42話 歓楽街観光
神社の案内を終え、女の子達は歓楽街へと戻ってきた。
歓楽街に入って少ししたところで、教師ロボットが足を止める。
「これで大和村の中は一通り巡りました。ここからは暫く自由行動にしましょう。午後からは着付けの授業を行いますので、五時間目の開始時刻になりましたら、またこの場所に集合してください」
案内が終わり、自由行動時間に移る。
女の子達はそれぞれ好きなところへと散って行った。
優奈はいつものように、智香と麻衣の二人と共に行動する。
「どこ行く?」
「どこでもいいよ」「私も。優奈に任せるわ」
行き先の希望を訊いたが、二人とも希望はなかった。
「ありゃ。二人ともあんまり興味ない感じ?」
「別にそういう訳じゃないけど……」
智香は言い淀む。
それをフォローするかの様に麻衣が言う。
「あんまい面白そうなところじゃないわよね。去年遠足で似たようなところに行ったけど、何にもなくて滅茶苦茶つまらなかったわ。お店には古臭いものしか売ってないし、伝統家屋だっけ? あんなの見ても何一つ面白くなかったわ。先生は何か喜んで観てたけど、私達はつまんなくて殆ど駐車場でお喋りしてただけ終わっちゃったわよ」
「あぁ……まぁ、こういうところは、あんまり子供向けじゃないよね」
優奈は二人の食いつきが悪かった理由を理解する。
歴史的な建造物や伝統文化財は、子供が見て楽しめるものではなかった。
だから案内の時も町とは違う全く新しい場所に来たにも拘わらず、女の子達のテンションはあまり上がっていなかったのだ。
「でも、ここは多少は楽しめると思うから、適当に見て回ろうよ」
優奈達はとりあえず適当に見て回ることにした。
三人は歓楽街をぶらぶらと歩く。
歓楽街には店がずらりと立ち並んでおり、風車や花札などの昔ながらの玩具や、八つ橋や五平餅といった郷土色の強い食べ物など、町には売っていない品が販売されていた。
「へぇー、何でも揃っていると思ってたけど、町にも意外と売ってないのがあったのね」
町には何でも売っていると思っていたが、ここで見て初めて売っていなかったことに気付かされる。
麻衣達は歩きながら、お店を見ていく。
「え!?」
三人がそれぞれお店を見ていると、突然智香が驚いたような声を上げた。
「ん? どうしたの?」
「あそこに凄いのが売ってる」
智香が指さす先のお店。
刀剣屋という看板がつけられたその店の店内には、日本刀や薙刀などの刃物系の武器が多く並べられていた。
商品はどれも丁重に陳列されており、お土産屋のような軽い雰囲気ではない。
「何あれ、本物?」
その厳格な様子の店内は、麻衣も一目で真剣ではないかと疑うほどであった。
三人は刀剣屋の前へと近づく。
そこで商品を確認すると、正しくそれは真剣であった。
「本物だわ……。こんなの売ってていいの?」
真剣と予想したのは正解であったが、本当に売っていたことに麻衣達は困惑せざるを得なかった。
店頭で売り子をしていた店員ロボットが、そんな麻衣達に近づいてきて答える。
「シェルター内では日本の法律は適用されていませんので、何も問題ありませんよ。また、うちの商品は全て、生きた人間の細胞は傷つけられないよう特殊な加工がされていますから、
安心安全です」
真剣でも特殊加工による安全対策はされていた。
無論、鈍器としての殺傷力は持っているが、他人の近くで振り回したり、無差別に物を破壊するような危険な行動を起こすと、即座にロボットが駆けつけて説教を受けることになる。
店員ロボットの説明を受け、麻衣と智香は納得した。
そして智香は興味津々に刀を見る。
「本物の刀かぁ。私、ちょっと欲しいかも」
RPGゲーマーの智香にとって、武器は馴染み深いものであった。
「これ、目茶目茶高いわよ」
麻衣が値段を指摘する。
見ていた刀の値札には五万円という値段が記されていた。
その商品だけが高いのではなく、周りの商品も万単位のものがごろごろと並べられている。
それらの武器は美術品に分類していた為、敢えて高い値段をつけることで物としての価値を高めていた。
五万円なら、五年生のお小遣いでも十ヶ月で得られる金額なので、決して買えない値段ではない。
自分で稼げるようになれば、もっと早く貯まるだろう。
町の物価は安く、将来的にはお金を持て余す子もでてくるだろうことから、エンドコンテンツ的なものとして、高額な品の販売をすることにしたのである。
当然のことながら、町に来てまだ間もない智香には手が出せるものではない。
「ほんとだ……。でも、一本ぐらいほしいかも」
「その気持ち分かるわ。これだけ高いものだと家宝にできるわよね」
小物雑貨をコレクションしていた麻衣が理解を示す。
「高すぎてまだ買えないけど、いつかお金が貯まったら買いたいな」
「そのいつかが、ほんといつになることやら」
「ねー」
二人はまだまだ他に欲しい物が沢山あった為、お金が貯まる見込みは当面のところなかった。
まだここでは何も買えないので、三人は刀剣屋から離れる。
それからもお店を見ながら歩いていると、麻衣が路地裏に少し大きな建物があることに気付く。
「あそこの何かしら?」
三人は路地に入り、その建物のところへと足を運ぶ。
公民館のようなその建物は、入口の横に「相撲会場」と書かれた看板が立て掛けられていた。
「相撲? 女子しかいないのに何でそんなのがあるんだろう?」
「え? 女子相撲とかあるでしょ」
不思議に思う麻衣に、優奈は少し驚いて言った。
「そんなのあるの? でも、やりたがる子なんて殆どいないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」
伝統の一つということで大和村に組み込まれたものだったが、女子相撲はスポーツの中でも知名度は低めで人気もあまりなかった。
「……授業でやったりしないわよね?」
「やっぱり、やりたくない?」
「当たり前でしょ。誰があんな裸みたいな恰好で取っ組み合いしたいと思うのよ」
「え? 私」
「優奈はそうでしょうね……。何か別の意味でも嫌になってきたわ」
女子相撲を知らない麻衣は、褌だけでやるものだと思って、強い拒否反応を示した。
一般的には衣服も着用してやるものであるが、その勘違いに気付いた優奈は訂正するのを躊躇う。
何とかして上手く唆せないかと考え始めたその時、相撲会場の入り口から声が聞こえてくる。
「ぬあーーーー」
それは美咲の声であった。