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13話 町の寮

 日が暮れ、外で遊んでいた女の子達もみんな寮へと入る。


 小学校の前に建てられているその寮は、まるでビジネスホテルのように立派に聳え立っていた。

 内装もホテルに近く、床は質の高い絨毯が広がっており、壁や天井などもシンプルながら高級感が溢れている。

 町の方向性故、煌びやかさはないものの、落ち着いた重厚感を全体から醸し出していた。


 寮は女の子達が常に生活をする重要な場所である。

 一般的な学生寮を再現すると、あまりに簡素になってしまう為、このようなホテル寄りの建物にしたのだった。



 一階ロビーには案内所が設置されており、困った時や何か分からないことがある時は、常時待機しているロボットが、二十四時間いつでも対応してくれる。

 また、売店も設置されていて、商店街へ行かずとも、ちょっとした日用品やおやつなどは、そこで買うことができる。


 そして隅には医務室も設置されていた。

 軽い怪我は、各所で活動しているロボットの汎用医療キットで治せるが、割と大きな怪我の場合は、そこで医療を行うことになる。

 未来の医療技術によって、どんな怪我も後遺症を残すことなく完治させることができる。

 それはもう、現代で死亡判定される状態であっても、脳が粉々になっていない限り蘇生可能であるほどだ。

 女の子達の為、医療は万全の体制を取っていた。



 二階は食堂となっている。

 ここでは朝昼晩それぞれ日替わりで食事が無償提供される。

 持ち帰りで弁当として持っていくこともできるが、メニューはその日替わりのもの一種類だけで、違うメニューを頼むことはできない。

 他のを食べたい時は、外の飲食店などに食べに行くしかない。



 三階以降は女の子達の部屋となっている。

 学年ごとに分けられており、各階にはラウンジも設置されている。

 部屋は個室となっていて、少し広めの一室にベッドやテレビなど備え付けてある。

 個室トイレもついているが、風呂は地下の大浴場へ行く必要がある。

 寮内は家政婦ロボットや清掃ロボットが巡回しており、家事などは彼らがやってくれる。


 サポートも万全で、非常に快適に暮らせる場所となっていた。

 女の子達は小学校を卒業するまで、ここで暮らすこととなっている。



 そして地下の大浴場。

 優奈、麻衣、智香の三人は夜になった為、お風呂に入ろうとやってきていた。


 脱衣所にはオープンロッカーが並べられており、端には洗濯物を入れる籠が設置されていた。

 この籠に脱いだ衣服を入れておけば、洗濯されて翌日には部屋へと届けられる。

 ロッカーは鍵も扉もない為、貴重品などを持ってきても、そのまま置くことになる。


 基本的に町には、個人が防犯に使うようなものはない。

 窃盗や紛失しても、ロボット達の能力をもってすれば必ず見つけ出すことができる為、必要ないのだ。

 女の子達にも、そのように言ってあるので、他人のものを盗むようなことはしないであろう。


 三人は着替えを抱え、ロッカーの前へと移動する。


「旅行してるみたいで、ワクワクするわね」

「だね。一度も旅行行ったことないけど、ワクワクするの分かる」


 興奮気味に言う麻衣と智香に、優奈はうんうんと頷く。


 ホテルのような寮である為、二人は若干テンションが高くなっていた。

 ただ、優奈のテンションが高いのは、別の理由であったが。



 ロッカーに着替えを置き、三人は服を脱ぎ始める。

 優奈は躊躇することなく、手早く衣服を脱いでいく。

 だが、麻衣と智香は衣服に手をかけたまま、互いに様子を伺っていた。


「……」

「……」


 手を進めず、牽制し合うように相手の出方を見ている。

 そんな二人の行動に優奈が気付く。


「何してんの?」

「いや……こういうところで、みんな一緒にお風呂入るの初めてだから、ねぇ?」

「ちょっと恥ずかしいよね」


 二人は銭湯に行く習慣などなく、修学旅行も林間学校もまだであった為、集団でお風呂に入ることに慣れていなかった。


「えー、同性ならプールの着替えとかで普通に見せてるんじゃないの?」

「着替えの時は、みんなタオル巻いてるわよ」

「更衣室でも? 別に同性なんだから恥ずかしがることないのに」


 優奈が言ったその時、裏のロッカーからボーイッシュな女の子と、もう一人の少し大柄の子が、ばたばたと出てくる。


「お風呂だ。うぇーい」


 二人は全裸で隠すことなく、燥ぎながら大浴場へと駆け込んで行った。


「ね」

「それは分かってるけどー……やっぱり最初はちょっと恥ずかしいわよ」


 麻衣の言葉に、智香も頷く。

 分かっていても初めてであるから抵抗があった。


「うーん……何で恥ずかしいと思うかなぁ。全然変なものじゃないのに。寧ろ、この上なく美しい」


 優奈は壁に貼り付けてある全身鏡の方を向いて、自分の身体をなぞる。


「このすらっとした腰からお尻のカーブ。控えめな膨らみ。ふっくらとした逆矢印。美しくも可愛らしい完璧な造形でしょ」


 自分の身体に見惚れながら言う優奈に、二人はドン引きの表情をする。


「うわっ……優奈ってナルシストだったの?」

「否定はしないけど、ナルシストっていうよりは女の子限定の博愛? 女の子なら、みんな綺麗だと思うよ」


 二人は優奈の言うことがいまいち理解できず、苦笑いで首を傾げる。

 だが、麻衣は首を傾げながらも僅かに共感する。


「微妙に理解できるかも。汚らしい男よりは全然綺麗なのは確かだしね」

「そうそう、女の子の裸は綺麗なものなんだよ。だからほら、二人の裸も見せて見せて」

「逆に脱ぎ辛いわよっ」


 それから何だかんだで二人も衣服を脱ぎ、大浴場へ向かった。




 寮の大浴場。

 入って正面には沢山の洗い場が立ち並んでおり、所々に大きな浴槽がいくつも設置されていた。


 まだ住民は二十人だけであるが、将来的には小学校の生徒全員がここを利用することになるので、利用が重なったとしても入れるよう広く作られているのだ。

 今は一般的にお風呂に入る時間である為、中では他の女の子もちらほらと見受けられる。


 大浴場に入った優奈、麻衣、智香の三人が洗い場の間を歩いていると、奥の浴槽では一足先に大浴場に入っていたボーイッシュな女の子達が、プールで遊ぶようにお湯をかけあって遊んでいた。


「ねぇ、あの子達、身体洗ってないんじゃない?」


 脱衣所で見かけてから然程時間が経っていなかったので、先に洗ったとは考えられなかった。

 二人は放課後、サッカーをしていた為、汗を大量にかいているはずだった。

 一般的に公衆の浴場で、身体を洗わずに入るのはマナー違反である。


「あれ? 管理人が説明してなかったっけ? お湯が循環してるから直で入ってもいいんだよ」


 浴室内は真冬でも暖かいものの、入る前から身体が冷え切ったりしていて、すぐに入りたい時の為に、直で入ってもいいようにしていた。


 汚れが入ってもすぐ浴槽外に排出される為、中のお湯は綺麗な状態を保つことができる。

 中でおしっこをしても排出されるが、それは人道的に宜しくないので、尿が感知された場合、特定されて後で説教を受けることになる。


「そうなんだ。聞いてなかったわ。じゃあ先入っちゃおっと」


 麻衣が先に入ることを決めたので、優奈と智香の二人も先に浴槽に入ることにした。



 三人並んで湯船に浸かる。


「はふー、凄く気持ちー」


 智香は壁にもたれ掛って、力を抜く。


「凄い開放感。比べるもんじゃないけど、家のとは大きさが段違いよね」


 麻衣は身体を伸ばして入っていた。


 そんな二人を優奈はまじまじと眺める。

 すると、そのことに気が付いた麻衣は、すぐさま手で胸と股を隠す。


「ちょっと、あんまり見ないでよ。優奈には変態の疑いがかかってるんだから」

「変態って……酷いー」


 軽くショックを受ける優奈を見て、麻衣はクスクスと笑って手を退かす。


「ふふっ、冗談よ。この後は食べたら寝るだけね。今日はもう沢山遊んだのに、まだ遊び足りない気分だわ」


 町での新生活に、麻衣は興奮で眠気が全くなかった。


「だったらさ。今日は私の部屋に泊まっちゃわない? ここの学校は始まるの遅いから、ちょっとくらい夜更かししても大丈夫だよ」

「いいわねそれ。賛成」


 泊まりの誘いを麻衣は二つ返事で賛成した。

 だが、そこで智香が不安げな表情になって尋ねる。


「お泊まりなんてしていいの?」

「ダメって言われてないから大丈夫でしょ。禁止される理由もないし」


 優奈は当たり前のように言う。

 ここの寮に門限などの厳しい規則はない。

 友達の家に泊まることは一般的にもよくあることなので、この寮内で他の子の部屋に泊まることは何の問題もなかった。


「そっか。お泊まりしてもいいんだ……」


 優奈の言葉で、智香は目の前が開けたような感覚がした。


 これまで気を使って生きていた為、友達の家に泊まるという発想自体がなかったのである。

 泊まっても問題ないと分かると、不安げだった顔が穏やかな表情へと変化する。


「でも、こういうのっていいよね。友達とお風呂入ってお泊まりして……。こうして同じくらいの女の子と仲良くなれるなんて、前までは夢にも思ってなかった」


 三人は打ち解け合い、もう冗談を言えるくらい仲良くなっていた。

 男だった頃の優奈では考えられないことだった。


「だね。私もこんなにすぐ仲良くなれるとは思わなかった」


 智香も賛同する。

 町の住民は、みんなそれぞれ問題を抱えていた子達である。

 無意識にではあるが、女の子達は互いに仲間意識が芽生えていた。


「私も二人と友達になれて良かったわ。これからも仲良くしましょ」

「「うん!」」


 優奈と智香は希望に満ち溢れた顔で大きく頷いた。

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