111話 和解
「それでも私が行かないと、麻衣ちゃん一人ぼっちになっちゃうから」
「智香……」
一緒に町を出ることを決めた二人。
二人を見て、観念した優奈が言う。
「分かった。手配するよ。でも、その前に二人の覚悟をテストさせてもらう」
「何よ。邪魔しようっての?」
「ただの確認作業だよ。これから二人には地上での生活を体験するVR装置に入ってもらう。原理は違うけど、遊園地でやったファンタジーワールドの地上版って思ってくれたらいいよ。そこで本当にやって行けるかどうかの確認をして、大丈夫だったら出してあげる」
「そんなの余裕だわ。前は普通に暮らしてたんだから」
「なら、試させてもらうよ。本当に地上だと思ってもらう為に、VRに入る時の記憶は一時的に封印するから」
――――
「……思い出した」
記憶の封印が解け、二人はVRの世界に居たことを完全に思い出した。
まだ二人は町の外へと出ていなかったのだ。
「何ヶ月もいた感じだと思うけど、実際の時間は一時間も経ってないから安心して」
「「……」」
本当に外で生活していたとしか思えないくらいリアルだった為、記憶を取り戻した二人は呆然としていた。
「で、どうする? 外に出たら、同じ体験をすることになると思うけど」
優奈が問いかけると、二人は正気を取り戻して、即座に首を横に振る。
「私が間違ってたわ。外には、もう出たくない」
「良かった。あっちでもヴァルサが言ったけど、ルールは覆してないからキスとかそういうのはいいよ。私とも関わりたくないなら、極力関わらないようにするから」
「どうして……」
優奈は寂しそうな表情だった。
先程までの高圧的な態度は、いつの間にか消えており、いつもの思いやりのある優奈になっていた。
「許せない気持ちもあるんでしょ? いいよ。避けても。不都合になることはしないから。私は二人が幸せなら、それで十分」
裏の顔を知って内心恐れていた二人だったが、自分よりも相手の幸せを優先する態度を見て、自分達が知っている優奈であることには変わりないと気付いた。
「馬鹿。ちょっと怒ったくらいで、関係終わらせようとしてんじゃないわよ」
「でも、ここまで拒絶されるとは思ってなかったから」
「さっきの話聞いてた? 感謝の方が大きいって。そんな怒りなんて、ビンタの一二発でお終いよ。ねぇ?」
麻衣が智香に同意を求めると、智香は頷く。
「私はもう怒ってないよ」
「そうなんだ。良かった……」
優奈は心から安堵する。
VRで地獄を経験した二人は、それと比べれば騙していたことなど些細なことだと、怒りが吹き飛んでしまい、優奈のことを完全に許していた。
麻衣が優奈に向けて手を差し出す。
「はい、仲直り」
優奈がその手を握ると、二人はガッチリと握手をした。
「一つ言っておくけど、トイレの盗撮だけは止めてよね。流石に恥ずかしいから」
「あぁ、観ちゃった? 安心して。あれは自動で記録されてるけど、実際に観たりはしないから」
「いや、記録すること自体、止めなさいよ」
「何て言うかな……カメラの仕組み自体が現代のと違ってて、町の全部が一緒に撮影されてるから、記録しないっていうのも無理なんだ。検索し辛いように振り分けは止めるから、それで許して」
「えぇー……そういうことなら仕方ないわね。絶対に見ちゃダメよ。約束だからね」
二人は約束をしてから、仲直りの握手を終える。
「でも、まさか智香と優奈で、立て続けに喧嘩することになるなんてね」
仲直りして和やかな雰囲気になったところで、麻衣は近くに居た未久と結衣の存在に気付く。
ずっとそこに居た二人だが、何とも言えない表情をしていた。
「二人とも、どうしたの?」
「いえ、町に残る方を選んで本当に良かったと思って」
二人も優奈と共にVRをモニタで見ていた。
実際に体験した訳ではなかったが、モニタ越しでも悲惨さが十分伝わっており、二人はもし自分だったらと肝を冷やしていた。
「み、見てたの? うわっ、恥ずかしいっ。見たことは全部忘れてちょうだい」
「は、はい……」
泣いたり土下座したりと、とてもじゃないが後輩に見せられるような姿ではなかったので、麻衣と智香は顔を真っ赤にする思いだった。
「……居心地悪いから上に戻りましょ」
「そだね。文化祭も、まだ途中だし」
もうここに留まる理由もない為、五人は町に戻ろうと歩き出す。
「ところで優奈、何で悪役っぽい感じで喋ってたのよ」
「え? だって、そういう雰囲気だったじゃん。真相に辿り着いた皆の為に、ラスボスっぽく演出しないといけないと思って」
「変な演技しないでよ。拗れたの、そのせいもあるからね」
「まぁまぁ、せっかく仲直りしたんだから、野暮なことわ言わずに仲良くしようよ」
「ほんと、しょうがない子ね。でも、一緒にお風呂入ったりするなら、男か女かハッキリさせる必要があるわ」
「それは無理だよー」
和気藹々と喋りながら、五人は町へと消えて行った。