21話 五人でお喋り
五人は備え付けられていた椅子に腰かけて、喋りながら分け合ったお菓子を食べ始める。
店内は飲食可で自動販売機もあるので、どこででもおやつタイムをすることができた。
「ゲームセンターって凄く楽しいわね。最初はそんな期待してなかったけど、見くびってたわ」
「あたしも美咲に連れられてきたけど、こんなに遊べるところだとは思わなかった」
麻衣と真琴が感想を述べる。
優奈以外はみんなゲームセンター初体験であったので、概ね好評であった。
だが、そこで美咲が言う。
「楽しいことは楽しいけどさー。あたしはちょっと期待外れかな」
「え、そうなの?」
優奈は不満の声が出たことに驚く。
「だって、凄いロボットとか沢山いるから、ゲームセンターの機械も凄いのだろうなーって思ってたのに、意外と普通だったんだもん。普通のゲームセンターも楽しいけど、超ハイテク技術を使ったバーチャルな電脳世界で、モンスターと戦ったりできるのかと思ってたから、拍子抜け」
町の機械類の多くは、現代のものとはかけ離れた高性能のものであった為、美咲はゲームセンターの機械も未来的なものだろうと期待していた。
それが普通のゲームセンターに毛が生えた程度のものだったことで、肩透かしを食らってしまっていたのだ。
不満を漏らす美咲を麻衣が宥める。
「今の世の中に合わせて作ってるみたいだから、それは仕方ないんじゃない? まぁ、ちょっと、あべこべなところもあるけど」
女の子達には、時代に生きる人々の感性に合わせて暮らし易いよう、現代風のデザインにしたと説明されていた。
優奈の趣向によって決められたデザインだったが、実際に生まれ育った時代とあまりにも違う景観では、精神的に疲弊したり、ホームシックを引き起こすリスクが高くなるということがある。
「それはそうだけどー。でも、ちょっとくらい作ってくれてもいいのに」
美咲は不満たらたらの様子であった。
作れるのに作らないというのが強い不満に繋がっていたのだ。
それを受け、優奈は考え込む。
優奈としては、女の子全員がこの町で幸せになってくれることを望んでいる。
ある程度の不満が出ることは仕方ないにしても、出来る限りは減らしておきたかった。
優奈はみんなに尋ねる。
「あのさ、みんなはこの町について不満な点とかってある?」
「不満? 特にはないけど、スマホのことくらいね。私は」
そう麻衣が答えた。
スマートフォンがないのは、麻衣が前々から不満を漏らしていたことだった。
不満は減らしたかった優奈でも、理由があって排除したものは変えられない。
続いて美咲が元気に手を上げて答える。
「はいはーい、あたし遊園地とかでっかいプールとか作ってほしいー」
「それ、不満じゃなくて要望……別にいいけど」
美咲の意見は最早要望であった。
だが、それを受け、他の子達も口々に言う。
「それなら私は雑貨屋が欲しいわ」
「あたしはスポーツクラブがいい」
「じゃあ私はゲームの専門店」
他の子達からも次々と要望が出てくる。
まだ町の施設は少ない為、作ってほしいものは山ほどあった。
そして女の子達は欲しいお店の話で盛り上がり始める。
不満の話はすっかり何処かへ行ってしまっていた。
要望は優奈が聞きたかったこととは少し違っていたが、それも町に対しての立派な意見であるので、町開発の参考として真面目に聴くことにした。
「本屋行ってみた? 漫画とかの男や大人のキャラが、全部女の子や変な動物キャラに替わってて笑えるよ」
「ほんとに? そういえば、さっきやったゲームも女の子しかいなかったわね」
みんなでわいわいと喋っていると、ふと智香が言う。
「前から気になってたけど、優奈ちゃんいつもスカート広げたまま座るよね」
智香や麻衣はスカートを下に敷いて座っているのに対し、優奈は広げたまま座っていた。
それを見て麻衣が言う。
「優奈って、そういうところあるわよね。ねぇ、みんな聞いてよ。この町に来る前、優奈と一回会ったことあるんだけど、その時、優奈ってば、おっさんにスカートの中、盗撮されてたのよ」
「「えー!」」
皆が驚く。
「マジかよ。やべーな」
「大丈夫だった?」
真琴や智香が口々に優奈を心配する。
盗撮は女の子達にとって重大事件であった。
「あの時、気をつけなさいって言ったのに、全然直ってないわね」
「あはは……。でも、もう気を付ける必要はないんじゃない? ここには女子しかいないんだから」
女の子しかいない町であるので、いくら解放的になっても男に着け狙われることはない。
監視カメラにより、優奈に盗撮されていることは別ではあるが。
「そうだけど、一応マナーとして気を付けるべきよ。危険がなくても、そんな無頓着だと女子力落ちちゃうわ。智香もそう思わない?」
「えっと、そうだね。やっぱりパンツとか見えっぱなしになるのは恥ずかしいから、隠しておいた方がいいよ」
智香は麻衣に賛同する。
バーであられもない姿を晒していた時の記憶は、さっぱりとなくなっていたようだった。
二人はマナーとして気を付けるよう言うが、そこで美咲と真琴が言う。
「あたしは別にパンツ見えても気にしないけど」
「この前、バスケやってた時、暑くてパンツ一丁でやってたもんな」
「マジで!?」
パンツ一丁と聞き、優奈が食いつく。
そこのところは監視カメラで見ていなかった為、優奈は知らなかった。
真琴の話を聞いて、麻衣は呆れる。
「流石にそれはどうかと思うわよ」
子供達の警戒心が強くなっていた近年、外でパンツ一丁になることなど、普通の子からしたら破天荒な行いにしか見られない。
羞恥心が薄い美咲や真琴は少数派であった。
「まぁ、いいんじゃない? ここは皆が幸せに暮らせる楽園なんだから、固いことは言わず自由に生きるのが一番だよ」
「そう、優奈良いこと言った。みんな楽しく自由に生きようよ」
優奈の言葉に美咲が共感する。
女の子達にとってこの町は以前の環境から解放され、自由に生きる為の場所であった。
「うーん……問題あるような気がするけど、本人達が気にしないならいいわ」
釈然としない麻衣であったが、町の意義も理解していた為、それ以上言うことはできなかった。