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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

獣人侵略戦争

作者: 稲山裕


 一見、ファンシーっぽい姿の獣人が十人ほど。顔だけは耳の短い平面顔のうさぎというか、耳の位置を除いて人間に近い構造だ。


 しかし、太ったゴリラのような、ずんぐりとした体形をしている。

 その彼らは、スーツのような服も着ているし、意思の疎通もしっかり取れる。


 何なら普通に、人間達と共に会話を楽しんでいる。人間も、彼らを着ぐるみとでも思っているのか、違和感なく過ごしているのだ。


 近代的な市役所のような建物。巨大な四階建ての、市民の憩いの場に彼らは居た。


 そこで事件は起こる。


 白昼、その獣人達が急に人々を襲い出した。


 その力は凄まじく、見た目からは想像もできない膂力で人間を殴り潰していく。


 パニックになった人々は逃げ惑う。




 少し狭くなったガラス張りの通路では、行き詰った数十人が……一人の獣人によって、瞬時に圧し潰された。


 肉が弾け、骨が砕け、内臓が潰れ出る。


 びちびち。という、筋が圧されちぎれる音。

 ごり、ぼき、ごぎ。という音が重なり合い、一つになった鈍い音。

 ぐちょり、どりゅっ。という、液体の塊が潰れる音。


 それらの音が全て重なり合って、どちゃっ。と大きな衝撃を伝えた。


 それを見た人々は、さらに悲鳴をあげながら滅茶苦茶に逃げた。


 後ろから迫る恐怖。獣人の、その一撃で体が潰れ飛ぶ。


 掠っただけでも致命傷となるのだから、誰も彼もが、死に物狂いで逃げ惑った。




 

 ――そう。逃げ惑ったのだ。


 憩いの場とはいえ、自分が居た階でさえ広くて、建物の構造を全て把握しているわけではない。逃げ走ったその通路の先が、いつ行き止まりになるのかさえ分からない。


 ガラス張りを打ち割って外に出ようとした者もいた。

 けれど……強化ガラスは簡単に割れてはくれなかった。


 走りながら、鈍器になるものを見つけては、手当たり次第にガラスにぶつけるも弾き返されるのみ。


 数メートル後ろから追われる最中では、一か所に留まれない。

 投げつけては弾かれ、そして直角に折れた通路を祈りながら曲がる。


「行き止まりではありませんように!」


 それは、角を見た瞬間に脳裏によぎった、短い祈りだった。


「あああああああああああ!!!」


 その最後の声は、潰される前の絶望の叫びだった。




 至る所で悲鳴が聞こえた。絶叫が響いてこだました。


 階段を降りようとして、折り重なって雪崩れた人の束に、獣人がこぶしを振り下ろす。


 嫌な音が、悲鳴の間から聞こえてしまう。


 目の前で、肉塊というよりは血の塊になる所を、何度も何度も見てしまった人も居た。


 それだけ逃げおおせたというのに、その人もまた、建物から出ては来られなかった。


 もうすぐ一階の出口だという所で、獣人に挟まれてしまったのだった。




 最初に一階に居た人達以外は、誰も助からなかった。

 千人に近い人々が、誰も。




 その光景は、建物の外からも、ガラス張りゆえに見えていた。


 それを見た人達も、恐怖で凍り付いたように、動けなくなっていた。


 中に居た人間を、全て潰した獣人が出てくるまで。


 凄惨な状況を見て、即座に逃げた少しの人を除いて、建物の周りでも、殺戮は繰り返された。


 そして――。


 建物の周りに立つ人間が居なくなると、獣人達はどこかへと消えてしまった。




 あの獣人は、一体何だったのか。


 現場に到着した警察も、救急隊員も、生き延びた人達にさえ、その時は誰にも分からなかった。


 実際に見た人間は皆、死んでしまったから。


 証言の一つも取れなかった。


 外から見て、その瞬間に逃げた人達からでさえ。


 なぜなら、『つぶされたもの』を見て、「やばい」と判断しただけだったから。




 建物内の監視カメラには、直視できない光景ばかりが映っていた。


 音声のない映像だけで良かったと、半狂乱になった後で、そう気づいた検査員も居た。


「音声が入っていたら……正気に戻る事はなかっただろう」と。


 見た半数以上は、捜査を続けられる精神状態ではなかった。


 そのために、獣人の映像を切り取るだけの作業でさえ、通常の何倍も遅れた。


 何しろ獣人は、時折カメラを見つけると、返り血にまみれた顔でニチャアと笑っているのだ。


 そのおぞましさは、一連の動画を見た者にしか分からないだろう。


 狂気でもなく、怒りや憎しみでもなく、ただ愉悦しながら人々を殴り潰す彼らの笑みが、どれほど脳裏に焼き付いてしまうのかを。



 

 街中にある監視カメラを追おうにも、どこにも映っていない。ここが中央都市であれば、そして範囲をもっと広げて捜査をすれば、上がってきたのかもしれないが。


 現時点では見つけられなかった。


 そのため、忽然と姿を消したかのような状況に追い込まれている。


 捜査も捗らず、目撃情報も皆目無い。


 ゆえに、突発的な事件ではなく、綿密に計画された犯行だと推測された。


 事件の日から数日経った状態で、たったのそれだけしか分からなかった。


 そもそもからこの獣人、結局は何人居て、どこから現れたのかさえ判明していない。





 これは、後にこう呼ばれる。


『獣人侵略戦争 陽動初日事変』


 この惨状でさえ陽動だったのだと、後々に分かる事となる。




今日、とても怖い夢を見まして。

あまりに怖かったので、せめて文章に起こそうと思って書きました。

久しぶりに全力で逃げる夢でした。

走る速度は普段通りでしたが、いかんせん恐ろしくて恐ろしくて、目が覚めた瞬間は全身にぎゅううう!っと、力が入っていました。

もう見たくありません……。



なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~内向的だけどそれなりに楽しく過ごしています?~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』

も、読んで頂けると嬉しいです。

こちらはファンタジーものですが、リアルテイスト異世界譚です。

きっと楽しんでもらえると思いますので、ぜひぜひよろしくお願いします。

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