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37話 移住の後処理:偽装ロボット

 町の地下。

 地下深くに建造されている町の更に下には、町を支えるインフラ設備や工場が建てられていた。

 発電施設に浄水施設、食物生産工場や物品製造工場、ロボット生産工場などなど。

 どれも町を裏から支える重要な設備である。


 そんな施設が立ち並ぶ中にある研究施設。

 そこに優奈の姿があった。


 優奈の前には、いくつもの培養カプセルが設置されており、中には麻衣や真琴などクラスメイト達の身体が裸体で入っていた。


 彼女らは本物ではなく、細胞から作った複製体である。

 その脳は不完全で、自我を持つことはない。

 女の子の回収方法に問題があったので、これらを使い、死亡を偽装することにしたのである。

 既に取り掛かっており、地上では順次女の子達は死亡扱いとされていっている。



 優奈が端にあるモニタの一つに視線を向ける。

 そこでは葬儀の様子が映し出されていた。


 遺影には智香の写真が飾られており、参列者はそれほど多くはないものの、智香の親戚にあたる人間や元担任の教師などが来ていた。

 そんな中、喪主の親戚夫婦は参列者から責めるような視線を受けて、肩身を狭そうにしている。


 智香の死因は熱中症ということになっていた。

 初夏の日差しが強い中、智香は道端で倒れているところを発見されたのである。

 警察は家出をした智香は行く当てもなく外を彷徨い、初夏の炎天下に長い間晒されたことで、熱中症で倒れたとの見解を見せた。

 家出をした原因は広まっていた為、親戚夫婦が殺したも同然と思われていたのだ。

 とんだとばっちりであるが、元々の原因は親戚夫婦にあったので、優奈は同情できなかった。

 これで智香は地上では死亡扱いとなったので、騒ぎになることはもうない。


 他の子もそれぞれの状況に合わせて、死亡を偽装していく。

 だが、いくら死因を変えても、家出していたという共通点がある以上、一斉にだと関連性を疑われ兼ねない。

 そこで優奈はただ死亡偽装するのではなく、それぞれの女の子に扮した偽装ロボットに暫く生活させ、落ち着いたところで死亡を偽装することにしたのである。


「そうだ。偽装ロボットの確認もしないと」


 思い出したように呟いた優奈は隣の部屋へと移動する。


 そこでは偽装ロボットの細胞コーティングが行われていた。

 全身金属で出来たロボットに女の子の培養した細胞を覆い被せ、本物そっくりの姿へと加工する。

 光学迷彩ならば簡単に見た目を偽装することができるが、このロボット達は地上で暫く生活しなければならないので、感触や怪我でバレてしまわないよう表面を生きた細胞で覆うことにしたのだ。



 優奈は完成品が並べてある端へと移動する。


 完成していたのは麻衣を含む、町の女の子三体であった。

 衣服も着用されており、すぐにでも任務を開始できる状態となっている。

 完成した偽装ロボットは三体とも無表情で棒立ちをしているが、本物そっくりの顔立ちで、見た目での判別は不可能な程の精巧さであった。

 内部の方も女の子の脳をスキャンして取ったデータから、性格と記憶を完全再現しており、本物さながらの振る舞いができるようになっている。


 優奈は一番前に立っていた麻衣の偽装ロボットに近づく。

 そこで麻衣の偽装ロボットのスカートを捲り、パンツの腰回りのゴムを引っ張って中を覗いた。


「うん。完璧な仕上がり」


 表層は全て細胞でコーティングされており、衣服で隠れる部分も手抜きはしていない。

 パンツの中を覗かれる麻衣の偽装ロボットだが、変わらず無表情でピクリとも動かない。


「これだけ精巧に作られると、任務を終えた後もコレクションとして手元に残しておきたくなるけど、生ものだからちょっと厳しいんだよね」


 生きた細胞であるので、当然のことながら時間経過での劣化は避けられない。

 しかも長期稼働前提で作られてはいないので、新陳代謝機能が乏しく、もって一年程度であった。


 優奈は少々惜しく思うが、本物とは町でいつでも戯れられるので、仕様を変えるようなことはしなかった。


「でも、任務だけで終わらせるのはちょっともったいないから、少しだけ遊ぼっと」


 そう言って、優奈は管理システムを操作するパネルを呼び出す。

 そして麻衣の偽装ロボットを起動させた。

 すると、無表情で微動だにしなかった麻衣の偽装ロボットの目に光が宿る。


「ん? あら? 優奈?」


 きょとんとした表情を見せる麻衣の偽装ロボット。

 そこに優奈が飛び掛かる。


「うおー! 麻衣ちゃん! うおー!」

「え? きゃああああ!?」


 優奈は麻衣の偽装ロボットに抱き付き、衣服を剥ぎ取ろうとする。


「何!? 何なの!?」


 麻衣の偽装ロボットは驚いて抵抗する。

 だが、優奈は構わず続けようとしていた。


「はぁはぁ、麻衣ちゃーん」

「止めなさいって、この……!」


 手を止めようとしない優奈に、麻衣の偽装ロボットは怒って、その身体を押し出して腹に蹴りを入れる。


「ごふっ」


 腹部にモロに蹴りを食らった優奈は、そのまま後ろに倒れた。

 そこで麻衣の偽装ロボットに向けて言う。


「偽装ロボット、休止モード」


 すると、麻衣の偽装ロボットはぴたりと動きを止め、その状態で動かなくなる。


「うーん、反応良好」


 優奈は苦笑いしながら身体を起こす。

 任務用に完全になりきって振る舞うよう設定されていたので、製造者の優奈相手でも容赦ない対応であった。


 優奈は気を取り直して再び操作パネルを呼び出す。

 そして今しがたの記録をリセットして、麻衣の偽装ロボットを再起動させた。

 麻衣の偽装ロボットの目に光が戻る。


「ん? あら? 優奈? また会ったわね」


 偽装ロボットには町での記憶はインプットされていない。

 なので、この麻衣の偽装ロボットは、優奈とはショッピングモールで一度会っただけという認識となっていた。



 普通に話しかけてきた麻衣の偽装ロボットだが、すぐに周りの様子に気付く。


「え? ……何ここ?」


 ここは偽装ロボットの最終工程ルームであったので、部屋ではロボットが加工されている真っ最中だった。

 いくつものロボットが細胞を被せられ整形されていくという、現代人が見たら狂気を感じさせられる光景である。


 町に来る前の記憶しかなかった麻衣の偽装ロボットは、状況が理解できず不安げな表情になる。


「あぁ、場所については気にしないで。大したことないから」

「気にしないとか無理でしょ。何なのここ。怖いんだけど」


 麻衣の偽装ロボットは怯えを見せる。

 しかし、これは本当に怯えている訳ではない。

 偽装ロボットに自我はなく、それぞれの女の子のデータから行動を予測して反応しているに過ぎなかった。

 とはいえ正確に模倣して反応する為、相手をするなら本人と同じように対応しなければならない。


「ええっと、これは映画のセットだよ。何だったっけ? 未来から来た殺人ロボットと戦うやつ。今度は日本が舞台らしくて、ここに撮影用に作られたんだ」


 怖がっていては話が進められないので、優奈は安心させる為に適当なことを言って誤魔化す。


「そうなの? でも、何で私こんなところに……」

「そんなことより! 麻衣ちゃん、また会えて嬉しいよ。ずっと会いたかったんだ」


 言葉に被せて話を遮った優奈は、麻衣の偽装ロボットの両手を握り、再会を歓迎する。


「そ、そう? 私もまた会いたいと思ってたわよ」


 会いたがっていたことを言われ、麻衣の偽装ロボットは満更でもない様子を見せた。


「嬉しいっ。実は麻衣ちゃんに伝えたいことがあるんだ」

「ん? なぁに?」

「私、麻衣ちゃんのこと好きになっちゃった。恋人として付き合って」

「え……えぇ!?」


 突然告白されて、麻衣の偽装ロボットは驚く。


「ね、いいでしょ? もう夜も眠れないくらい好きなんだ」

「ほ、本気で? 優奈って、そっちの趣味だったの?」

「ううん。違うけど、盗撮男から助けてくれた時の姿が凄くかっこよくて、女の子なのに一目惚れしちゃった」

「あんなのただ騒いだだけよ」

「それが凄いことなんだよ。大半の人は面倒だから助けようともしないのに、麻衣ちゃんは助ける為に騒いでくれた。それも大の大人相手に。凄く勇気のある行動だと思うよ」

「そ、そうかな?」


 真面目に褒められ、麻衣の偽装ロボットは照れる反応を示す。


「正義感あってかっこよくて、顔も可愛い。これはもう女の子でも好きになっちゃうよ」

「そんな、私なんて全然よ。今までそんなこと誰からお言われたことないし」

「言われたことないの? こんなに素敵なのに。性格も良いし顔もいい。顔だけじゃない、体格も完璧だね。細過ぎず太くもなく、胸は丁度いい感じの大きさで、お尻も可愛らしい大きさ。あ、衣服も可愛いね。ファッションセンスも最高。文句の付けどころのない最高の女の子だよ」

「止めてっ、そんなに褒めないで」


 優奈がとことん持ち上げると、麻衣の偽装ロボットは恥ずかしがりながら顔を隠し始める。

 その顔は真っ赤であった。


「全部本心だよ。こんな素敵な子見たことない。ねぇ麻衣ちゃん、私の恋人になってよ」

「で、でも、同性の恋人だなんて……」

「麻衣ちゃんは男がいいの?」


 優奈が尋ねると、麻衣の偽装ロボットは全力で食いを横に振る。


「ううん、男は絶対嫌」

「なら、私と付き合おうよ。絶対に幸せにするよ」

「う……そんなこと言われても私、分かんないわ。これまで誰かと付き合うなんて考えたことなかったし」


 麻衣の偽装ロボットは困った様子であったが、嫌そうにはしていなかった。


「じゃあさ、試しにキスしてみようよ」

「キ、キス?」

「うん。身体が受け入れられるかどうか。それで嫌じゃなかったら付き合おうよ」

「でも……」

「一回してみるだけだから。ね?」

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけなら」


 麻衣の偽装ロボットは押しに負けて、キスをすることにした。

 覚悟を決めた様子で目を瞑る。

 優奈はそんな麻衣の偽装ロボットの肩に手を置き、身体を引き寄せた。

 互いの顔が近づき、唇がふれる寸前、優奈が呟く。


「偽装ロボット、休止モード」


 そして優奈は離れる。

 麻衣の偽装ロボットは目をぎゅっと瞑った状態で止まっていた。


「麻衣ちゃんってば、ちょろいんだから」


 そう言いながら麻衣の偽装ロボットの額をつつく。

 言い包め易いところも本物と一緒であった。


「これだけそっくりなら、地上での活動も問題なさそうだね。問題は女の子達が戻りたいと言い出した時なんだけど……」


 死亡の偽装で地上での問題はなくなった。

 だがその代りに、地上で死亡扱いとなった女の子が帰還を望んだ時、どうするかという問題が出てくる。

 無論、それは事前に分かっていたことだったので、優奈は解決策として二つの案を考えていた。


 一つは、地上に児童養護施設を作り、そこで暮らしてもらうというものである。

 元の戸籍とは別の新しい戸籍を与えれば、地上で新たな人生を送ることができる。

 だが、それは完全な元の生活とは言えない。

 女の子が移住前に居たところに戻りたいと願っていたら、望まぬ生活を送らせることになってしまう。


 もう一つの案は、仮想世界に繋ぎ、地上に戻ったと思い込ませるというものである。

 これならば現実的に不可能だった完全な元の生活に戻ることができる。

 しかしこれは当然のことながら、女の子を騙すということになる。

 最後まで気付かなければ本人にとっては現実であるが、女の子を騙すというのは優奈の気が進まなかった。


「最適解がないのが辛いところ。一番は帰りたいって言い出す子が出てこないことなんだけどね。一応、準備だけは整えておいて、出てこないことを願おう」


 優奈は二つの案を実行する準備だけはしておくことにして、帰還を望む子が出てこないよう町の運営を頑張ろうと意気込んだ。

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