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17話 調理実習

 休み明けの月曜日。

 小学校一棟の家庭科室で、女の子達は調理実習を行っていた。


 コンロと流し台が付いたお馴染みのテーブルにそれぞれの班が分かれて、各々自分で決めた料理を頑張って作っている。


「わぁ、智香ちゃん手馴れてるね」


 優奈が向かいで調理していた智香の手元を覗く。


「うん。うちでは私が食事作ってたから」

「へー、凄い。これは期待できそう」


 この調理実習は、優奈が女の子の手料理を食べたいが為に企画したことであった。

 美味しい料理は町でいくらでも食べることができるが、だからこそ手料理はこのような時でないと食べられない。


「優奈ちゃんも手際良いね。ちょっと雑だけど」


 智香が優奈の前にある荒くブツ切りにされた果物を見て言った。


「あはは、私は効率重視だから」


 優奈の調理スタイルは、味と栄養が良ければ見た目は二の次という男の料理であった。

 一人暮らしで自炊していた為、見た目を気にしない作り方が身体に染みついていたのだ。



 二人が楽しく話す一方、麻衣はその隣で四苦八苦していた。


「二人とも上手過ぎよ。こんなところで女子力に差が出てくるなんて……」

「私らは経験者だからね。初めての子が殆どだから気にすることないよ」


 麻衣だけでなく、他も苦戦している様子を見せている子は多い。

 みんなはまだ小学五年生である為、ちゃんとした調理を行える技術を持っている子は稀である。


 いきなり一人での調理であるが、タッチパッドでの分かり易いレシピや、周りを見回っている教師ロボットのサポートのおかげで、初心者の子達でも何とか調理を進めることができていた。

 調理器具も刃物は人間の生きた細胞は切れないよう特殊な加工がされているなど、安全に使える仕様となっているので、初心者でも安心である。


 その時、隣の調理台で声を上げる女の子がいた。


「よーし、乗せちゃうよー」


 その子はパックに入った大量のイクラをスプーンで海鮮類が入っている丼に盛り始める。


「はーい、はーい」


 どこぞのお店のように掛け声を出しながら盛っていく。

 そのパフォーマンスを周りの子達は面白そうに見ていた。


 麻衣がその光景を見て言う。


「私もああいうのにすれば良かったわ……。今からでも変えられないかしら」

「まぁまぁ、私も手伝うから頑張ろ」


 簡単そうなレシピの子を羨む麻衣を智香が窘める。


 作るものを決める際、作り易さまで考えていた子は少なかった。

 初心者でも作れるよう十分なサポートはされていたが、それでもものによる難易度の差は完全には埋まられない。

 難しいところは、できる子や教師ロボットに手伝ってもらいながら、やってもらうしかなかった。


「ここ、どうやって切ればいいの?」

「えっと、ここはね……」


 麻衣は智香に教わりながら調理を進める。

 その様子を優奈は微笑ましく見ていた。


(女の子が仲良く一緒に料理をする姿というのは絵になるね。素晴らしいっ)


 優奈は調理をすることも忘れ、目の保養に勤しんでいた。



 そんなことをしいていると、後ろから一人の女の子が声を掛けてくる。


「あれ? 今日はご飯作るんじゃないの?」


 それはボーイッシュな女の子こと山本真琴であった。

 優奈の前には果物や生クリームなど、一食の料理としては似つかわしくない材料が並べられている。


「ん? あぁ、パンケーキ作ってるんだ。甘い物だけど、国によっては食事として食べられるところもあるでしょ?」

「おぉ、そんな抜け道あったのかぁ」


 納得した真琴は、改めて優奈の前の材料を見る。

 その目はどこか物欲しそうであった。


「分けてあげようか? デザートとして」

「え、いいの?」

「もち。遠慮なく持ってっていいよ」

「じゃあ、ちょっとだけ。ありがとー」


 真琴は少し遠慮気味に、優奈の前からカットされた果物を貰って行く。


 女の子達が悠楽町にやってきて早数日、それぞれ個人差はあれど着実に距離は縮まっていた。

 みんな同じ町、同じ屋根の下で暮らす仲間である。

 これからも共に暮らしていくうちに、徐々に仲良くなっていくであろう。




 そんな感じに調理実習は続き、丁度お昼時になった頃にみんなの料理が完成する。

 女の子達はそれぞれ自分の作った料理を前に、調理台テーブルの席へと着いた。


「「いただきまーす」」


 教師ロボットの号令で一斉に食べ始める。

 給食も兼ねていたので、これが今日の昼食であった。


 だが、食べ始めた女の子達の表情が次第に曇り始める。

 そして、ぼそぼそと近く子同士で喋り出す。


「あんまり美味しくなくない? 失敗じゃないわよね?」

「美味しいことは美味しいけど、ここで食べたのと比べるとね……」


 女の子達は思っていたより美味しくなかったことで困惑していた。

 そこで教師ロボットが言う。


「町で出されるのは理想の配分で調理されたものだから、みんながそれを超えるのは難しいでしょう。

でも、だからと言って自分で作る意味はないということではありません。

人には好みがあって、町で出される料理が一番であるとは限らないです。

研究を積み重ねていくうちに、お店以上に自分が美味しく感じる料理ができるかもしれません。

そして何より、自分で作る楽しさがあります。今日、料理してて楽しいと思った子もいるでしょう? 

料理は趣味として楽しむこともできるんです。楽しく料理を作りながら自分好みの味を追及していく。

そんな趣味を持つのも素敵だと思います」


 これも趣味を広げる為の立派な授業であった。

 決して優奈の私利私欲の為だけではない。


 教師ロボットの話を聞いて麻衣が呟く。


「趣味かぁ。難しかったけど結構楽しかったから、今度やってみようかしら」


 麻衣の他にも、女の子達の間で似たような声が所々で上がる。

 これを機に、料理に興味を持った子が何人か出てきたようだった。



 女の子達は食事を再開する。

 味について不満を言う声はもうない。

 みんな視点を変え、研究者目線で分析するよう考えながら食べていた。


 そんな中、優奈は一人味わいながら堪能する。


(うーん、美味しいっ。特に拘った訳じゃないけど、未来の技術で作った食材はいいね)


 優奈のパンケーキは果物や生クリームが味の軸だったので、調理の腕にはあまり左右されなかった。

 他にも海鮮丼など、素材をそのまま使った料理の子は満足げな表情で食べている。


(でも、メインの食事にデザートだなんて以前は考えもしなかったな)


 優奈はお昼時で空腹であったが、主食よりも糖分を欲していた。

 男であった頃は、食事を甘い物で済ますことなど有り得ないことであり、そんな気分になることもなかった。


 身体自体が以前とは全く違うものであると、優奈は再認識する。

 だが、それと同時に不安感も出てくる。


(趣向が変わった? なら、私の理想は?)


 悠楽町は優奈の少女をこよなく愛するという趣味を基に理想を体現させたものだ。

 趣向が変わってしまったのなら、その理想にもズレが生じる。

 それは優奈にとって望まざることであった。


(今の私は何を望んでいる? 心から望むこと、理想の郷、女の子だけの町を作ること。本当に? 分からない……)


 優奈は窓ガラスに映る自分に向け、自問自答する。

 すぐに答えることはできても、確信は持てなかった。


 優奈は徐に立ち上がる。


「ちょっとトイレ」


 そう言って家庭科室から出て行った。

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