40話 着せ替え
四人は商店街の衣料品店へと移動する。
「んじゃあ、ぱぱっと適当に買ってくるから」
「ちょっと待った」
店に入ると、真琴は早めに済ませようと売り場へ駆け出そうとしたので、優奈が引き止める。
「ん?」
「真琴ちゃんって、お洒落とかに気を使わない派だよね? 適当に選ぶくらいなら私に選ばせてよ。余分にかかる分は出すから」
「え、お金出してくれるの? 何で?」
「着る服何でもいいなら、私の好みで着飾りたいなと思って」
「ふーん? あたしなんか着飾っても何も面白くないと思うけど、優奈がしたいって言うなら好きにしていいよ」
「やったっ」
真琴に頼みを受け入れてもらい、優奈は喜ぶ。
そのやりとりを聞いていた美咲が尋ねる。
「もしかして時間かかりそう?」
「ん? うーん……かかるかも。もしよかったら美咲ちゃんも……」
「じゃあ終わるまで他のとこで遊んでくるー」
優奈が言い終わる前に、美咲はそう言ってあっという間に衣料品店から出て行った。
「え、ちょ、早っ」
早すぎる行動に、引き止める間もなかった。
唖然とする二人を真琴が笑う。
「いつものことだから。美咲のことは放っておいて服選ぼうぜ」
美咲とよく遊んでいた真琴は、そのような突発的な行動にも慣れていた為、全く気にはしなかった。
美咲と一番仲の良い真琴がそう言うので、優奈と麻衣は去ってしまった美咲のことは放っておくことにして、買い物を始めることにする。
麻衣は自分のものを、優奈は真琴のものを選ぼうと、それぞれ分かれて店内を回る。
優奈は真琴を連れ、まず始めにスカートが並ぶ売場へと来た。
「何にしようかな。せっかくだからスカート履かせてみたいかも」
「えぇー、スカートはいいよ。あたしには似合わない」
「そうかな? 意外と似合うと思うけど」
「そんな柄じゃないし。あたしはズボンとシャツで十分」
「まぁまぁ、試着ぐらいしてみようよ。真琴ちゃんはいつもズボン系しか履いてないから、普段と違う方向性の格好をしてみるのも面白いかもよ」
優奈は若干強引にスカートを勧める。
これまでスカートなど殆ど履いたことがなかった真琴は気が乗らなかったが、優奈に差額分を出してもらうことになっているので、渋々従うことにした。
――――
「な、なぁ、これは流石にちょっとキツいよ」
真琴が試着室から顔だけ出してそう言った。
「大丈夫、大丈夫、真琴ちゃんなら着こなせる」
「こんなの絶対無理。フリフリ過ぎる」
「まだ着てないの?」
「着たことは着たけどさ……」
「じゃ、見せて」
「ダメ……凄く変だから恥ずかしい」
「変にはならないでしょ。似合ってるはずから見せてよ」
「いや、ほんと変なんだって」
「大丈夫、私が似合うと思って選んだんだから。絶対変じゃないから見せて」
恥ずかしがって渋る真琴に、優奈は自信をつけさせるよう強く言い切った。
その力強い言葉に押され、真琴は渋々ながら見せることにする。
「ぅー、笑うなよ」
ゆっくりとカーテンが開けられる。
そして現れたのは、ひらひらとしたドレスのような洋服を身にまとった真琴であった。
真琴は恥ずかしさから顔を赤くしてもじもじさせている。
「可愛い! 目茶目茶似合ってるじゃん! 超可愛いよ」
優奈が思わず声を上げると、真琴は益々恥ずかしそうにする。
「そ、そんなお世辞言うなよ」
「お世辞なんかじゃないよ。ほんと可愛い」
「嘘つけ。あたしが可愛い訳ないだろ」
「いやいや、ほんとだって。いつものボーイッシュな感じの格好も可愛いけど、お嬢様チックな格好も素敵だよ。可愛らしい服装ながらも、節々から真琴ちゃんの天真爛漫さが窺えて、よりその可愛さを惹き立たせてくれている」
「ちょっ、何言ってるんだ。言い過ぎだよ」
優奈に捲し立てるように褒められ、真琴はしどろもどろになる。
「まだまだ。髪型がショートカットなのもいいね。お転婆な姫様って感じ。薄ら日焼けした肌も、普段元気に外を駆け回ってる様子が想像できていいよ。お転婆姫の真琴ちゃん可愛い、素敵、ソウ キュート」
「うぅぅー」
怒涛の如く褒められた真琴は、恥ずかしがってカーテンで身体を隠してしまう。
その様子を通りがかりに見ていた麻衣が軽く笑いながら言う。
「優奈は誰にでもそうやって褒めるから。でも、結構似合ってるわよ」
「やっぱりこれ恥ずかし過ぎる……。まだ裸の方がマシだ」
真琴は気軽に引き受けたことを後悔していた。
そんな真琴を余所に、優奈はまた服選びを再開する。
「じゃあ次のやつ選んでくるね」
「面白そうだから私も一緒に選ぶわ」
真琴の反応で興味を持った麻衣も、面白がって参加をする。
「勘弁してくれー」
真琴は二人の玩具にされるのだと悟り、店内に悲鳴を轟かせた。
それから真琴は何度も着せ替えをさせられた。
少し派手なギャル風のミニスカート姿。
「可愛いっ」
女子高生のような落ち着いた色のブレザースカート。
「あ、可愛いっ」
どこぞのアイドルのようなカラフルな衣装。
「あ、超可愛いっ」
目まぐるしく次から次へと試着が行われる。
真琴はかなり嫌がって(恥ずかしがって)いたが、極度の貧乏性が仇となり、何だかんだで、されるがまま渡された衣装の試着を続けていた。
試着はそれからも続き。
カーテンが開くと、今度は夏を感じさせられる半袖シャツと短いデニムスカート姿の真琴が現れる。
「これ! これでいい! これで決まりな」
試着室から登場した真琴は即座にそう言い出した。
スカートではあったが、短いデニムのスカートは一見短パンのようにも見える為、見た目は真琴の普段の格好に近かった。
だから、これに決定して早いとこ終わらせようと思ったのである。
「それ気に入ったの?」
「うん、すっげー気に入った。これなら動き易いし、着慣れた感じがして一番落ち着く」
「そう? まだ色々着せたかったけど、気に入ったんだったら、それにしようか」
優奈はそう言って麻衣を見ると、麻衣も了承するように頷いた。
買う服が決まり、着せ替えが終わったことに真琴は喜ぶ。
「よっしゃ。やっぱりあたしには可愛いのは似合わないよな。いつもみたいな格好が一番」
「うん? いつもの姿も可愛いよ」
「は? どこがよ? いつもなんて男子が着るようなのしか着てないだろ。、別に可愛くないっしょ」
「確かに男子でも着れそうな服だけど、女の子が着ることで可愛くなるんだよ」
「何言ってるんだ。女子が着ても同じだろ」
「分かってないなぁ。男子と女子とは素材が違うから、着た感じも全然違うんだよ。そのTシャツだってほら、夏用の薄い素材だから、可愛らしい胸の膨らみがはっきり分かるし。短パンもお尻の形から前の部分までしっかりと見て取れる。それに足のところの隙間が結構空いてるから、しゃがめばパンツも見え……」
「止めろ止めろ。持ってる服まで着れなくなるじゃんか」
語り始めた優奈を真琴は慌てて止める。
その顔は仄かに赤くなっていた。
「ほら、もう決まったんだから会計済ませるぞ。まったく、割に合わねーよ……」
真琴は優奈を急かし、買い物を済ませる。
下取りとの差額は奢ってもらったが、真琴は何故か損した気持ちだった。