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45話 お菓子作り

 休みの日。

 智香の部屋にて、麻衣と智香の二人はテレビゲームをして暇を潰していた。


「改めて思うけど、こっちに来てから余暇時間、凄く増えたわよね」

「そだねー」

「学校休み多いし平日も終わるの早いから、時間持て余しちゃうわ。これで夏休みに入ったらどうなることやら」

「うんー」


 智香は麻衣の話に適当に相槌を打ち続ける。

 聞いていない訳ではないが、会話よりもゲームの方に意識を集中させていた。


「智香は余暇時間、何してる?」

「え? ゲーム」

「あぁ……」


 聞くまでもないことであった。

 今の質問で、ゲームへの集中が途切れた智香が麻衣に訊く。


「そういえば優奈ちゃんは?」

「さぁ? 真琴達とでも遊んでるんじゃない? それか部屋で何かやってるか」

「優奈ちゃん、ちょいちょい部屋で一人何かやってるよね。何してるんだろ?」

「どうせ碌でもないことよ」

「あはは」


 随分な言い草であったが、智香も否定はしなかった。


 優奈は町開発の為、一人部屋に籠ることが多いのだが、麻衣達が尋ねても理由をはぐらかすので、あからさまに怪しく見えていた。

 しかし、優奈の特殊な趣味から、二人はあまり深入りしようとは思わず、触れないようにしていた。


「それで話戻すけど、最近暇過ぎて料理始めたのよ」

「へー、どんなの作ってるの?」

「甘い系のやつよ。アップルパイとかシフォンケーキとか」

「凄い。そんなの作れるようになったんだ」

「出来は酷いけどね。毎回失敗しちゃって、とても見せられるものじゃないわ」

「続けてれば、すぐに上達するよ」

「そうなればいいけど難しいのよー。智香、料理教えてくれない?」

「え、めんどくさ」


 料理の指導をお願いされた智香は思わず、思ったことをそのまま口走ってしまう。


「め、めんどくさいの?」


 いきなりそんなことを言われるとは思わなかった麻衣は困惑する。

 そこでハッとした智香が慌てて訂正する。


「あ、嘘嘘。ちゃんと教えるよ」

「……今の素で言ったでしょ」


 麻衣はジト目で智香を見返す。

 反応速度や言い方から、素で出た言葉であると丸分かりだった。


「ええっと……手間がかかりそうなやつだったから、つい」

「別に無理言ってまで教えてもらおうとは思わないからいいわよ。一人で頑張るわ」


 麻衣は諦めて引き下がるが、逆に智香は焦る。


「ううん、ほんと大丈夫からっ。全然嫌じゃないよ。じゃあ今からやろう」

「え、ちょっ」


 智香はゲームを落とし、麻衣を強引に連れ出した。



――――



 寮の二階にある食堂。

 その裏手には、目立たないが教室一室分程度の大きさの調理室が設置されていた。

 そこには様々な調理器具が揃えられており、自由に調理ができるようになっている。

 趣味などで料理を作りたい子は、ここで調理を行っていた。


 調理室の入口から、買い物袋を両手に下げた麻衣と智香が入ってくる。

 二人はすぐに近くのテーブルにその袋を置いた。


「ふぅ、必要な材料買ったら結構な量になっちゃったわね」

「必要な材料多いからね。フルーツタルト」


 町の食品は特に安いが、食材はそれ以上に安く、大抵の物は一円二円単位、或いは無料で購入できる。

 その為、金欠の二人でも負担にはならなかった。


「じゃ、作り始めよっか。まずタルト生地からー」


 智香はタッチパッドのレシピを参照しながら作り始める。

 麻衣はその手伝いをしながら、やり方を教わることにした。



 ボウルに材料を入れ、智香がかき混ぜる。


「うーん、ここに来て料理全然やらなくなったから、やり方忘れそう」

「ここだと趣味でやるくらいしかやらないものね。あ、そうだ。智香、料理番組やればいいじゃない。こうやって教える動画撮れば、結構稼げると思うわよ」

「無理無理、そこまでの腕ないよ」

「そう? 調理実習の時はクラスの中で一番上手に見えたけど」

「慣れてるだけだよ。才能ある子いたら、すぐに抜かされるから。美咲ちゃんとか、やる気出したら私よりできると思う」

「あー、あの子、天才型っぽいものね。図工の時、粘土細工で美術品みたいなとんでもないの作ってたし。あれで商売したら絶対稼げると思うのに、本人は全然興味ない感じだから勿体ないわ」

「……美咲ちゃんと比べるとさ。私達ってお金に執着してるよね」

「それは言っちゃダメよ……」


 二人は自分達で言って気を滅入らせる。

 稼げる能力があるにも拘わらず、稼ぐことに興味を示さない美咲を見て、物欲に囚われた自分達が卑しく思えてしまうのだった。


「今はフルーツタルト作ってるんだから、お金の話は止めて調理に専念しましょ」

「そだね」


 二人は気を取り直して調理に専念する。



 形を作ったパイ生地を冷蔵庫で冷やし、次に中に入れるクリームを作り始めた。

 アーモンドクリームとカスタードクリームの材料をそれぞれのボウルに入れ、智香と麻衣が分担してかき混ぜる。

 二人とも混ぜるという同じ行為をしているが、手際は一目瞭然の差があった。


「相変わらず手際良いわね。智香って料理どうやって覚えたの?」

「どこでと言われても。どこも……強いて言うなら学校の調理実習で、かな? 前の学校の」

「え? 調理実習だけ?」

「うん。お義母さんの手伝いで一緒に作ったこともあったけど、すぐ任されるようになったから、そんな教えてもらえることもなかったし」

「普通に凄くない? やっぱり智香、才能あるんじゃない」

「調理実習と同じでレシピなぞるだけだよ」

「私は失敗しまくってるんだけど……」

「いきなり難しいの作るから。簡単なのから、ちょっとずつ慣れていけばできるようになるよ」

「簡単にはいかないのね……。あ、今デジカメで動画撮っていい? 後で参考にする為に」

「えー、撮られるのはちょっと恥ずかしいよ」

「顔は映さないから」


 麻衣はポケットからデジカメを取り出して智香の手元へと向ける。

 だがその時、手が滑ってデジカメが手から離れた。


「あ」


 宙に飛んだデジカメは、そのまま智香がかき混ぜていたボウルの中へと落ちる。

 そしてアーモンドクリームの塊に突き刺さった。


「あーーーーー!!!」


 それを見た麻衣は悲鳴を上げた。


「わっ」


 智香は即座にデジカメをアーモンドクリームから抜き、俎板の上へと置く。

 すぐに取り除いたものの、デジカメにはべったりとアーモンドクリームが付着していた。


「私のデジカメがぁーー……」


 俎板前に駆け寄った麻衣はクリーム塗れになった自分のデジカメを見て嘆く。

 そして智香から受け取った濡れタオルで、悲しげな表情になりながらそのクリームを拭き取った。


 綺麗に拭き取り終えると、起動確認の為にデジカメを操作する。


「壊れてないわよね?」


 動作はスムーズに行われ、不具合が出そうな気配はない。


「そんな簡単には壊れないよ。町の商品だし」

「そ、そうよね」


 しかし、麻衣は不安そうに起動確認を続けていた。


「心配なら買ったお店で診てもらったら? 修理は何度でも無料でやってくれるみたいだから、壊れてないか確認してもらえると思うよ?」

「タダで直してくれるの?」

「うん。ゲーム機買った時に聞いたけど、町で売ってる電化製品は全部永久保証だって。十年後でも二十年後でも、壊れたらタダで直してくれるよ」

「へー! 凄い」


 麻衣は表情を和らげる。

 無料で修理してもらえるのなら、何も心配することはなかった。


「でも、態と壊した場合は説教とか罰として修理費取ったりすることもあるんだって」

「そうなんだ。普通に使ってる分には何の問題もないわよね」


 麻衣は改めてデジカメを智香の手元へと向ける。


「結局撮るんだ……」


 一度仕出かした麻衣だったが、それで取り止めるようなことはしなかった。

 今度はより一層気を付けることにして、動画を撮り始める。


 智香はアーモンドクリームは先程デジカメが落ちた部分を取り除き、冷やしていたパイ生地の下層に詰める。

 そしてアーモンドクリームを底に敷き詰めたパイ生地をオーブンに入れ、次に果物を切り始めた。


「今のうちに上に乗せる果物を切るんだ。大きさは大体でいいから均一になるように」


 参考の動画とのことで、智香は気を利かせて簡単に工程を解説しながら作っていた。

 だが、その横で動画を撮っていた麻衣はというと……。


「あー、美味しい。桃って当たり外れあるけど、町のは当たりしかないわね」


 撮影だけでは手持ち無沙汰だった麻衣はデジカメは向けたまま智香が切った果物をつまみ食いしていた。


「……」

「でも、そんな甘くないわね。良い桃は思いっきり甘いイメージがあったけど。調理用だからかぁ。タルトにするといい感じになるのかしら」


 麻衣は果物を食べ、独り言のように感想を言っていた。


「麻衣ちゃん、ふざけてる?」

「えっ、どうしたの? 私、何かやらかした?」


 特に何かした自覚のなかった麻衣は突然言われて動揺する。


「……」

「あ、食べたらダメだった? 量多いから、ちょっと味見しただけだけど」

「ダメじゃないけど、今料理してるんだから、もっとこう……」


 文句を言おうとした智香は途中で口を止める。


 これは趣味でやっていることというのを思い出したのである。

 智香にとって料理は仕事であった為、真面目にやるのが当然の感覚であった。

 これは趣味でやっていることなので、そこまで真剣にやる必要がないことは智香も分かってはいたが、撮影が入ったことで緊張感が高まり、いつの間にか昔の感覚に戻っていた。


「ごめん、勘違い。私が間違ってた」

「そ、そう?」


 麻衣はもう食べようとはせず、困惑しながら動画撮影に専念する。

 そんな様子の麻衣に、智香は申し訳なく思いながら心の中で深く反省した。


(そういえば、料理を楽しく思ったことなんて、これまで一度もなかったな……)


 仕事でやるのと趣味でやるのとは全く違う。

 親戚夫婦に出す料理を作っている時は失敗が許されない状況であったので、楽しむ余裕もなかった。


「……私も趣味で料理やってみようかな」

「お、やりましょ、やりましょ。智香が居てくれた方が私も早く上達できそうだわ」


 麻衣は表情を一転させて歓迎する。

 智香もやることになれば、教われる機会が増える為、願ったり叶ったりのことであった。

 困惑させてしまったことを申し訳なく思っていた智香は、その喜ぶ姿を見て安堵する。


(これからは楽しめるように頑張ろ)


 智香は心の中で意気込んだ。



 焼き上がったパイ生地にカスタードクリームを盛り付け、その上にカットした果物を二人で乗せる。


「これ乗せ終わったら、上にシロップ塗って完成だね」

「結構簡単に出来たわね。やっぱり智香の腕がいいからかしら」

「ここの調理器具がいいからだよ。本当なら冷やしたり温めたりで何時間もかかるんだよ」

「何時間も? うわー、地上だったら私、絶対料理やってないわ」

「あはは、料理って結構めんどくさいからねー」


 喋りながら果物を乗せ終えると、智香はその上に刷毛でシロップを塗る。

 手早く表面全体に塗り、フルーツタルトが完成した。


「はい、完成」

「わー、ぱちぱち」


 二人は拍手をして完成を祝う。


「立派なのができたわね。二人で食べきれるかしら」

「優奈ちゃんのところにお裾分けする? 喜んでくれると思うよ」

「そうね。優奈は手作りだと逆に喜ぶわね……」


 手作りは余程好みに合っているものでなければ、市販で安く買えるものよりも味は下である。

 その為、他人には渡し辛いものであった。

 だが優奈ならば女の子の手作りということで、味がどうであれ大喜びするということを智香と麻衣は分かっていた。


「女子の手作りで喜ぶなんてまるで男子だわ」

「男子みたいって言うと、優奈ちゃん傷つくと思うよ」

「あー、優奈も大概男嫌いよね。男嫌いというよりは眼中にない感じかしら」


 お裾分けから優奈の話になり、その話題で盛り上がる。


「女子のこと凄い好きだよね」

「まるでスケベな男子みたい……って言うのはダメよね」

「スケベなところはあるけど、それだけじゃないというか、純粋に好きなんだなって感じがしない?」

「分かる。着せ替えや髪型変えて遊んだりすると、滅茶滅茶褒めてくれるし、隙あらば可愛がってくるわよね」

「うんうん、同級生から可愛がられても困るけど」

「ねぇー」


 二人は笑いながら優奈について話す。

 欲望に満ち溢れた行動をする優奈であったが、愛情もそれ以上に感じれた為、色々目につくところはあっても割と好印象なのであった。


 その後、出来上がったフルーツタルトを持って優奈の部屋を訪れた二人は、予想通り大喜びする優奈の姿を見て、笑みを浮かべるのだった。

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