47話 ツイスターゲーム2
「智香、左足、緑」
「えーと、えーと」
麻衣と智香が参加し、五人でツイスターゲームをやっていた。
一先ず真琴がルーレットを回す役で、争うのは他の四人である。
四つん這いの智香が左足を斜め後ろに伸ばし、指定されたところに足を置く。
「う、きつい……」
「智香、身体硬いねー。運動してる?」
智香の姿を見た美咲がそう言う。
片足を大きく伸ばし、両手で体を支えている形であったが、そんな無理な体勢には見えなかった。
「してるよ。……体育で」
「それ、してないのと同じじゃん」
根がズボラな智香は一人でいる時はほぼ動かない生活をしていた。
そのせいか美咲達よりも身体が硬いようだった。
真琴がルーレットを回しながら言う。
「あたしら以外そんなもんだろ。次、優奈。右手、青な」
「オッケー」
優奈は麻衣の股の間に勢いよく手を突っ込む。
「はうっ」
股に腕が擦れ、麻衣は思わず声を出した。
「おっと失礼」
「ちょっと優奈ぁ」
「ん?」
文句を言おうとする麻衣に、優奈は恍けた顔を返す。
「く……覚えておきなさいよ」
股間に擦れたなどということを皆の前で言うことはできず、麻衣はただ睨み付けるしかできなかった。
そのやり取りを見た真琴が助言する。
「優奈は結構策士だから気を付けた方がいいぞ」
「ええ、それはもう……思いっきり気を付けてるわ。スカート履いてきたのは失敗だったわね……」
麻衣は前に居る智香を見ながら言う。
同じくスカートを履いていた智香は、四つん這いになっていたせいで後ろからはパンツが丸見えであった。
両手が塞がっていて足も閉じれない為、隠すこともできない。
「パンツなんて見られても、どうってことなくね? あ、麻衣。次、右手、黄色ね」
「同性に見られるのはもうそんな気にしてないんだけど、この格好がね……。えっと、黄色黄色……って前かぁ。智香、ちょっとごめんね」
麻衣が前方の黄色マークに手を伸ばす。
すると、身体が前に出たことで、顔が智香のお尻のすぐ後ろまで来ることとなった。
「もし今、智香が屁こいたら大変なことになるな」
「しないよ!?」
お尻のすぐ後ろに麻衣がいたので、出してしまうと顔に直撃する位置であった。
「はは、そういえば、こっちに来てから、あんましオナラ出なくなった気がするんだけど。気のせいか?」
真琴の疑問に優奈が答える。
「オナラは腸内菌バランスの乱れが原因だからね。遺伝子が修復されたことで常に最適なバランスを維持するようになったから、ガスが出る量を極限まで抑えられてるんだよ」
「へぇー、そんな効果もあったのかぁ」
遺伝子の修復はあまり目立った効果を見せないが、着実にその効果を発揮させていた。
「出ないのはいいわね。人前でしたくなるのは、ほんと困るだけだったし」
麻衣の言葉に智香もうんうんと同意する。
人目を人一倍気にする年頃の女の子にとって、オナラが出ないというのは嬉しい効果であった。
麻衣達が喜ばしく話していると、そこで音が鳴る。
”ぷぅ……”
その音が聞こえた瞬間、皆が喋るのを止め、一瞬で静まる。
そして静けさの中で美咲が一言言う。
「あ、出せた」
その瞬間、周りの子達が蜘蛛の子を散らすように美咲から離れる。
「おまっ、他人と密着してる時に出すなよ。しかも密室で」
「いやぁ、出なくなったって言うから、ほんとかなと思って」
優奈は窓を開け、換気を行う。
「出難くなっただけで、全く出なくなった訳じゃないから」
麻衣は机の上にあった下敷きで開いた窓に向けて扇ぐ。
「態とするとか止めてよね。もー」
「めんご、めんご」
美咲は謝りつつも悪びれる様子はない。
皆、大げさに反応しているが匂いは殆どなかった。
「これってゲームどうなるの? 手足置く場所、覚えてないんだけど」
「美咲の負けでいいんじゃね?」
「そうね」
「そんなー」
美咲以外の満場一致で、美咲の判定負けとなる。
態とオナラを出したとのことで、周りからの風当たりは強かった。
換気を続けていると、窓の方を見ていた智香がふと言う。
「この町って何処にも網戸ついてないよね。虫がいないからかな」
「そうじゃない? 虫いないなら網戸つける意味もないしね。普通、夏に窓全開になんてしたら蚊が大量に入ってくるわ」
虫除けの網戸は虫の存在しないこの町には必要がないので、何処の建物にも取りつけられていなかった。
「蚊がいないのは嬉しいけど、虫が全然いないのはちょっとつまんないなー」
美咲がそう言うと、すぐさま麻衣が否定の声を上げる。
「えー、虫なんて一匹もいらないでしょ」
「虫取り楽しいよ」
「私はいいわ……。犬猫とかならまだいいけど、虫は無理」
「そっかー。そういえば動物もいないんだね。それも残念だなー」
「犬や猫くらい入れてもいいのにね」
麻衣達は他に動物がいないことを残念がる。
住民がまだ少なく、町自体が寂しかった為、動物がいれば多少は賑やかになると思ったのだった。
そんな二人に向けて優奈が言う。
「動物のロボットならそのうち作られそうじゃない? 本物そっくりの」
「ロボットかー……」「ロボットねぇ……」
麻衣達は思わしくない反応であった。
「ロボットじゃご不満?」
思っていた反応とは違っていた優奈は二人に尋ねた。
「ここのロボット、高性能過ぎて気遣いそうだから、あんまりねぇ……」
「あたしらよりずっと頭良いからねぇー。ペットにした日には、そりゃあもう先生飼うようなものだし」
「うわ、それ絶対無理だわ」
町のロボットは高性能が故に、女の子達には気を遣う存在となっていた。
動物の思考を完全再現したとしても、それは演じているだけに過ぎないと、女の子達も理解していたのだ。
そのうち作ろうと考えていた優奈は当てが外れる。
「うーん……ロボットじゃ不満かぁ。本物は厳しいと思うよ。ノミダニは何とかなっても糞尿があるから」
優奈がそう言うと、真琴が納得の声を上げる
「あぁ、外でしちゃうもんな。あたしも、ここに来る前は道端で立ちションとかよくしてたけど、ここは綺麗過ぎて流石にできなかった」
「立ち? ……え?」
おかしなフレーズが聞こえた優奈は聞き間違いかと思い、訊き返した。
「立ちションだよ。前住んでたとこは、ここみたいに何処にでも公衆トイレがある訳じゃなかったから、道端とか草叢でしてたんだ」
「いや、そうじゃなくて、立ちションって本当に立ってする訳じゃないよね? 野ションのこと?」
「あー、男子と一緒にしてたから、あたしも立ってやってたんだよ。こう、股開いてすると、女でもできるんだ。みんなはやったことない?」
立ち上がった真琴は蟹股で腰を前に突き出すポーズを見せる。
「あたしもあるよー。結構コツがいるよね」
美咲も立ちション経験を暴露する。
「そうそう、上手くやらないと足がびしゃびしゃになってとんでもないことになるよな」
「失敗した時は靴の中まで浸水して大惨事になったよ」
「あるある」
二人は立ちション話で盛り上がる。
だが、そんなことをしようとすら思ったことがなかった麻衣と智香はドン引きした様子を見せていた。
初めは唖然としていた優奈だったが、二人の話を聞いて考える。
(女の子が立ちション……。それはそれでありだね。是非見てみたいけど、この町じゃちょっと難しいかな)
シェルター内は外の道路でも食器と変わらないくらい綺麗である為、普段からよく野ションしていた真琴も流石にする気にはなれなくなっていた。
優奈が見てみたいと思っても、町は清潔さを売りにしてしまっているので今更変えることはできない。
(後で、トイレで試してみよ)
見れないのなら自分でやってみようと思う優奈であった。