24話 レクリエーション終わり
そして時間終了となり、女の子達が教室に戻ってくる。
見つかって事前に待機していた優奈は、教室に入ってくる女の子達を待ち受けていた。
そのうちに智香と麻衣の二人も戻ってくる。
「二人とも見つからなかったみたいだね。良かった良かった」
優奈を見た麻衣は、顔を歪ませて抱き付く。
「ごめんね。私のせいで捕まっちゃって」
「謝ることなんてないよ。ただ、かくれんぼで見つかっただけだし。ビー玉没収も逃れられたしね」
「これ返すわ」
麻衣はポケットに詰め込んでいたビー玉を返そうとする。
だが、優奈はその手を止めた。
「いいよ。それは麻衣ちゃんに託したものだから、もう麻衣ちゃんのもの」
「そんな訳にはいかないわ。助けられた上に、自分で見つけてもいないものをこんなになんて受け取れないわよ」
「実は私、それにあんまり興味ないんだよね。だから返されても困るというか、他の子に配っちゃうと思うから、欲しいなら遠慮なく貰っちゃいなよ」
「そうなの? うーん……いらないって言うなら貰っちゃおうかしら」
「うんうん、それでいいよ」
元々、喉から手が出るほど欲しかったものであった為、麻衣は躊躇いつつも結局貰うことにした。
「……優奈ってイケメンね」
「でしょ。惚れてもいいんだよ」
「ちょっとくらい謙遜しなさいよ」
三人は笑う。
「でも、流石に一人でこんなに貰っちゃうのは感じが悪く思われそうね。じゃあ……これだけ貰って後は返すわ」
「いいの?」
「ええ、いらないなら他の子にでも分けてあげて。一つも見つけられなかった子もいるかもしれないから」
「分かった」
優奈は麻衣からビー玉を受け取る。
ついでに智香一緒にも取り過ぎた分を渡した。
大量のビー玉を受け取った優奈はみんなに向けて言う。
「ビー玉、一つも手に入れられなかった子いるー? 沢山あるから分けてあげるよ」
優奈がそう言うと、暗い顔をしていた一部の女の子達が表情を明るくさせる。
彼女達は見つけられなかったり、没収された子達であった。
優奈はその子達に配り、更に余った分は欲しい子にじゃんけんなどで配分して配る。
こうしてレクリエーションの授業もみんな楽しく和やかに終わった。
そしてその放課後。
「普通に売ってるじゃない……」
雑貨屋がオープンしたとのことで、早速足を運んだ優奈一向が商品棚で見つけたのは、宝探しに使われていた工芸ビー玉だった。
しかも値段は一個五十円とお手頃価格である。
欲しくても取れなかった子の為に、救済措置は施されていたのだった。
「必死になって馬鹿みたいだわ。何なのよ、もう」
「まぁまぁ、ちょっとは得したからいいじゃん」
「うーん……」
得したのは確かだったが、一個五十円の為にあのような感動劇を演じたと思うと、麻衣はどこか釈然としなかった。
文句を言っても仕方ないので、麻衣達は気持ちを切り替え、商品を見て回る。
店内にはインテリアや日用品、食器類などの雑貨が多く揃えられていた。
例に漏れず、どれも高品質で低価格である。
小物雑貨が好きの麻衣には堪らないところだったので、機嫌はすぐに良くなっていた。
「これ凄く可愛いっ。あ、これもっ。あーん、いいのあり過ぎて迷っちゃーう」
麻衣は買い物カゴへ商品を入れたり出したりしている。
好きな物ばかりで目移りしながらも、上機嫌で買い物をしていた。
そんな麻衣を傍目にしながら二人も商品を見る。
智香は商品棚を見ながら、ぽつりと言う。
「自由にお金使えるのっていいよね。私、お小遣いなかったから、こうやって好きに買い物できるようになって嬉しい」
女の子達が喜ぶ声を聞く度に、優奈は町を作った甲斐があったのだと再確認する。
町を作るのは簡単ではなく、これからもやらなければならないことが沢山あるが、女の子達が喜んでくれることを糧に優奈は頑張ることができるのだ。
微笑ましく思う優奈に、智香は言葉を続ける。
「でも欲しい物沢山あって、つい使い過ぎちゃうんだよね。お金すぐ足りなくなりそう」
そこで買い物をしていた麻衣が突然振り向く。
「そう! 全然足りないのよ。どれも安いけど、欲しいの全部買ってたらすぐになくなっちゃうわ」
「だよね。次、お小遣い貰えるのは来月だっけ? 貰える金額は下がるんだよね?」
智香の問いに優奈が答える。
「次は五千円だよ。学年かける千円だから、今年度が五千円で、来年度が六千円」
「えっ、半分なんだ。ちょっと少な……ううん、五千円も貰えるのは凄いけど、これだけ欲しいのが多いと少し足りないや」
小遣いを貰っていなかった智香でも、五千円という金額は小学五年生にしては多いと理解していたが、買い物したいものが沢山あったが為に物足りなく感じてしまっていた。
そしてそれは麻衣も同じであった。
「もうちょっとくれてもいいわよね。お小遣い以外でも貰えることってないのかしら?」
「小遣い以外でかぁ。あと貰えるのは元旦にお年玉をちょっとくらいじゃないかな? それ以上欲しいなら、自分で稼ぐしかないけど」
「自分で稼ぐこともできるの? どうやって?」
「モノ作りとかサービスでだね。こういう小物雑貨作ったり漫画描いたりして、お店で販売できるレベルのものができたら、売り上げに応じてお金が入ってくるようになるし。あとは前言ったテレビ出演でもお金貰えるよ」
「お店で販売できるものって無理じゃない。そんなの作れないわよ」
町で流通している商品はクオリティが非常に高いが故に、簡単に作れるようなものではなかった。
「まぁ技術はこれからの授業で身に着けていくからさ。才能があれば、そのうち作れるようになるかも?」
衣食住が保障されており、物価も安いこの町では、小遣いだけで十分充実した生活が送れるようになっている。
その為、仕事は一部の才能を持った子だけが行うことを想定していた。
「才能なんてないわよ……。テレビに出るのもあんまりしたくないし、他に何かないの?」
「他は個人間での取り引きくらいかな。友達同士とかでいらなくなったものを売買するとか、何か頼みを聞いてくれた謝礼で支払うとかね。ただ、トラブルの原因になる恐れがあるから、十分注意してやらないといけないけど」
「あんまり稼げそうにないわね。やっぱり、お小遣いだけで我慢するしかないのかしら」
良さそうな手段がなくて麻衣は落胆する。
智香も残念そうな顔であった。
節制も教育には必要なことである。
お金のやりくりを覚えるのは女の子達の成長にもなる為、いくら町の商品はコストを度外視できるからと言って、無暗矢鱈にお金を渡すことはできなかった。
残念がる二人であるが、そこで優奈が言う。
「私にキスしてくれたら、謝礼に千円あげてもいいよ」
「キスって……優奈、あんた本当にそっちの趣味なの?」
「もち。私みんな大好き」
優奈は隠すことなく自信満々に暴露した。
「優奈ってちょっとズレてるから、そう言われても私が思ってるのと何処まで合ってるのか分からないわ」
普段のナルシストや博愛の言動、そして時代のずれた価値観などから、優奈は若干変わった人間であると思われていた。
そのことが影響して、レズであることを素直に認めても、それが一般的な同性愛者の像と何処まで一致しているのか分からなかったのだ。
そのおかげか二人はあまり優奈に引いた様子はない。
「麻衣ちゃんも実はそうなんじゃないの?」
「私? 違う違う。男嫌いだけど、そっちの趣味に走ることはしないわよ。私は独り身志向なの」
麻衣は何処か誇らしげな様子であった。
そこで智香が徐に優奈に訊く。
「キスって一回で千円なの?」
「おっ、やる?」
「やらない、やらないっ。ちょっと訊いただけだからっ」
智香は全力で首を横に振った。
「結構お得だと思うんだけどなぁ。お金貰える上に、初回に限り、私のファーストキスもついてくるんだよ」
「それはいらないかな」「うん、凄くいらないわね」
智香と麻衣は一斉に拒否した。
「酷ーい」
即行で拒否され、優奈は嘆く。
性的趣向を暴露しても、三人の関係は何も変わらなかった。