105話 文化祭
それから数日が過ぎ、文化祭が開催された。
学校の敷地内には、夏祭りの時のように多くの屋台が立ち並び、各所が飾り付けられて、非常に賑やかな景観となっている。
屋台は夏祭りのものと若干違い、大学芋や給食に出るデザートなど、学校ならではの特色を出したものとなっていた。
また、文化祭であるが、運動会も組み込まれており、短距離走や玉入れなどの競技が自由参加のイベントとして行われている。
これは運動が好きではない子への配慮として強制しない方針を取ったことと、新入生が来たとは言え、まだまだ人口が少なく、たとえ全員参加にしても単独で出来る規模にならない為、行った措置であった。
一つ一つの競技の規模は小さくても、周りの賑やかな雰囲気のおかげで、とても活気づいているように見ることができる。
女の子達は屋台で買い食いをしたり、競技に参加したりして、それぞれ楽しんでいた。
そんな中、体育館ではファッションショーが行われていた。
ライトアップされたステージの上で優奈が様々なポーズを決めている。
観客席はなかなかの賑わいで、高学年から低学年の子まで、多くの子達が熱狂しながら優奈のパフォーマンスを眺めている。
しかし、その中で一人だけ怪訝な表情をしている子がいた。
(見た目は凄くいいけど、でも……)
未久は相変わらず優奈への疑念を払拭できずにいた。
周りの子達は、まるでアイドルを見ているかのように憧れの視線を向けている。
容姿がとても良く、パフォーマンスも優れていた為、一瞬で女の子達の心を掴んでいた。
だが、最初から疑念を持っていた未久からしたら、逆にそれが怪しく見えてしまう。
未久が訝し気に見ていると、後ろから声が掛かる。
「優奈さん美人だよね」
未久が振り向くと、そこに居たのは理沙だった。
「やっほ」
理沙の挨拶に、未久は会釈で返す。
結衣との繋がりで、二人は何度か遊ぶ程度には交流があった。
「一人で見に来たの?」
「はい」
「もしかして優奈さんのファンだったり?」
「違います。ただ、こんなことよくやるなと思って」
未久の言葉で理沙が笑う。
「言われてみたら、やってること相当ナルシーだね。美人だから、全然そんな感じしなかった」
子供の出し物ではなく、本場のファッションショーさながらのクオリティだった為、ナルシストだと思わせることなく受け入れられていた。
容姿が優れていることは事実だったので、未久もその点については認めている。
未久は優奈のことを訊こうと一瞬思ったが、優奈に向けている視線から好意的に思っていることが伺えた為、思い止まった。
「未久ちゃんは何もやらないの?」
「はい、見るだけです」
「そっか。この後、私らでバンドやるから、よかったら見てってよ。優奈さんがボーカルでやるやつもあるから」
「あ、はい」
「よろしくね。じゃ、私、準備があるから」
宣伝を済ませると、理沙は目的を終えたように未久から離れて行った。
ライブまでは、まだ時間があった為、未久はそれまで他のところを見ようと体育館を出る。
「ちょっといい?」
声を掛けられた未久が振り向くと、そこには麻衣と智香が居た。
二人とも神妙な表情をしている。
「前は気のせいだって言ったけど、未久ちゃんが言う通り、やっぱり優奈、色々変だわ」
管理者との会話を見て確証に至った二人。
やっと分かってくれたと未久は表情を明るくするが、すぐに真面目な顔をして言う。
「一先ず、結衣ちゃんの話聞いてくれませんか?」
二人は未久に連れられ、結衣がいる校舎三階へと向かう。
道中、二人がこれまで思っていた違和感や、先日見たことを未久に伝えた。
校舎内でも様々な催しが開催されており、輪投げや豆つかみゲームなどを楽しむ女の子達で賑わっている。
三階は展示物がメインで比較的人気は少なく、静かだった。
三階の六年生教室に到着すると、そこは花や風景の絵が教室一面に飾られていた。
その中で鑑賞をしていた結衣。
未久は結衣に声を掛け、三階端の廊下で話をしてもらう。
そこで結衣が話したのは、優奈に声を掛けられた時のことだった。
「……そうしたら、誰とも関わらなくていい場所で生活できるように話通してあげるって」
「それって町じゃない場所に、ってこと? ちょっとオーバーじゃない?」
たかが喋ることが苦手なだけで、そんな話を持ち掛けて来るのは些か大袈裟に麻衣は思えた。
だが、未久が言う。
「オーバーじゃないです。多分、麻衣さん達が思っているより、ずっと苦手ですから」
「じゃあ、その提案にはどうしたの?」
麻衣が訊くと、結衣は首を横に振る。
「断った。皆と離れたくなかったから」
「当然です。でも、もしも話に乗ってたら、どうなっていたことか」
未久の言葉を聞き、二人は背筋がヒヤッとする。
提案に乗っていたら、今この場に結衣はいなかったかもしれない。
「裏で、そんなことしてたのね……」
優奈の裏の行動を知り、二人の疑念が深まる。
「二人は、おかしなことされませんでした?」
「「えっ?」」
未久は長く優奈に接していた二人に、確認の為に尋ねただけだったが、おかしなことと聞いた二人はセクハラチックなことを思い浮かべ、変に反応してしまった。
「あるんですか?」
「いや、別に大したことじゃないわ」
「教えてください。どんな小さなことでも手掛かりになることかもしれないですから」
「ほんと、そういうのじゃないから」
「今は少しでも情報が欲しいので、言うだけ言ってみてください」
未久に気圧され、麻衣は観念して教える。
「まぁ何ていうかセクハラ的なことよ。下ネタ言ってくるとか、パンツや裸見てくるとか。スカート捲りするように唆されたり、チョコバナナを変な食べさせ方させてきたり……」
話を聞いた未久は怪訝な顔をする。
「……おっさんですか?」
「同性愛者なの。でも、犯罪者的なことは……しないことはないけど、怒れば止めるし、そこまで嫌なことはしてこないから」
未久は考え込む。
「好きってことは、それだけ大切に思えるってことだから、そんな悪いことでもないし……」
麻衣が必死にフォローしていると、未久が口を開く。
「同性愛者なら、この町は、さぞ都合がいいところですね」
「へ?」
「女子しかいないところなんて、優奈さんからしたら最高の場所ではないですか?」
「で、でも、それは薬が効くのが偶々そうだっただけで……」
「それは分かっています。でも、偶然にしては出来過ぎてませんか?」
「……」
二人は偶然だと思いつつも、完全には否定できなかった。
「兎に角、もっと情報が欲しいです。他にも何か知ってる人がいるかもしれないですから、聞き込みに行きませんか?」
「そうね」
この場で話しているだけでは埒が明かないので、未久達は情報を得るべく聞き込みをすることにした。
結衣も加わり、四人で聞き込みへと向かう。