43話 パンツ一丁相撲
何かと思った三人は相撲会場の中を覗く。
会場の中央。
天井から吊られた屋根の下にある土俵では、パンツ一丁となった美咲が、ずんぐりむっくりの巨体な力士ロボットを相手に相撲を取っていた。
美咲は力を振り絞って力士ロボットを押し込もうとするが、体格差が歴然である為、びくともしない。
しかし、それでも楽しそうにやっていた。
麻衣達は土俵の近くで見ていた真琴のところへと移動する。
「何やってるの?」
「あ、麻衣。今、美咲が相撲体験してるとこ。麻衣達もやりに来たの?」
真琴が訊くと、麻衣は首を横に全力で振る。
「やらない、やらない。声が聴こえてきたから覗いただけ。流石にあんな格好でやるのは無理よ」
美咲はパンツ一丁であった。
特に指定されていた訳ではなかったが、美咲は相撲のイメージから自主的にそのような姿になっていた。
「廻しもあるよ」
真琴が土俵の横にある机を指さす。
机の上には長い布が畳まれて置いてあった。
「変わんないわよっ。寧ろ、あれ付ける方が嫌だわ」
麻衣が素早く切り替すと、真琴は笑う。
「だよな。美咲も最初つけたけど、付け心地悪いって言ってすぐ外してたし」
「女子がつけるものじゃないからじゃないの? 女子が相撲するのって何か変よ」
相撲は男がするものというイメージが定着していた麻衣は、受け入れられない様子であった。
しかしそこで智香が呟く。
「でも、ちょっと楽しそうかも」
「嘘ぉ?」
「相撲がとかじゃなくて、あれ見てると、昔お父さんに遊んでもらったこと思い出しちゃって……」
巨体な力士ロボットに必死に頑張っているその姿は、大人相手にじゃれ合って遊んでいる子供を連想される。
そこから智香は実の父に同じように遊んでもらった思い出が蘇っていた。
智香の言葉で真琴も思い出す。
「あ……うちも死んだ父ちゃんに、あんな風に遊んでもらった記憶が……あー、でも、うーん……」
しかし途中で 頭を捻り唸り始めた。
そしてその横で同じように思い出していた麻衣は嫌そうに顔を歪める。
「やなこと思い出しちゃったわ」
「あ、ごめんっ。余計なこと言っちゃった?」
移住してきた子の過去は、あまり良いものではない。
麻衣の言葉で、そのことを思い出した智香は慌てて口を噤む。
「いいわよ。大したことないから」
「う、うん……」
麻衣は特には気にしていない様子であった。
だが、智香達は気まずくなって押し黙る。
会話がなくなり、その場に静寂が流れた。
そんな空気に麻衣も気まずくなり、そこで投げやりに話し始める。
「ほんと、大したことないわよ。うちは母子家庭だったから、父親じゃなくて、オバ……母親の彼氏なんだけど、そいつが糞野郎だったってだけよ。最初は猫被ってたから、昔はまんまと騙されてたわ。本性知ってからは必死に戦ったんだけど、外面良いせいで誰も味方になってくれなくて、母親も……って、止め止め、止めましょ。もうどうでもいい話だわ」
麻衣は途中で話を打ち切った。
その時、土俵から美咲が飛んでくる。
「ぬわー」
そして気まずい空気になっていたのを察してか、わざとらしく麻衣達の前へと転がってきた。
「あ、麻衣達だ。相撲対決しよ」
「やんないわよ」
「えー、やろうよー」
麻衣に即座に断られるが、美咲はめげずに食い下がる。
そこで優奈が名乗りを上げる。
「じゃ、じゃあ、私やろうかな」
「おー、流石優奈。ノリがいい」
誘いに乗ってくれたことを喜ぶ美咲。
その後ろでは、優奈の考えが分かっていた麻衣がジト目で見ていた。
しかし、それでも優奈としてはこのチャンスを逃す訳にはいかない。
麻衣の視線は気にせず、優奈は服を脱ぎ始めた。
待っている間、美咲が喋る。
「ロボット相手も楽しかったけど、やっぱり対決は人とやりたいよね。真琴は相手してくれなくてさぁ。侍体験も忍者体験も嫌がるし」
「荒っぽいのは嫌なんだよ」
「全然荒っぽくないよー。荒っぽくないでしょ?」
美咲は他の子に意見を聞こうとした。
だが、すぐさま優奈が窘めに入る。
「まぁまぁ、そこは好みの違いってことで。代わりに私が付き合うから楽しくやろうよ」
衣服を脱ぎ去ってパンツ一丁となった優奈は手を叩き、レスリングをするようなポーズをとる。
「おー」
不満を漏らしていた美咲だったが、やる気満々の優奈を見て、そちらに興味を移す。
二人は早速土俵に上がり、向かい合って構えた。
「あ、ルールどうする? あたし、相撲のルールなんて全然知らないけど」
「適当でいいよ、適当で。早くやろ」
「ほーい。それじゃあ、はっけよーい……のこった」
合図と共に、美咲と優奈がぶつかり合う。
両者ともお尻に手を回し、持ち上げようと踏ん張る。
「ほらほら、もっと踏んばらないと持ち上げちゃうよー」
五年生にしては少し大柄の美咲と、極めて平均的な身長の優奈。
その体格差から美咲の方が優勢であった。
しかし、優奈は勝負の行方など気にはしていない。
半裸でぶつかり合い、優奈は美咲の肌の感触を全身で感じる。
「……お、おほっ……おほーっ!」
感極まり、優奈は歓喜の雄叫びを上げた。
その声で組み合っていた美咲が噴き出す。
「ぶはっ。何その声ー。もしかして笑わせに来る作戦? 優奈め、なかなかやるなー」
「おほー!」
優奈の趣味を知らない美咲は、自分の身体を堪能されていることには気付かず、楽しく相撲を続ける。
そんな美咲を相手に、優奈は喜んで抱き付いていた。
そして、その様子を土俵の外にいる麻衣と智香は冷めた目で見る。
「……私達は他のところで遊んでいましょうか」
「そうだね」
麻衣と智香は相撲会場から出て行こうとする。
「え、置いてくの?」
「真琴も行きましょ。あんなの見てても何の得にもならないわ」
「そ、そうなん?」
麻衣達は相撲をする二人を置いて出ていった。