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11話 町の小学校

 町の小学校。

 前後並列に並んだ二棟の校舎、その隣に体育館が接続されており、前方には運動場が広がっていた。

 運動場の端には鉄棒やアスレチック遊具なども設置されている。

 見た目は特に変わったところもない一般的な小学校であった。


 智香は下駄箱で用意された上履きに履き替え、二棟の三階へと上がる。

 そして五年生教室前へと辿り着く。


 教室の中からは女の子達が、がやがやと喋る声が漏れていた。


「みんなが集まったら説明を行いますので、暫しの間、教室でお待ちください。荷物は私の方で新しい住居に運んでおきますね」

「あ、はい。お願いします」

「席の位置は黒板に書いてあります。トイレはそこですので、ご自由に行ってもらっても構いません。では」


 荷物を受け取ったヴァルサはその場から去って行った。


 一人になった智香は緊張した面持ちで、教室の扉に目を向ける。

 中には、これから町で共に暮らす子達がいるのだ。


(よし、頑張るぞ)


 智香は気合を入れてから、扉を開けた。



 机が並べられ、前に黒板が設置されている、ごく一般的な教室。

 中には五年生の女の子達がそれぞれ雑談をしたり、大人しく座ったりして待っていた。


 智香は一先ず黒板で席を確認して、自分の席へと向かう。

 席に着くと、隣に座っていた子が声を掛けてきた。


「こんにちはっ」


 それはニコニコと満面の笑みを浮かべた優奈であった。


「私は安藤優奈。君は?」

「あ、えっと、私は中村智香」

「智香ちゃん、良い名前だね。よろしくー」


 優奈は智香の両手を握り、激しく握手する。

 非常に高いテンションで、智香は気圧されて思わず苦笑いをした。


「ねね、町の様子見た? 凄いよね。シェルターの中に町を丸ごと作ってるなんて」

「そうだね。凄く大きいし空もあって、ここが地下だなんて全然見えない」

「快適に暮らせそうだね」

「うんうん」


 初めは緊張していた智香だったが、優奈が積極的に喋りかけてくるので、あっという間に緊張は解けていた。

 そこで優奈が智香の顔を覗き込みながら言う。


「これから新しい生活だけど、どう? 不安? それとも期待一杯?」

「うーん、期待半分、不安半分かな」

「そっか。ここでは苦しむことなんて何もないから安心するといいよ。みんなで楽しく暮らそう」

「……うんっ、よろしくね」


 智香は笑顔になって頷く。


 もう親戚夫婦の顔色を窺うことも、勉強や手伝いを頑張る必要もない。

 解放された生活が約束されていた。




 二人は雑談に花を咲かせる。

 その間にも住民となる女の子はどんどん教室に入ってきていた。


 何人目かの子が入ってきた時、その子が優奈の姿を見て声を上げる。


「あれ!?」


 その声で気付いた優奈がそちらに向けて手を振る。


「あ、麻衣ちゃーん」


 それは以前、優奈がショッピングモールで出会った少女、麻衣であった。

 優奈に手を振られた麻衣は、表情を明るくさせる。


「きゃー! うっそー、優奈じゃん。優奈もここに着てたの?」


 二人の下に小走りでやってくる。


「久しぶり。元気にしてた?」

「ええ、優奈も元気そうね。また会えて嬉しいわ」

「私もー」


 そんな二人の様子を見て、智香が尋ねる。


「知り合い?」

「うん、縁あって一回遊んだ仲。あ、麻衣ちゃん、この子は中村智香ちゃん。私の席のお隣さん」


 優奈は麻衣に向けて、智香を紹介する。


「渡辺麻衣よ。よろしくね。私の席は……」

「そこだよ」


 黒板を見て探そうとする麻衣に、優奈が教える。

 麻衣の席は優奈の斜め前、智香の前であった。


「滅茶苦茶近くじゃない。ほんと凄い偶然ね」


 麻衣が智香の前の席へと座った。

 するとそこで教室の扉が開き、ヴァルサが入ってくる。


「皆さん、席についてください」


 ヴァルサの言葉で、女の子達は急いで自分の席に着く。



 全員が席に着いたところで、ヴァルサは教卓の前で話を始めた。


「では改めて自己紹介させていただきます。私は管理者。このシェルター、町の全てを管理しているロボットです。一応、私がここでのトップとなりますので、総理大臣や大統領のように思ってもらって構いません」


 その言葉を受け、それまで気軽に話しかけていた女の子達は戦慄する。

 住民に軽く見られるようでは管理などできないので、威厳は持たせる必要があった。


 戦々恐々とする女の子達に対し、ヴァルサは優しい口調で言う。


「今日は、このように皆さんとお話していますが、基本的に私は表に出ることはありませんので、気を楽にしてください。

皆さんが今後接するのは、町で働いている様々なロボット。彼らが私の代わりに、皆さんの助けとなってくれるでしょう。例えば、商店街などのお店では店員ロボット、寮や宿泊場所では家政婦ロボットなど。ここは小学校ですので先生ロボットですね。

ご紹介しましょう。これから皆さんの担任となる教師ロボットです」


 ヴァルサがそう言うと、廊下から一体のロボットが入ってくる。


 そのロボットは、成人女性風の形をした人型ロボットであった。

 レディーススーツを着用しているようなデザインのボディをしており、如何にも仕事のできる女性を連想させられる姿をしている。



 教師ロボットは教壇に立ち、挨拶を行う。


「みんな、初めまして。私がこのクラスを受け持つ教師ロボットです。普通の先生と同じように先生と呼んでくださいね」


 その口調は明るく優しげだった。

 ヴァルサのことで緊迫していた空気が和らぐ。


「今後は彼女が町のことや勉強を教えます。学校外でのことでも対応可能ですので、困ったことや分からないことがありましたら、気軽にご相談ください」


 教師ロボットは教師の仕事だけでなく、親の代わりも兼ねていた。

 メインは教師なので一緒に暮らしたりはしないが、一定の距離は保ちつつも躾など親の役目も担っている。



 教師ロボットの挨拶を終えると、ヴァルサは次の話に移る。


「現在、町の住民はここにいる二十名のみです。最初のうちは寂しいと思うかもしれませんが、様子を見て段階的に受け入れていく予定ですので、次第に賑やかになっていくと思います」


 今回の受け入れは五年生の二十名だけであった。

 初めての受け入れなので、まずは少人数で様子を見ることにしたのである。

 今後はその経過を見ながら、徐々に広げていく予定であった。


「ですが、一つ気を付けてほしいことがあります。

それは他の子との接し方です。ここに来る子はみんな大なり小なり事情を抱えています。

中には他人には絶対知られたくない事情がある子もいるでしょう。

ですから、町では他人の過去を詮索することを固く禁止します。

無論、自分から話す分には構いません。各自の判断で教えてもいいと思うことは隠さなくてもいいでしょう。

ただ、強引に聞き出そうとすることだけは止めてください」


 女の子達は真剣な表情になって頷く。

 皆、自身が特殊な環境にいたので、言いたくないと思う気持ちは十分理解できた。


「また、生まれ育った環境から、善悪の基準がずれている子もいると思います。

これからの生活で修正されるはずですが、知らず知らずのうちに、つい失礼なことや酷いことをしてしまうことがあるかもしれません。

そんな時は怒ってもいいです。でも嫌いになるのは、ちょっと待って、一度考えてみてください。

ここに来るのは住民として相応しいと選ばれた子ですので、悪い子はいません。

ちょっとした勘違いや、そんな気はないのについ言ってしまった、或いは間違えてやってしまったなど、何か起こった時はきっと悪気なくしてしまったことでしょう。

ですから頭ごなしに嫌いになることはしないで、出来る限り許してあげてください。

とはいえ、うっかりでも許せないこともあるでしょう。どうしても仲良くできないならしなくても構いません」


 仲良くしなくてもいいというヴァルサに女の子達は驚く。


「え、いいんですか?」


 女の子達のうちの一人が、思わず聞き返した。


「頑張ってダメなら仕方ありません。人間には相性というものがあるので、無理に付き合い続けても、お互い辛い思いをするだけです。しかし、嫌いだからと言って、意地悪したりするのはいけません。友達にならなくてもいいですが、同じ住民として尊重し、気遣うことはしてください」

「うーん……」


 尋ねた女の子は首を傾げる。

 他の子達もヴァルサの言うことが、いまいち理解できないようであった。


「所謂、大人の対応というものなので、ちょっと難しいかもしれませんね。簡単に言いますと、無理に遊んだりしなくていいけど喧嘩はしないように、ということです。勿論、仲良くなれるなら、それが一番ですけどね」


 みんな仲良くというのは理想ではあるが、夢物語である。

 性格的にどうしても馬が合わない人はいる為、無理に仲良くさせようとすれば、亀裂が生まれるのは避けられない。

 ならばと、争いが起こるのを避ける方向に指導することを決めたのである。


 人間関係によって、幸福の度合いは大きく変わる。

 いくら快適な生活環境であっても、人間関係がギスギスしていては楽しく過ごすことはできない。

 故に町の運営にあたり、住民同士の関わりには細心の注意を払わねばならなかった。


「では、私からの話はこのくらいにして、後は教師ロボットさんに引き継いで、退散することにいたします。最後に、皆さんにはこの町に移住してくれたことを心より感謝いたします。快適な生活を送れるよう全力でサポートいたしますので、この町が皆さんにとっての楽園になってくれれば幸いです」


 そう締め括ったヴァルサは教師ロボットに後を任せ、教室を出て行った。


 それから、女の子達は教師ロボットから、学校生活についての説明や町の案内などを受けた。

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