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1話 未来人との遭遇

 一面に広がる荒廃した大地。

 空は灰色く、川は濁っており、何処にも生命の息吹は感じられない。

 そんな中にドーム状のシェルターが一つ建てられていた。


 シェルター内部は、外とは一転して清潔な空気で満たされ、青々とした草木が花壇などで見られるが、近未来的な形の建物が立ち並び、巡回するロボットや自動移動の廊下など、SFチックな世界が広がっていた。

 その中にある建物の一室。

 機械に囲まれた部屋で、一人の男がモニタを前に、忙しなく端末を叩く。


『フランツ、メアリー、ケンジ、みんな死んでしまった。相変わらず他のシェルターからの応答はない。もう俺だけなのか?』


 男の顔には強い焦りが見える。


『くそっ、諦めてなるものか』


 男が必死に端末を叩き続けていると、部屋の中央に設置されていた円柱のカプセルが開き、バスケットボール程度の大きさの黒い球体が宙を浮かびながら出てくる。


『準備が整いました』


 その声が発せられたのは、黒の球体からだった。

 自分の声に反応するように、球体の中央を囲んで引かれた緑の線が、心電図のような動きをする。


 黒の球体に一度目を向けた男は、すぐにモニタに視線を戻す。


『皆には反対されたが、もうこれしかない』


 そう言って、男は仕上げるように端末を強く叩いて手を離した。

 そして円柱のカプセルがある黒の球体の方へと足を進める。


『ヴァルサ、転送の成功率は何%だ?』

『30%です。生命に関わる重大な事故に見舞われる危険性が非常に高い為、現段階での実行はお勧めしません』

『ふっ、十分じゃないか。これより決行する』


 男はそのまま足を進め、円柱のカプセルの中へと踏み込んだ。

 黒の球体もその後に続き、一緒に入る。


『時空跳躍装置、起動します』


 黒の球体がそう告げると、鈍い機械音と共にカプセルの周りに蒼い稲妻が走り始める。


『人類は滅亡させない。こんな未来、俺が変えてみせる』


 一際強い光が放たれ、部屋を真っ白に染める。

 そして光が終息すると、男と黒の球体の姿は消えていた。




――――




 現代。

 昼下がりの公園は休日ということもあって、子供達の姿で賑わっていた。


 近年、公園で遊ぶ児童は少なくなりつつあったが、ここは児童養護施設が近くにあったことから、施設の子を中心としてよく利用されている。


 無邪気に子供達が遊ぶ中、ベンチに一人腰掛けている場違いな中年男性の姿があった。



 男の名は安藤優也。

 地元の一般企業に勤める会社員である。


 スマートフォンを片手に顔を俯かせ、一見スマートフォンを弄っているように見えるが、その視線は遊具で遊ぶ女児の姿を捉えていた。

 これが彼の趣味であり日課である。


 優也は忙しい社会人生活でも、暇を見つけては女児が多く集まる場所に足を運び、目の保養を行っていた。

 無邪気な少女を眺めて日々の疲れを癒していたのである。


 彼にとって少女は、この世の何よりも美しく尊い存在であり、叶うことなら、あの中に混ざって遊びたいとまで思っていた。

 性的趣向においても、大人の女性には一切興味はなく、歳はもう三十の半ばであるにも拘わらず、未だ独身を貫いている。


「美咲姉ちゃん待ってー」


 遊具では、中学年の女の子が、先に遊具に登って行った高学年の女の子を追いかけて登っていた。


「早く上がっておいでよー」


 高学年の子は遊具に掴まり、足をぶらぶらとさせる。

 スカートだったその子は、下から見たらパンツが丸見えであった。


(む、シャッターチャンス)


 そのことに気付いた優也はスマートフォンの動画撮影モードを起動し、身体を伸ばす振りをしながらカメラレンズを高学年の子に向ける。


(もう高学年にもなるのに、あんなおっぴろげにして……。実に素晴らしい)


 近年では子供達の警戒心が強くなっていて、下着を見せるような子は少なくなっていた。

 特に高学年ともなると、お目にかかることは、まずない。


(しかも色は白ときたもんだ。やっぱりパンツは白がベスト)


 近年、色物の下着が主流になって久しく、パンチラの中でも白のものを見る機会は極めて珍しい。

 だが施設の方針なのか、この公園で見られるパンチラは白が多かった。


 優也は世代的に、子供のパンツイコール白というイメージが強かったので、白のパンチラが見られるというのは、非常に嬉しいことだった。



 貴重なパンチラチャンスに、優也は夢中で撮影しながら眺める。

 それは性欲からでもあったが、それよりもその無邪気な仕草に心惹かれていた。


 スカートであるにも拘らず、パンツが見えることなど気にしていないと言わんばかりに大股を広げる様子から、その子の純粋さが窺える。

 少女は自分の姿に劣情を抱く人間がいることなど、夢にも思っていないのだろう。


 その純粋さが、優也にとっては堪らなかった。




 優也が魅入られたように撮影していると、近くにいた主婦達の声が耳に入ってくる。


「ねぇちょっとあれ。盗撮してるんじゃない?」

「うわ、ほんとだ。あいつロリコン?」

「絶対そうだって。警察呼ぶ?」


 主婦達の言葉が聞こえた優也は、すぐさま遊具の方へ向けて手を振る。


「ほら、そんな風に登ったら危ないぞー」


 軽く声を掛け、自分の子供を撮影している保護者を装う。

 そして自然な感じにスマートフォンを下ろして、動画撮影を止めた。


(危ない危ない。お邪魔ババアがいるから、気を付けないと)


 女児に対する凶悪犯罪や虐待事件などにより、世間の目は年々厳しくなっていた。

 今では喋りかけるどころか、見るだけでも疑いをかけられることもある為、優也のような趣味の人にとっては、非常に生き辛い世の中であった。

 社会的に終わり兼ねないことだが、優也にとってこれは唯一の楽しみであり生きがいである。

 だから、どれだけ危険になっても止めることなどできなかった。




 優也は周りの目を気にしながら、さりげなく少女観察を続ける。

 暫く続けていると、不意に彼に近づいてくる者がいた。


「すみませーん。何なさってるんですか?」


 振り向いた優也は、その者の姿を見て顔を強張らせる。

 それは制服に身を包んだ警察官であった。

 先程の保護者の振りでは誤魔化すことはできておらず、本当に警察官を呼ばれてしまっていた。


 こんなことは初めてであった為、優也は内心動揺するが、冷静を装って答える。


「何も……ただ休憩しているだけです」

「そうですか。先程、盗撮をしている人がいるという通報がありましてね。別に貴方を疑っているという訳じゃありませんが、一応ケータイの中身を確認させてもっらってもいいですか?」


 警察官はスマートフォンを渡せと優也に向けて手を出す。

 優也はいつでも撮影できるようスマートフォンを出していたので、持っていないと言い逃れすることはできない。

 スマートフォンのフォルダの中には先程のパンチラ動画どころか、ネットで拾った少女の危険な動画像が山のように入っていた。

 見られたら一発アウトである。


「ええ、構いませんよ」


 優也は快く返事をして、持っていたスマートフォンを警察官に差し出した。

 その協力的な態度を受け、警察官はにっこりして、そのスマートフォンに手を伸ばす。

 だが手に渡るその瞬間、優也は飛び出すようにベンチから立ち上がり、全速力で走り出した。


 警察官は一瞬呆気にとられるが、すぐに慌てて優也を追い始める。


「あ、こらっ。待て!」


 警察官に追われながら、優也は必死に逃げる。


(ヤバいヤバいヤバい!)


 優也は完全に油断していた。

 これまで怪しまれたことは何度もあったが、ここが田舎の地域だった為か、警察沙汰になったことは一度もなかった。

 堂々と盗撮するようなことをしていて、何事もなかったのは幸運だったとしか言えない。

 だが、幸運が続いたせいで気が緩み切っていたのだった。


 優也の頭に逮捕という言葉が過る。

 逮捕されれば、会社は解雇。

 家族知り合いには軽蔑され、地元住民からは一生迫害されるであろう。


 そんな考えを優也は頭から振り払い、必死に住宅街を駆け抜ける。

 塀を乗り越え、屋根を伝い、車が行き交う車道を飛び出して渡った。

 そして雑木林の中へと入っていく。




 無茶な逃走を続けること十数分。

 優也は息を切らせながら、道なき道を歩いていた。


「はぁはぁ……撒けたか?」


 辺りは木々で薄暗く、誰かが追てくるような気配はもうなかった。

 逃げ切れたと分かり、優也は胸を撫で下ろす。


「流石に今回は肝が冷えた……。今日のことで警戒も強まるだろうし、当面の間あそこには近づけないだろうな」


 先程の公園はパンチラが多い穴場だった為、優也は非常に残念な思いであった。

 しかし、逮捕されては元も子もない。

 優也は涙を呑んで我慢するしかなかった。


「さて……これからどうするか。さっさと帰るべきか、暫く身を潜めるべきか」


 追手は振り切ったが、まだ油断はならない。

 再び見つかる可能性がある為、考えて行動しなければならなかった。


 次の行動を考え始めたその時、突如雑木林の奥から眩い光が放たれる。


「うわ! 何だ!?」


 凄まじい光は一瞬で収束した。

 だが完全には消えておらず、電灯のような小さな明かりが残っていた。


(誰かいるのか? あの方角だと警官ではないと思うが……)


 光は正面の山の方。

 逃げて来た方とは、真逆の方向であった。


(何にせよ。さっきの光はちょっと拙いかもな)


 一瞬とはいえ、非常に強い光だったので、遠くからでも確認できたであろう。

 後方に警察官が居た場合、その光を頼りに、優也の方へ向かってくることが考えられた。


 早急に、この場から離れるべきであったが、その向かう先が重要である。

 警察官の現在地が分からない為、下手な方向へ向かうと鉢合わせになる恐れがあった。


 少し考えた優也は、再び正面を向き、歩み出した。

 一番可能性が低いのは、山の方である。

 光をあるところを通り抜けて、反対方向へ移動した方が、安全と判断したのだ。




 優也は歩みを進め、光へと近づいて行く。

 通りがかりに様子を伺った優也は、目に入った光景に思わず足を止める。


「何だあれは……」


 そこにはバスケットボール大の黒い球体が宙に浮かんでいた。

 その球体は底の部分から手のようにコードを伸ばし、先端を光らせている。


 得体のしれない物体に、優也は半ば唖然として見ていると突然声がする。


『げ、現地人か?』


 声の主は黒い球体の下に横たわっていた。

 彼に目を向けた優也は絶句する。


 彼の身体は左足から脇腹が、まるで引き千切られたように欠落しており、生きているのが不思議なほどの状態であった。

 黒い球体から伸びたもう一本のコードが治療するかのように、その患部付近で忙しなく動いている。


『く……この際やむを得ない。君、私の頼みを聞いてくれ』


 男性は優也に向けて説明を始める。

 しかし、彼の言葉は現代のどの言語とも違うものであった。


 男性は懸命に話をするが、優也はその内容を理解することは出来るはずもなく、衝撃的な光景にただ呆然としているだけだった。


『……だから、このままでは大変なことになる。その為には……ん? 私の話を聞いてるか?』


 優也が固まっていることに気付いた男性は眉を顰めるが、すぐにその理由に気が付く。


『あーくそ、言語が違うのか。……俺ももう限界だな。ヴァルサ、現地の言葉に翻訳してくれ』

『畏まりました。翻訳、二十一世紀初頭:日本語』


 黒い球体からそのような音声が出ると、男性は改めて優也に向けて話し始める。


「よく聞いてくれ。五百年後、人類は滅亡する。君が人類滅亡を阻止するんだ」


 その言葉は、男性の口から日本語で放たれたように聞こえた。

 日本語であるので、優也は言葉としては分かったものの、突拍子もないことであった為、内容としては理解はできなかった。

 だが、男性は構わず言葉を続ける。


「詳しくは、この子に聞いてくれ。ヴァルサ、マスター権限を彼に移行。確認は不要だ」

『……マスター権限を移行しました。以後は新マスターからの指示を最優先とします』

「任せたからな」


 男性はそれだけ言うと、力が抜けたように動きを止めた。

 目を見開いたまま、ぴくりとも動かない。

 完全に絶命していた。


 男性の死を目の当たりにして、呆然としていた優也はハッとして正気を取り戻す。


(何が何だか分からないが、この状況かなり拙いんじゃないか……?)


 人ひとりが死んだのだ。

 事件性は盗撮の比ではない。


(と、兎に角、一刻も早く、ここから離れなければ)


 優也は黒の球体や男の死体を放置したまま、血相を変えて、その場から離れた。

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