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12話 町の商店街

 今日は初日ということで、学校は午前で終わる。

 一通りの説明を終え、五年生教室では帰りの会を行っていた。


「……それで、明日からは通常授業です。登校時間はプリントに書いてある通りだけど、初めは慣れてないと思うから、明日の朝は部屋まで迎えに行きますね。じゃあ、これで帰りの会を終わります」


 帰りの会が終了し、女の子達は各自帰り支度を始めた。


 貰ったプリントを整理する智香に、優奈が喋りかける。


「智香ちゃん。この後、何か予定とか決めてる?」

「ん? えっと、お昼ご飯食べたら、商店街に服買いに行こうかなって思ってる。荷物はできるだけ少な目にって説明の紙にあったから、着替え全然持ってきてなくて」

「あぁ、私も服買わないとな。ね、お邪魔じゃなかったらなんだけど、一緒していい?」

「いいよ」


 智香は快く了承する。

 そのやり取りを前の席から聞いていた麻衣も話に入ってくる。


「あ、私も行きたい」

「じゃあ三人で行こっか」


 こうして放課後は三人で衣服を買いに行くこととなった。



 そんなことを話していると、三人の近くに座っていたボーイッシュな女の子が手を上げて、皆に呼びかける。


「午後からサッカーやるけど、参加する人ー」


 女の子達は視線を向けるが、名乗りを上げる子は一人もいない。


「あれ? 誰もやりたくない?」


 クラスには女子しかいない為、男子がやるような遊びをしたがる子は少数派だった。

 サッカーは一人で試合をすることはできない。

 参加者がいなければ諦めるしかないが、そこで教師ロボットが応える。


「先生で良かったら参加しますよ」

「先生できるの?」

「当然です。ロボットですが、人間と同じようにスポーツもできますよ。何でしたら、人間ではできないプレーも見せてあげます」


 まだ町の人口が少ない為、集団での遊びなどではロボットで穴埋めをする必要があった。

 すると、クラスメイトの女の子の一人が名乗りを上げる。


「それ面白そう! だったら、あたしも参加するー」


 その女の子の声に続き、他の子も何人かも参加を表明する。

 サッカーがしたいというより、教師ロボットがどのような動きをするのかに興味があるようだった。


 教師ロボットと共に、遊びの計画を立てる女の子達を尻目に、優奈達は帰宅をした。





 寮で昼食を済ませた優奈、智香、麻衣の三人は商店街へとやってきていた。


 寮の隣から広がっている商店街。

 少しレトロチックな雰囲気を醸しながらも、平凡な様相をしたその商店街には、様々なお店が立ち並んでいた。

 建設途中の為、奥の方は工事中の看板で塞がれているが、完成している店舗は既に営業を開始している。


 学校は終わっており、女の子達は自由に行動をしている時間であるが、商店街内には殆ど人は居ない。

 開発途中の町はまだそんなに広さはないものの、現在の住民は二十人しかいないので、ばらけると閑散とした状態になってしまうのである。



 人気が少ない中、三人はお店で買ったクレープを片手に商店街を歩いていた。

 麻衣が幸せそうにクレープを頬張る。


「あー、美味し過ぎるー。何で、こんなに美味しいのよー」

「美味しいよね。お昼ご飯も凄く美味しくて吃驚しちゃった」


 麻衣と智香の二人は町の食べ物を褒め称える。


 町に流通している飲食物は、全て食物生産機によって作られている。

 どの食材も食物専用細胞という一つの物質を変化させたものであった。

 細胞から設計して作られているので、一点の瑕疵のない最高の品質のものができるのだ。


 そんな食材で作られた料理を昼食で食べた女の子達は皆、その美味しさに驚いていた。

 智香と麻衣も昼食に感銘を受けた為、食後でお腹が膨れていたが、つい買い食いをしてしまっていたのだった。


「しかも値段もとんでもなく安いわよね。これが三十円とか有り得ないでしょ」


 三人が食べるクレープは大き目のサイズで果物をふんだんに使用した豪華なものであった。

 地上で買おうとするなら千円以上するものであろう。


 商店街で日本通貨は使用できないが、代わりに町専用の通貨によって購買することができる。

 町専用通貨は月に一度、小遣いとして女の子達には、それぞれの学年かける千円の金額が支給されることとなっている。

 今回は最初は物入りということで多めの一万円が配られていた。


 二人と同じくクレープを頬張る優奈が言う。


「営利目的の商売じゃないからねー。利益を上げる必要がないから、みんなにとって真に妥当な価格に設定してあるんだよ」


 町では生きるのに必要な一日三食の食事は、学校や寮の食堂にて無料で提供されている。

 それ以外での間食や別の場所で奮発して違う料理を食べようとするのは、栄養摂取が目的ではない、一時の楽しみを得る為だけの行為であるので、お金を取っていた。

 小遣いだけでやりくりしなければならない女の子達の為に、町で流通している商品は全体的に安価となっている。

 特に後には何も残らない飲食物については、特別安く設定していたのだ。


「でも、こんなに安いと太っちゃいそう。ぅー、ぶくぶくになったらどうしよう」

「その心配はないよ。遺伝子が修復されて、余計な栄養は吸収されないようになったから、どれだけ食べても太らないんだ」


 栄養の偏りも、身体に不足した栄養がある時は、その栄養が含まれた食べ物を本能的に食べたくなる為、偏ることはほぼない。


「そうなの? 凄ーいっ。てか、優奈、色々詳しいわね」

「え? あ、えーっと、ここに来る間に管理者に色々訊いたから」


 優奈は内心ドキッとしながらも適当な理由をつけて誤魔化す。

 移住時期が同じなので、一人だけ詳しいのは不自然であった。


 失敗したと思う優奈であったが、麻衣は特に気にすることなく会話を進める。


「ほんとこの町に来て良かったわ。食べ物安いし美味しいし、友達もできたし」

「うんうん」


 麻衣の言葉に、智香も同意する。

 二人とも優奈の言い訳に納得した為、町に詳しいという話はそれで終わったようだった。


 町のことも気に入ってくれている様子で、優奈的にも嬉しかったが、そこで麻衣が言う。


「あ、でも、スマホがないのはちょっと不満かな」

「持ち込み禁止になってたね。私は持ってなかったから、気にならなかったけど」

「え、スマホ持ってたの私だけ? そっかー。私はスマホ持ってるのが当たり前になってたから、急になくなって不便なのよね」


 麻衣は不満を漏らす。


 通信機器の類は持ち込み禁止となっていた。

 女の子との触れ合い基、対面でのコミュニケーションを重視した為、優奈は思い切って町では使えなくしたのである。

 多少不便にはなるが、携帯電話は便利である反面、常時他者と繋がり続けなければならず、常に対人ストレスに晒されるという問題点もあるので、なくす利点も大いにあった。


 特に女の子達は年頃である為、精神衛生面から考えて、利便性を捨ててでも無くした方が為になるであろう。

 だが、一度便利さに慣れてしまうと、なかなか元には戻れないのは人間の性である。


 それまで使っていた女の子達から不満が出ることも、優奈は予期していた。

 一昔前までは携帯電話などなかったので、慣れれば問題ないだろうと考えていたが、目の前で不満を言われると不安になってくる。


 女の子が強く望めば、シェルターから出て元の生活に戻ることも可能にしていた。

 だがその場合、シェルター関係の記憶は消去され、記憶が欠落した状態で警察に保護されることになる。

 勧誘された記憶もなくなる為、一度出たら戻ることができないどころか、戻りたいと思うことすらできなくなる。

 故に去る場合は慎重に決めるよう、女の子達は学校で説明を受けていた。



 不安に思った優奈は麻衣におずおずと尋ねる。


「戻りたいとかは思ってないよね?」

「当然よ。ちょっと不便だけどその程度だし。前の生活に戻るくらいなら、スマホなんかなくていいわ。だから、そんな心配しなくても大丈夫よ」


 不安が顔に出てしまっていた優奈に向け、麻衣はきっぱりと言い切る。

 女の子達は以前の生活を捨てて移住をしてきたくらいであるので、多少利便性が悪い程度で戻りたいと思うはずがなかった。




 雑談しながらクレープを食べ終えた三人は、商店街の一角にある衣料品店へと入る。


 衣料品店では衣料品の他、鞄や靴などファッションに関わるものが売られていた。

 住民の層から、男物や大人物は一切ないが、代わりに女児用のものを種類豊富に取り揃えている。

 女の子にとって、お洒落は大切である故、衣料品は優奈が特に力を入れている部分であった。


 三人はファッションショー感覚で一緒の服を色々試着する。



 シンプルながらも可愛さのあるシャツとスカート。


「可愛いっ」


 クールでかっこよさのあるカジュアルなジャケットとズボン。


「あ、可愛いっ」


 落ち着いた気品ある、お嬢様系のブラウスにロングスカート。


「あ、超可愛い」

「優奈、褒めすぎでしょ。全部可愛いって言ってるじゃない」


 着替える度に絶賛する優奈に、麻衣が突っ込みを入れる。


「だって、それが本音だもん。みんな、ほんとに可愛い」

「まぁ確かに、どれも可愛い服よね。何か肌触りも凄く良いし」


 無論、衣服の素材も最高の品質で作られていた。

 肌に優しく、着心地も非常に良い仕上がりである。


「でも何か、シンプルというか普通のものばっかりじゃない? 流行りのものとか全然ないし。あと、明らかに古いのが混じってる。このスウェットなんて特に酷いわよ」


 麻衣は、かけてあったトレーナーを取って見せる。

 そのトレーナーは、中央に昭和チックなキャラクターが、でかでかとプリントされたものだった。


「ほんとだ」


 それを見て、智香が笑う。

 売られている衣服は、優奈が集めた参考資料を基に再現したものである。

 優奈の趣向を反映しつつ、現代でも通用するデザインのものを揃えていたが、基準が優奈の子供時代であった為、他の子からしたら、かなり古めかしいものも含まれていた。


「有り得ないでしょ。いつの時代のスウェットよ」

「トレーナー」


 笑う麻衣に向けて、優奈が一言言った。


「ん?」

「スウェットじゃなくてトレーナーだよ。呼び方」

「どっちでも良くない?」

「トレーナーはトレーナーじゃん。何、スウェットって。変でしょ」

「いや、別に……」

「元々、ちゃんとした呼び方はあるのに、何で新しくつけるかなぁ。ややこしくなるじゃん」


 優奈は憤っていた。

 日本のファッション業界では販促の為に、一定の時が経つと、製品の名称そのものを変えてしまうという詐欺紛いのことをやっていた。

 いつの間にか名称が変わっていて混乱した経験から、優奈はその騙しとも言える行いに憤りを感じていたのだ。


 そこで麻衣はぽつりと言う。


「……レギンス」

「スパッツ」


 麻衣の言葉に間髪入れず優奈が訂正した。


「チュニック」「スモック」

「ニット」「セーター」

「デニム」「Gパン」

「……」


 麻衣が言う度に優奈は即訂正した。


「何だか優奈、おっさんみたい」

「ふぐっ! そ、そうかな?」


 真実を突いていたその感想は、優奈にクリティカルヒットだった。


「うん、時代についていけてないおっさんっぽいわ」

「で、でもお店の表示にも、そう書いてあるじゃん。全世代的に見て一番普及してる呼び方だから、管理者もそうやって統一させてるんじゃないの?」

「確かに、そうかもしれないけど」


 優奈が作った店である為、当然のことながら、棚の商品名は優奈が言っていた名称で統一されていた。


「あはは、優奈ちゃんは変な拘りあるんだね」


 智香は笑いながら、陳列されていたフロントにレースがついている白のパンツを取る。

 それを脇に抱えたのを見た優奈が言う。


「へー、智香ちゃんそれ履くことにしたんだ」


 舐めるような視線で、そのパンツと智香を交互に見比べる。


 完全にセクハラであった。

 しかし、同性であった為か智香は気付かず普通に返事をする。


「うん、レースが可愛いかなって思って」

「それいいわね。私もそういうのにしようかしら。下着あんまりいいのないのよね。形が子供っぽいのしかないし、シンプルというか何で白ばっかなのよ」


 陳列されている下着はどれも白色で、インゴムの布面積が広いものだった。

 派手な柄が入ったものは一つもない。

 違いといえば、生地の種類の他、ワンポイントのプリントやレース、リボンなどちょっとした装飾くらいである。


「え、下着は普通白のこういうのでしょ。ぴちぴちで派手な柄とかヤンキーの子供が履くやつじゃん」

「何言ってるの? 柄物なんて、みんな履いてるわよ」


 優奈の子供時代は男女共に白が普通であった為、柄物は素行の悪い親の子供くらいしか履いていなかった。

 その為、派手なものは余り受け入れられなかった。


 逆に自然に受け入れられている麻衣に、優奈はジェネレーションギャップを感じる。


「でも、下着はシンプルが一番だよ。白だと清潔感があるし、汚れてもすぐ分かるじゃん。そもそもカラフルな下着なんて水着みたいで全然ダメ。下着特有の淫猥さがない」

「……さっきの呼び方といい、優奈ってばどんな感覚してるのよ。これまでどんな生活してたのか知りたいわ」


 下着の色への拘りを熱く主張する優奈に麻衣が疑問をぶつける。


 そこで優奈は、また下手なことを言ってしまったと気付いて表情を固めた。

 だが、麻衣の言葉を聞いた智香が慌てて止めに入る。


「麻衣ちゃんっ」


 智香が指でバツを作ったのを見て、麻衣はすぐに気付く。


「あっ、来る前のこと訊くのダメだったわね。ごめん」


 過去を詮索することは、ヴァルサに固く禁じられていたことだった。


 笑顔で流す優奈であったが、詮索を禁じて良かったと心の中で胸を撫で下ろしていた。

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