朝食の風景(ささやかな悪意の昇華)
朝食というよりも
忙しない朝のエネルギー補給のつもりで
昨日買った食パンの袋を開けた
(トースト用のバターとティーカップをそろえて)
その中に、そっと添えられた悪意がひとつ
千切れるほど強く潰されたパンの一切れが
整然と並んだ半斤の隊列を乱している
ふと、そうせずにはいられない哀しみを思う
彼(若しくは彼女)は、この袋を手に取ったことだろう
周囲を窺う様子が目に浮かぶような気がする
さりげなく、でも、確かに、ささやかな悪意を込めて
一切れを握りつぶしていく
そのスリルと暗い歓びは、後ろめたさを凌駕したのだろうか
その悪意を見つけた瞬間の感情の中に
購入者の僕は、なにを期待されていたのだろう
もはや、この程度のことで不愉快や怒りは湧き上がらない
哀しさと侘しさは、すでに吐き捨てるほど持っている
嘲り、見下すには、僕の心が共感しすぎてしまう
だから、本当は、とても、可笑しくなった
そうしないではいられない歪みは、僕にもある
だから、彼(若しくは彼女)は、僕の代弁者であり
誰かの代弁者でもあるのだ
僕は、その悪意を共有しながら、一切れのパンの哀しみだけを思う
僕たちの悪意で醜く歪んだパンだから
ふと、呆れるくらい、甘くして食べてやろうと思う
僕は、冷蔵庫から蜂蜜を取り出した