらないから疲れちゃったって」

「そーなんだ。はぁい」


 智香は素直に納得してゲームを終わらせることにした。



 テレビゲームの電源を消し、片付け終えたところで智香が言う。


「今度は何するの?」


 二人にそう問いかけると、優奈は受け流すように真琴を見た。

 真琴の意見を優先するという思いでのことだったが、丸投げような形となり、真琴は困惑する。


「何するって言われても……」


 智香の顔色を窺うようにちらちらと様子を見ていた。

 優奈は勘違いしているが、真琴はゲームで荒々しくなっていた智香にではなく、今の智香の状態に困っていたのだ。


 二人が答えないでいると、智香が言う。


「じゃあ、ゾンビごっこしよ」

「ゾ、ゾンビごっこ?」


 真琴が困惑していると、徐に立ち上がった智香が両手を前に出してゆっくり近づいてくる。


「あ”ー」


 それはゾンビの物真似であった。

 智香はそのまま真琴へと襲い掛かる。


「これ、どうすんだよ!?」


 真琴はどう対応すればいいのか分からず、しがみついてくる智香に狼狽する。

 そうしているうちに、がっちりとしがみついた智香がその首筋に噛みつく。


「ちょ、噛んでるっ。噛んでるっ」


 智香は咥えつくように甘噛みしていた。

 そのままもごもごと口を動かす。


「くっ、くすぐったいっ。ゆ、優奈、ヘルプ」


 真琴は優奈に手を伸ばして助けを求める。


「ヘルプと言われても、下手に助けようとすると私も襲われちゃうし……」


 困った様子を見せる優奈であったが、その顔は僅かにニヤけていた。


 助けもなく、真琴は智香に甘噛みされ続ける。


「も……もう無理!」


 耐え切れなくなった真琴が智香の身体を押し出した。

 身体が離れた瞬間、真琴はその場から脱出する。

 だが、逃げる真琴を智香が追いかけていく。


「あ”ー」

「も、もう勘弁してくれ」


 追ってくる智香から、真琴は慌てて逃げ出した。


 玄関の方へと向かったところで、優奈が引き止める。


「あ、外に出しちゃダメ。色々と大変なことになる」


 優奈の制止で真琴は足を止める。


 このまま外に出てしまうと、酔っ払いの智香を世間に出すことになる。

 そうなれば皆からの智香への印象はガラッと変わってしまうであろう。

 智香の今後の生活のことを考えたら、外に出る訳にはいかなかった。


 外へ逃げることができなくなった真琴に智香が迫りくる。


「あ”あ”ー」

「い”」


 智香が真琴に襲い掛かろうとしたその時、間に優奈が飛び込んできた。

 智香は優奈にしがみつく。


「真琴ちゃん、今のうちに逃げるんだ」


 優奈は盾となって真琴を庇う。

 しがみついた智香は優奈の首筋へと口を付けた。


「あはーん」


 僅かに歓喜の声を漏らすが、顔はすぐさま真面目な表情を装い、手で真琴に離れるよう促す。


「優奈……すまんっ」


 真琴は襲われる優奈の横をすり抜け、部屋の端へと避難する。

 無事、距離を置かせることに成功したが、優奈はそのまま無抵抗で甘噛みをされ続ける。


「はぁー……いいよぉ」


 噛まれているところだけでなく、抱き付かれる感触も受けて全身で堪能していた。

 だが、優奈は感じ過ぎて身体の力が抜けていく。

 そして崩れ落ちるようにその場に倒れた。


 優奈と一緒に倒れた智香であるが、優奈が倒れて動かなくなると、噛むのを止めて一人立ち上がった。

 振り返って真琴の方を向くと、再び両手を前に出し迫り始める。


「あ”ー」

「うわ、また来た」


 真琴は捕まらないように部屋の端を周りながら逃げる。

 しかし部屋はそんなに広くない為、気を抜けばすぐに捕まってしまう距離であった。


「ちょちょちょ。これきついぞ」


 部屋の壁を背にして蟹歩きで必死に逃げる。

 そうしていると、倒れていた優奈が身体を起こす。


「優奈、これどうすればいいんだっ?」


 真琴は逃げながら優奈に解決策を求める。

 だが優奈は答えず智香と同じように両手を前に出した。


「あ”ー」


 優奈もゾンビの真似を始めた。


「どうしろってんだ!?」






 その翌朝。


「昨日は酷い目に遭った……。色々衝撃的過ぎて夢にまで出てきたぞ」


 朝、登校してきた真琴は教室で優奈に文句を言っていた。

 そこに麻衣は入ってくる。


「なになに? 何の話」

「あー……えーっと……」


 真琴は言葉を詰まらせる。

 話すと智香の痴態をばらすことになる為、そのままを言うことはできなかった。

 どう言えばいいのか分からず、口籠っていた真琴の代わりに優奈が答える。


「昨日、智香ちゃんと三人で遊んでたんだけど、途中でお酒飲んで酔っちゃって」

「あぁ……」


 それだけで麻衣は察した。

 真琴はそれで麻衣が大体のことを理解したと分かり、愚痴を漏らす。


「マジ大変だったんぜ……。首筋噛まれるというかしゃぶられるし、突然何してくるかも分からねーし」

「それは災難だったわね」

「全くだよ。外に出せないから、結局智香が疲れて眠るまで部屋の中を逃げ回る羽目になった」

「気付け薬使えばよかったのに」

「何それ?」

「部屋の救急箱に入ってる薬よ。使うと一発で酔いが醒めるわよ。優奈は知ってるでしょ」

「え、優奈はそんなこと一言も……」


 二人が優奈を見ると、優奈は目を逸らした。


「……態と使わなかったわね」

「嘘!? 何でだよ」


 真琴は信じられないという顔をして優奈に問う。


「だって、酔ってる智香ちゃん結構好きだもん」

「信じられねー。どんだけ大変だったと思ってんだ。あたしのこと何度も庇ってくれたから、すっげー感謝してたのに」


 上がっていた好感度が急降下していく。

 落胆と軽蔑の視線を受け、優奈は焦る。


「いや、でも、あの時、真琴ちゃん結構乱暴な事ことできてたから、止めない方がいいのかなとも思って」

「え、そんなことしてた?」

「私や智香ちゃんがしがみついてくるのを強引に押し剥がしたり。結構強い力だったよ?」

「……必死だったから覚えてない」

「そっか。でも、できてたのは確かだから、結果良かったってことで」


 優奈は責任逃れする為にプラスに考えさせて締め括る。

 だが、覚えていない真琴は釈然としなかった。



 その時、教室の入り口から登校してきた智香が入ってくる。


「おはよー」


 智香は挨拶しながら自分の席へと座った。

 挨拶で智香に気付き、一瞬ビクッとした真琴が口を開く。


「あ、智香さん、おはようございます」

「?」


 緊張した面持ちで改まって敬語で挨拶をする真琴に、智香は首を傾げる。


 そんな二人を見て優奈と麻衣は苦笑いしたのであった。

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