33話 活発で無頓着な子達
地下深くに建造された女の子達の楽園、悠楽町。
町では今日も女の子達が平和に暮らしていた。
初夏となり、暑さを感じる今日この頃。
小学校の運動場では、三人の少女がパンツ一丁で、バスケットボールをして遊んでいた。
「優奈、パスパス」
真琴が手を振り、パスを求める。
しかし美咲がそれを阻止しようと、ボールを持つ優奈に迫る。
「させないよー」
美咲はボールを取ろうと手を伸ばした。
優奈は取られまいと身体を前にしてガードするが、そこで半裸だった二人の肌が触れ合う。
「おふ……」
胸やお腹の柔らかな感触を全身に感じ、優奈は脱力する。
美咲はその隙を逃さず、素早く手を伸ばしてボールを奪った。
「取った! とりゃっ」
そして、その場からゴールに向けてシュートした。
ボールは放物線を描いて飛んで行き、吸い込まれるようにゴールへと入る。
「いえーい、ポイントゲットー」
シュートが入り、美咲は喜ぶ。
点を取られてしまった真琴は二人の方に近づきながら文句を言う。
「何やってんだよー、優奈ー」
「ごめーん」
予てから、半裸で遊んでいるという話を聞いていた優奈は暇を作り、二人の遊びに参加させてもらっていた。
しかし生肌での触れ合いは優奈には少々刺激が強く、気が散ってしまって、バスケットボールの結果としては散々であった。
「二対一なのに、逆に不利になってる気がするぞ。優奈、運動苦手?」
「いや……苦手じゃないけど、そんな得意でもないから……」
優奈は言葉を濁す。
生肌が触れ合って集中できなかったなど言えるはずがなかった。
「んー……やっぱり、三人でバスケやるのは無理があるんじゃねーか?」
「先生達、入れる?」
「それは止めとこーぜ。いつまで続けるか決まってないしさ」
少ない人数の穴埋めとして、教師ロボットを遊びに参加させられるようにしていたが、教師と生徒の関係であるので気を遣うらしく、女の子達はもうあまり利用していなかった。
最初の頃は面白半分で参加していた子達も、お店の充実と共に徐々に減って行き、今では運動場で遊ぶ子は真琴と美咲ぐらいしかいなくなってしまっていた。
(教師で穴埋めはダメだったかぁ。解決するには根本的に人数を増やさないといけないのかも。そろそろ次の受け入れについても考えるべきかな)
優奈は新たに女の子を勧誘することを考え始める。
「結構遊んだことだし、とりあえず休憩するか。休みながら次何するか考えようぜ」
このまま続けても試合にならないので、三人は休憩することにした。
三人はゴールポストの横で、腰を掛けるなどしながら喋る。
「三人で出来る遊びって何かある?」
「審判にすれば丁度だよ。テニスとかで」
「審判になった奴、つまんねーじゃん。美咲、審判やるの?」
「え、やだ。じゃあ鬼ごっこは?」
「三人で鬼ごっこは、ちょっと少なすぎじゃね? うーん、何にもねーな。三人だと二人の時よりも遊べることが減ってる気がする。あ、優奈が一緒に遊んでくれるのは嬉しいけどな」
真琴は誤解されないようフォローする。
お転婆な真琴も住民として選ばれただけあって、他者を気遣える心優しい子であった。
フォローの為、真琴が優奈の方に顔を向けた際、その視線に気づく。
優奈は先程から会話にも入らず、無言で舐めまわすように二人の半裸姿を見ていた。
「優奈、何見てるんだ?」
「え? な、何も?」
「思いっきり見てたじゃん。何かついてた?」
真琴はゴミでもついているのかと、自分の身体を確認しだす。
それを見た美咲も軽く、その確認を手伝う。
簡単に確かめるが、当然のことながら何もついてはいない。
「何もついてないよ」
二人は何を見ていたのかと言わんばかりに、優奈に視線を向けた。
図らずも追い詰められるような形となり、優奈はしどろもどろになる。
「いや、ついてたとかじゃなくて……その……」
「何だよ。はっきり言えよ」
「ごめっ……た、ただ、服装がちょっと大胆っていうか……ええっと……そ、そうっ、外でこんな格好してる子、これまでいなかったから珍しくて」
優奈は苦し紛れに半分認める形で、なるべく邪な気持ちが出ないように言った。
「何だ、そんなことか。他の子は暑くても、あんま脱がないもんな。あたしは男子とばっか遊んでたから、夏場とかは普通に脱いでたけど。結構田舎だったし」
「あたしは元から気にしない性質だからー。前は脱ごうとしたら怒られてたけど、ここは誰もそんなこと言わないから楽」
その場で適当に言った言い訳だったが、真琴と美咲の二人は疑うことなく信じて会話を続ける。
「先生とか女子に煩いのいるよな」
「うんうん。プールの着替えの時とか、あたし気に全然しないのに」
二人は羞恥心が芽生えていないようで、素肌を見られることに関しては無頓着であった。
その姿に、優奈は心が癒される。
最近の子供はネットの普及により膨大な情報に晒されているせいか、大人びている子が多くなっていた。
優奈も麻衣や智香達と接している際、高校生くらいの子と話しているように思えたことが、度々あった程である。
故に、真琴や美咲のような無頓着で無邪気な姿を見せる子は稀少であった。
「優奈は? 珍しいとか言ってた割に、すんなり脱いでたけど」
「私もそんな気にしないかな」
「盗撮されるぐらいだもんな」
「あはは……」
優奈が笑って誤魔化すと、二人もつられたように笑う。
和やかに雑談を続けていると、美咲が唐突に言う。
「お腹空いた。ご飯、食べに行こ」
「また唐突だな。けど、もうお昼の時間かぁ」
校舎の時計は、丁度十二時の時刻を指していた。
「ラーメン屋行きたい」
「寮の食堂でよくね?」
「今、こってり豚骨ラーメンの気分なんだよぅ」
「金かかるじゃん。食堂ならタダで食べれるのに、勿体ないよ」
「もうラーメンの口になっちゃったから。一人でも行くー」
美咲は一人で行こうと走り出す。
すると、真琴が慌てて止める。
「待て待て、あたしも行くから勝手に行くな。つうか着替え。服忘れてるぞ」
渋っていた真琴であったが、美咲がもう行くことを完全に決めてしまっていた為、已む無く付き合うことにした。
優奈も付き添い、三人でラーメン屋へと向かう。