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109話 町の黒幕・優奈

 四人は建物の群を抜け、橋へと到達する。

 中央の柱の周りは深い谷になっており、下にも柱が続いていた。

 その橋は中央の柱を繋ぐもので、渡り切れば到着である。


 四人が渡ろうと歩み出すと……。


「おっと。その先は町のメインコンピュータだから行ってもらっては困るよ」


 その声で四人が振り向くと、そこには優奈と管理者が居た。

 四人は警戒するように身構える。


「優奈あんた……」

「よくここまで辿り着けたね。凄いよ。立派、立派。でもタイミングが、ちょっと悪いよ。せっかく理沙ちゃん達とライブやってたのに。あの時、ヴァルサを見せたのは失敗だったかも」


 優奈は驚きも慌てもせず、落ち着いた口調で喋ってる。


「……どうやら誘いこまれたみたいですね」

「流石。未久ちゃんは優秀だね。私どころかロボットのことも信用してなかったとは思わなかったよ。町に引き入れるべきじゃなかったかな。麻衣ちゃん達まで巻き込んでくれちゃったし」


 話している優奈に向け、麻衣が言う。


「あんたが黒幕なの?」

「ご名答。私がこの町を作って、皆を呼び寄せたんだ。理由は言わなくても分かるよね?」

「……ハーレムを作る為?」

「そこまであからさまじゃないけど、女の子達に囲まれて楽しく暮らせる場所を作ろうと、ね」

「管理者は何なのよ?」

「これはヴァルサ。最初に説明された通り、未来から来たロボットだよ。私が偶然拾った。いや、厳密には私じゃない。かつて私だったものが拾った」

「?」

「順を追って説明しようか」


 優奈は皆にこれまでの経緯を話し始める。


 優也という男が瀕死の未来人と遭遇したこと。

 そこでヴァルサと使命を託されたこと。

 未来の技術を利用して優奈へと生まれ変わり、町を作ったことを。


「ちょっと待って、あんた本当は男だったの!?」

「それはイエスとも言えるしノーとも言える。正直、自分でも分からないだ、これが」

「どういうことよ?」

「私が作られた手順を教えてあげる。物質の再構築装置、簡単に言うと原子レベルまで粉々に出来るミキサーね。その中に男だった私が入り、グチャグチャになる。それを材料にして、女性の遺伝子設計図を基に再構成。出来た身体にバックアップしておいた記憶を焼き付けて完成。さて、私は元の人間と同じなのか、そう思い込んでいるだけの別人なのか、どっちでしょう?」

「それは……」


 麻衣達にも判断がつかなかった。

 粉々のミンチにされるというのは死んだに等しいことである。

 身体を構成しているのは変わらず、記憶も引き継いでいるが、それで同一人物と言えるのかどうかは誰にもわからなかった。


 そこで智香が尋ねる。


「記憶を取ったらどうなるの?」

「多分、喋ることすら出来なくなるんじゃない? 何せ、生後半年も経ってないのだから。こんな見た目だけど、実は赤ちゃんなんだ」


 衝撃的な暴露が続き、四人は唖然とする。

 だが、未久はすぐに表情を引き締めて問う。


「貴方は、これからどうするのですか?」

「どうも? ただ楽しく暮らすだけだよ」

「未来人に託されたという使命は?」

「勿論、絶滅なんかさせないよ。ただし、生き残らせるのは町の住民だけだけど」

「地上は見捨てると?」

「どうかな……。まだ細かくは考えてないけど、ある程度、時が経ったら地上のシステムを乗っ取るつもり。下手に放置して技術が発展したら、この町が脅威に晒されるからね。でも、そうだね……最終的には、地上も全員女の子だけにしてもいいかもしれない」

「男がいないと滅ぶと思うのですが」

「子供のこと? 未来の技術を使えば、女の子の細胞から精子を作れるから、女の子同士でも産めるよ。だから、町の皆には私の子供を産ませる予定。勿論、好き合ってる子はその子達同士で作ってもいいけどね」


 前に優奈が似たようなことを言った時は、麻衣も智香も冗談と捉えていたが、今は本気にしか聴こえなかった。

 その話を聞いた麻衣が怒り始める。


「ふざけんじゃないわよ! 何であんたの子供を産まないといけないのよ!」

「嫌?」

「嫌に決まってるじゃない。変態野郎の子供なんて」

「酷っ。少なくとも身体は完全な女の子なのに……」

「あれだけ変態行為やってて女だと通用するとでも? 悍ましい」

「記憶に引っ張られていることは否定しないけど、そういう女の子がいても、おかしくないんじゃない? レズって言葉もあるんだしさ。ね? 智香ちゃん」


 優奈は智香に話を振るが、智香は何とも言えない表情で沈黙を貫いた。


 すると、未久が手を上げて言う。


「もう一つ言いですか? ここには態と招き入れたんですよね?」

「そうだけど?」

「何故ですか? 入れなければ私達は何も分からないまま、精々疑いを持つことくらいしか出来なかったのに」

「知ったうえで受け入れてもらう為にだよ。不信感を持ったまま、これまで通り仲良くってのは、なかなか難しいでしょ。その状態から関係を修復するのは大変だし、記憶を操作するのも私の主義に反する。だったら、全てを知らせて受け入れてもらおうと思ったんだ」


 その言葉を受け、麻衣が言う。


「お断りよ。こんなこと知ったら絶対受け入れたくないわ」

「じゃあ、どうするの? 出て行く? 死亡扱いになってるのに」

「来た時に説明してくれたじゃない。どうしても帰りたいと思った時は出て行けるって。今が、その時よ」


 麻衣は町から離れることを選んだ。

 裏の事情を知っては、もう町にはいられなかった。


「苦難の道だよ? 今はまだ子供だから、あんまり分かってないと思うけど、外で暮らすのが、どれだけ大変か。

例えば、お金だけでも、税金に保険料、食費に水道光熱費、賃貸なら家賃みたいに色々お金がかかる。

大人になったら、それらを自分で賄わないといけないんだ。

生きる為だけに働いて、ヨボヨボの定年になって、やっと解放されたかと思ったら、すぐ死んじゃう。

控え目に言っても地獄じゃない?」

「それが本来の人生よ。ここがおかしかっただけで、元に戻るだけだわ」

「分からないかなぁ。ほんとに大変になるよ? 男嫌いの麻衣ちゃんにとっては尚更」

「どれだけ引き留めても無駄よ。もう戻るって決めたから」


 麻衣は頑なだった。


「何が、そんなに嫌なの?」

「そんなの決まってるじゃない。あんたと一緒にいることが嫌なの」

「え……普通にショックなんだけど」

「それはこっちのセリフよ」


 激怒した麻衣は、もう完全に優奈のことを嫌っていた。

 優奈は麻衣の説得を諦め、他の子達に訊く。


「他の三人はどうする?」

「私はここに残ります」


 未久が即答すると、麻衣は「えっ」と思わず振り向く。


「外よりも、こっちの方が、ある意味安心して暮らせますから。優奈さんは碌でもない人かもしれませんが、目的がハッキリしている分、外にいる下手な人間より信用できます。

それに、ここでしか生きていけない友達もいますし」


 未久はそう言いながら結衣を見る。


「生きていけないって……」


 すると優奈が代わりに答える。


「まだ結衣ちゃんのことを理解できていないみたいだね。

人見知りとか喋るの苦手とか簡単に言うけど、重度の子はそれはもう大変なんだよ。

現代の日本社会で生活するには、他人との関わりが必須だから、生きているだけで何かと負担がかかるんだ。

特に学校での発表なんて、皆の前で喋らないといけないから、先生に当てられでもしたらもう、この世の終わりみたいな気分になるし、歌の発表なんてあった日には自殺を考える程なんじゃないかな」


 本当なのかと麻衣が視線を向けると、結衣は肯定するように頷いた。


「学年が上がり、中学、高校と上がって行くと、人前で話さないといけない機会は増えていく。

そういう子はどうなるか。大学、社会人くらいで大体病んで頭がおかしくなる。

それで病院通いになるか引き籠りになるか、或いは自害するか。碌な人生にはならない。

その点、この町なら最大限に配慮してあげられるから、気苦労しないで幸せな生涯を送れる」

「……」


 麻衣は反論できなかった。

 結衣にとって外は、優奈の毒牙に掛かる以上に辛く苦しい場所だったのだ。


「二人は残るとして。最後、智香ちゃんは?」

「私は麻衣ちゃんと一緒に行くよ」

「どうして!?」


 てっきり残ってくれるものだと思っていた優奈は驚く。


「私も怒ってるんだよ。これまで、ずっと私達のこと騙して」

「で、でも外に出たら、ぐーたらな生活なんてできなくなるよ?」

「それでも私が行かないと、麻衣ちゃん一人ぼっちになっちゃうから」


 智香が出て行くのは麻衣の為であることが大きかった。


「智香……」


 智香の想いを受け、麻衣は感極まっている。

 二人は友情の絆で強く結ばれていた。


 そんな二人を見ては、優奈も観念せざるを得ない。


「分かった。手配するよ……」



――――

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