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50話 トラウマ

「いくわよ。せーのっ」


 ポーズを取った麻衣と智香が同時に巨大スライムに向けて杖を振る。

 すると、稲妻が走った炎の柱が巨大スライムを包み込んだ。

 その合体攻撃をする姿を優奈はデジカメで撮影する。


「優奈ー、見栄え良く撮れた?」

「ばっちり。可愛く撮ってるよ」


 初めは写真を撮られるのを嫌がっていた麻衣も、テンションが上がって自分から撮られるようになっていた。


「ところで、何で寝そべって撮ってるのよ?」


 優奈は俯せの状態でデジカメを構え、ローアングルから写真を撮っていた。


「こうやって撮ると、パンツもチラッと写って栄えるんだよ」

「……優奈に任せると、こうなるんだったわね」


 隠すことなく堂々と述べる優奈に、麻衣は諦めたように言った。

 いつものことである為、最早文句を言う気にもなれなかった。


「そういえばパンツってどうなってるのかしら」


 ふと疑問に思った麻衣は確認しようと自分のスカートを捲り上げる。

 その瞬間、優奈がシャッターを激しく切って激写した。


 そんな優奈のことは気にせず、麻衣は下を向いて覗く。

 そこにあったのは猫のデフォルメキャラのプリントがついた白のパンツであった。

 麻衣は勢いよくスカートを戻す。


「変わってないじゃない!」


 パンツは自前のものそのままであった。


「生パン写真撮っちゃうぞー。かさかさかさ」


 優奈は這いつくばったまま智香の方へと迫る。


「きゃー」


 下から写真を撮ろうとする優奈から、智香は楽しそうに笑いながらスカートを押さえて隠す。


「ゴキブリみたいな動きして……。優奈はどちらかというと怪人ね」

「あはは。でも見た目はちゃんと可愛いから」


 あまりの言い草に智香は笑いながらもフォローになるのか怪しいフォローをする。

 這いつくばってスカートの中を激写しようとする優奈の姿は、魔法少女とはかけ離れたものだった。



 その時、真琴の声が館内に響く。


「やらないって言ってるだろ!」

「あいたっ」


 優奈達が振り向くと、そこでは拳を握った真琴と頭を押さえて痛そうにしている美咲がいた。


 真琴はその握った自分の拳を信じられないような顔をして見ていた。

 そこで真琴は優奈達の視線に気付き、ハッとした顔をしてその場から逃げ出す。


「あ、真琴ちゃん!」


 優奈が引き止めようとするも、真琴は足を止めることなく体育館から出て行った。



 優奈達は美咲のところへと駆け寄る。


「何があったの?」

「えと……やらないのはやっぱり勿体ないと思って、ちょっと強引にやらせようとしたら、怒らせちゃった」


 魔法少女の遊びを楽しんでいた美咲は楽しめば楽しむだけ、やらないのは勿体なく思うようになり、ヴァルサや優奈に言われたにも拘らず再び真琴に声を掛けた。

 当然のことながら嫌がられるが、それでも勿体ないとしつこく勧めたことで、真琴に激怒され、叩かれてしまったのだった。


「あらら、やっちゃったね」

「うん、失敗失敗」


 ばつが悪そうに笑う美咲であったが、その表情は無理をしているようだった。


「私が見てくるよ。三人はここで待ってて」


 優奈は真琴の様子を見に行くべく、三人を置いて体育館を出た。




 体育館から出た優奈は急ぎ足で廊下を歩く。


「ヴァルサ、戻って美咲ちゃんのフォローお願い」


 そう言いながら操作パネルを呼び出し、真琴の現在地を検索する。

 すると、真琴は校舎裏にいることが判明した。

 優奈は早速そちらへと足を向ける。


「若干問題あるとは思っていたけど、こんな形で露呈しちゃうとは……。町の運営に関わる程のことじゃないとはいえ、これ以上放置するのはよくないよね。でも、どうやって対処すればいいのか……難しいなぁ。とりあえず今は美咲ちゃんとの関係が悪くならないようにすることを最優先として事態を収めないと」


 優奈は対応を考えながら真琴の下へと向かった。




 校舎裏。

 真琴は校舎を背に一人ぽつんと座り込んでいた。


「殴るつもりなんて全然なかったのに……。あたしも同じなの? 親子だから?」


 自らに問いかけるように呟いた。

 その時、不意に真琴の耳に足音が聞こえてくる。

 顔を上げると、そこに居たのは優奈だった。


「真琴ちゃん。みんな心配してるよ」

「……ごめん。悪いけど少し一人にして」


 真琴は拒絶の反応を示す。

 だが、優奈は無視して真琴の方へと近寄り、隣に腰を下ろした。


「……」


 真琴はちらりと横を見るが、それ以上は何も言わない。

 優奈も何も言わず、静寂が流れる。


 暫くしたところで真琴が徐に口を開く。


「あたしのこと責めないの?」

「別に責めたりなんかしないよ。美咲ちゃんも強引過ぎたって反省してたし」


 その言葉を聞いた瞬間、真琴の瞳から涙が溢れてくる。


「うく……違う。あたしが全部悪いのに……」


 泣き出した真琴を優奈は慰めるように無言で肩を抱いた。

 暫く泣き腫らして落ち着くと、真琴はぽつりぽつりと話し始める。


「あたしさ、昔からお母さんによく殴られてたんだ。悪さした時だけじゃなくて、お母さんの機嫌が悪かったり、間違えたり失敗した時にも。

初めは軽くだったんだけど、お父さんが死んでからは、ちょっとしたことでも凄い殴られるようになって。

最後はもう大怪我しちゃって、病院で寝たきりになって死ぬ寸前のところで管理者さんに助けてもらったんだ。それがあって殴られて痛いのは分かるから、自分はやらないようにしようって思ってた。

でも、身体が勝手に……。やっぱり親子だから、あたしも暴力振るっちゃうのかな」


 真琴が乱暴事を忌避していたのは、母親から身体的虐待を受けていたからであった。


「そんなことないよ。手を出すのはあんまりよくないけど、他の子でも喧嘩したりしたら咄嗟に手が出ちゃうことはあるし」

「でも、あたしは絶対しないように気を付けてたのに」

「意識し過ぎてたから、逆にやっちゃったんじゃない? ストーブの網の中に手を入れたら火傷するのは分かってるけど、やったらダメって思ってると、何故か突っ込みたくなるみたいな」

「網? その例えはいまいちよく分からないけど、そうかも」


 遺伝子の修復には精神を安定させる効果もあるので、女の子達が過去のことで苛まれるようなことはない。

 しかし記憶はそのままである為、トラウマとまでは行かないものの気にしてしまうことはあった。

 気にすればするほど悪い方に行ってしまうのはよくあることである。


 ただ心の傷自体は修復されているので、後はその子の考え方次第で簡単に治ることだった。


「なら、これからは気にしなければいいんだよ」

「気にしなければいいって……。そんな簡単に言われてもできないよ」

「それもそっか。じゃあ気にしないよう心掛ける程度から初めてみたら?」

「うーん……」


 優奈が提案するが、真琴の反応は芳しくない。

 これまで必死に抑えようとしてきた真琴からすると、心掛ける程度でどうにかなるとは到底思えなかった。


「一先ずその問題は置いておくとして、とりあえずみんなのところに戻ろっか」


 話を終わらせて帰ろうとする優奈。

 しかし、そこで真琴が表情を曇らせる。


「え……あたしはちょっと今日は」

「戻らないの? 間を空けると気まずくなるよ?」

「でも……」


 真琴は戻ることを躊躇う。

 美咲を殴って飛び出してしまったことから、顔を合わせ辛くなっていた。


「大丈夫、大丈夫。私がついててあげるから」


 優奈は有無を言わせない勢いで真琴の手を引く。

 少し強引であるが、真琴は特に抵抗はせず、二人は体育館へと戻ったのであった。




 二人が戻ると、体育館には麻衣達三人とヴァルサが待っていた。

 ヴァルサの姿を見た真琴はばつが悪そうに優奈の背中に隠れる。


「事の詳細は把握しています。真琴さん、まず美咲さんに言うことがありますよね?」

「は、はい」


 ヴァルサに促され、真琴は怖々としながら優奈の後ろから出てくる。

 出てきた真琴は美咲を前に一呼吸し、意を決したようにして口を開く。


「美咲、殴っちゃってごめん……」

「いーよ、いーよ。しつこくした私が悪かったんだから」


 美咲は軽い感じで言葉を返す。

 先程は落ち込んでいた様子であったが、ヴァルサのフォローにより元気を取り戻していた。


「ううん。それでも殴るのはやり過ぎた。ほんとにごめん」

「気にしてないからいいよー」


 美咲は責めることなく、全く気にしていない様子であったが、真琴は浮かない顔であった。

 そこでヴァルサが言う。


「暴力行為の償いが謝罪だけでは釣り合いが取れているとは言えません。美咲さんには殴り返す権利がありますが、いかがしますか?」

「ううんっ、そんなことしないよ」


 美咲は首を全力で横に振って報復を拒否した。


「そうですか。しかし、罰は受けなくてはなりません。真琴さん。これより、私が暴行に対する罰を与えますので、身構えてください」


 ヴァルサはそう言うと、身体からコードを何本も伸ばす。

 その出てきた幾本ものコードは絡み合い、大きな拳を形作った。


 それを見た真琴は息を呑んで身構える。

 直後、その拳が真琴を襲い掛かった。


「うっ」


 大きな拳を全身で受け、真琴の身体は大きく吹き飛ぶ。

 そして床へと叩き付けられた。


「真琴!? 大丈夫!?」


 美咲達は慌てて駆け寄る。


「う、うん。何とか」


 真琴は何処かを痛めた様子もなく、すんなり起き上がる。

 派手に吹き飛んでいたが、絶妙な調整によって痛みは然程受けてはいなかった。


「これで罰はお終いです。もう喧嘩はしないように、とは言いませんが、なるべく仲良くしてくださいね」

「はい、ありがとうございました」


 真琴は深々とお辞儀をして礼を言う。

 大げさな罰を与えることで、罪の十分な償いを行ったという印象と、真琴自身の罪悪感を薄める狙いがあった。

 そのヴァルサの真意を汲み取り、真琴は心から感謝をした。

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