108話 町の裏側
エレベータの扉が開き、麻衣達が出てくる。
「ふぅ、狭かった……。これ絶対、一人用だわ」
四人は周りを見回す。
そこは真っ白で何もない部屋だった。
ただ、正面に扉があるだけである。
「ここ、大浴場より下ですよね」
「あれ何かな?」
何もないと思われていた部屋だったが、智香が端に一つだけ付けられたモニタを見つけた。
四人は、そのモニタの前へと移動する。
麻衣が触ると、またしても町の子達の名前が一覧として出てきた。
「また?」
麻衣は一先ず自分の名前を押す。
すると、壁の向こうから何かが動いているような音が聴こえてきて、モニタの横の壁が開いた。
そこから出てきたのは一台の大きなカゴ台車。
大きさの割に、その中には衣服や下着が数枚入っているだけだった。
麻衣はその衣類を手に取る。
「これ……前に処分に出したやつだわ」
モニタを観ていた智香は、麻衣の名前の横にマークがついているのを見つけ、そこを押してみた。
すると、新たに表示が出てくる。
「何か出てきたよ」
麻衣達も画面を覗くと、そこには風呂やトイレといった文字が出ていた。
「まさか……」
麻衣は恐る恐るトイレの文字を押してみる。
すると画面が切り替わり、トイレの個室が映った。
そこに入って来た麻衣が、便器に向かって後ろを向くと、スカートを捲り上げてパンツを下ろし出す。
「うわあああああ」
麻衣は慌ててモニタを押し、映像を消した。
「何? 何なの? 何なのよ、これ」
自らのトイレシーンが保存されていることを知った麻衣は混乱して喚く。
未久は徐にモニタに手を伸ばすと、名前のリストをスクロールして、自分の名前のところを押した。
すると、再び壁の奥から音がして、麻衣の衣類が入ったカゴ台車の隣の壁が開き、もう一台のカゴ台車が出てくる。
だが、台車の中は空っぽで何も入っていなかった。
続けて、未久が名前の横のマークを押すと、同じように風呂やトイレの表示が出てくる。
そこで風呂の文字を押すと、画面が切り替わり、寮の大浴場が映った。
女の子達が何人か映っているが、画面の中心にいたのは未久だった。
画面をスライドさせると、角度を変えたり、アップしたりすることが出来た。
「これは優奈さんの趣味、ですかね」
「ずっと盗撮されてたってこと? 信じられない!」
ずっとトイレやお風呂を盗撮されていたと知り、麻衣は憤怒する。
これが優奈の趣味であることは明らかだった。
「これはもう結託なんてものじゃないですね。黒幕説が濃厚になりました」
徐々に判明して来る優奈の秘密に恐ろしさを感じていた麻衣達だったが、変態趣味の一端を見て、恐怖よりも呆れや軽蔑の方が大きくなってきていた。
「これ以上、ここを調べても分かることはなさそうですので、先に進みましょう」
四人は奥の扉から、先へと進む。
扉を潜った先に現れたのは、広大な空間だった。
壁や床が全体的に灰色でメカメカしく、工場や倉庫みたいな建物が沢山建てられており、中央には大樹のように大きな支柱が聳え立っている。
「ここが町の中核なのかな?」
「っぽいわね」
進もうとしたところ、前方で行き来する作業ロボットの姿を見つける。
「! 隠れてっ」
四人は慌てて物陰へと隠れる。
「見つかったら絶対不味いわよね」
「間違いなくバレるでしょうね。管理者と優奈さんに」
「どうする?」
「隠れながら調べませんか? 中央の柱が気になります」
中央の柱にはコードが張り巡らされており、支柱というよりは何かしらの機械のようだった。
「そうね。ここまで来て引き下がるつもりは更々ないわ。智香、そういうの得意でしょ。先導、頼める?」
「任せて」
智香の先導で四人は進み始める。
物陰を移動しながら、ゲームで培ってきたスニーキング技術で作業ロボットの目を掻い潜って行く。
道中、ロボットを避ける為に、近くの建物の中に入った際、四人はガラス張りのカプセルの中に入った肉塊を見つける。
「何あれ」
「食べ物作る素の材料じゃない? ほら」
カプセルから繋がる管の先にある装置からは野菜や肉が出てきていた。
「うげっ。こんな風に作られてたの? 食欲失せるわ」
「でも、ちょっと面白くない?」
「面白いことは面白いけど、自分達が食べる物だと思うと笑えないわ。まぁ、虫とか人肉から作られてるとかじゃないだけマシかぁ」
そこで智香が疑問に思う。
「あの塊は何から出来てるんだろ?」
「え?」
「無から出来てるんじゃないんだから、何かしら基になった物はあるよね? 町の外は、植物になって家畜が食べて肥料が出来てみたいに、ぐるぐる回ってるけど、ここはそんなのないし」
智香の疑問に、未久が口を挟む。
「どこかで基になる植物でも栽培してるんじゃないですか? それか栽培するまでもなく、皆が出したのを直接、素にしてるとか」
「「……」」
未久の推測を聞き、三人はあり得ると思ってしまう。
「止めましょ。今はそんなこと考えてる場合じゃないわ」
「そうだね。先を急ご」
深く考えると嘔吐し兼ねなかったので、麻衣達は考えるのを止め、先に進むことにした。
立ち並ぶ建物を渡り歩いて、柱の方へと向かう。
建物の中はロボット製造工場や衣類の縫製工場、商店街で売られる物品の保管庫など色々だった。
いくつか渡り歩き、とある建物に入った時、四人は中の光景を見て足を止める。
「何、これ……」
そこはガラス張りのカプセルが、ずらりと並べられており、その中には裸体の人間が入っていた。
「希海ちゃん!?」
数多のカプセルの中に、希海の姿を見つけた結衣は驚いて駆け寄る。
カプセルの中で眠るように浮いている希海。
他のカプセルに入っているのも、どれも町で生活していた子達であった。
「さっき、学校で会ったばかりなのに……」
「偽物ですよ。私や結衣ちゃんもいます」
中には今ここにいる未久と結衣の姿もあった。
「あ、さっき映像で見たロボットかしら」
「ロボットというよりクローンっぽくないですか?」
カプセルの中で培養されている感じだった為、ロボットには見えなかった。
「げぇ、こんなことまでやってたの?」
「多分、死んだことを偽装するのに使うんじゃないでしょうか。ロボットでは解剖されたらバレてしまいますから」
「そっか。一瞬、優奈が変なことする為に作ったのかと思ったわ」
「……それもあるかもしれません」
「……」
優奈なら、やり兼ねないと思った麻衣達は表情を強張らせる。
「この子達って意識あるのかな?」
智香の呟きで、周りが騒めく。
「……ないと信じたいわ。あったら、偽装する為でも殺したりしないでしょ。多分」
「そう、だよね。優奈ちゃんなら、そんなことしないよね」
二人とも優奈の性格は知っていたが、裏の顔を見た今では確証が持てなかった。
「そろそろ行きましょうか。あまり長居してると危ないです」
「ええ、もう結構近づいてきたから一気に行きましょ」