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屋上から


 消えたい。死にたい。

 殺したい。みんないなくなればいい。

 心の中で渦巻く感情は、負の言葉だけ。


 助けてほしいとも思うけど、こんな世の中で、誰が助けてくれるのか。段々と人のことが苦手になっていき、最後には恐くなった。


 結局、一人で生きていくしかないのだ。

 

 誰も助けてくれやしない。




 コツ…コツ…と足音が聞こえる。これは、俺が死ぬまで足音。


 誰も気づかない、俺が死ぬまでの足音。


 1歩1歩、死へと向かう足音は、誰も気付いてはくれない。


「今日は、憎いくらいに天気がいいなぁ」


 ビルの屋上から眺める、青空は綺麗に澄み、太陽は平等に光を降らす。


 生物は平等から不平等を作り出した。


 今日、俺が死ぬのも不平等に心を殺されたからだ。

 世の中、不平等で当たり前。それで生き抜くのも当たり前。そんな人間に囲まれ、心の弱い人間は、淘汰されていく。

 

 強い人間しか、生き残れない。

 俺はめでたく、敗者になったわけだ。


 仕事でもプライベートでも、何も上手くいかない、誰からも見られない。

 

 唯一、心残りなのは家族より先に死ぬことくらい。

 そんなことを思ってるけれど、家族に弱い姿なんて見せたくない、家族に心配されたくない。結局、敗者になった自分を家族に伝えるのは惨めな自分の死体になるわけだ。


 そう考えながら、俺は死ぬ準備を始める。

 遺書なんて物は用意してない、自分の死にたい気持ちを理解して欲しいわけでもないし、理解できるわけもない。

 死んだあとに「こんなものを書き残して、弱い人間だ」なんて言われた時には、悪霊になって、そいつを殺してしまいそうだ。


 俺が死ぬ理由を分からずに言う分にはいいんだ。分かるだろ?説明しても、心から話しても、助けを求めて「お前が悪い」で終わらせる人間は、割りといるものだ。

 


 俺はそいつらにも負けて死ぬ。


 

 屋上の柵に、ホームセンターで買った、太めの荒縄を結ぶ。


 え?屋上なのに飛び降りじゃないのかって?分かってないねぇ。本当に分かってない。

 あのね?死にたいけど、痛いのが好きな訳じゃないんだよ。

 苦しい思いをして、どうしようもなく苦しくて死ぬのに、さらに痛い思いをして死ぬなんて、俺には無理だ。


 だから、俺は楽に死ねる方法を考えた。


 睡眠薬をがぶ飲みして、屋上の縁に座り、縄を首に括りつけ、腹が立つほど綺麗な青空から夕暮れに変わる瞬間を眺めながら、ゆっくりと永遠の眠りに付くっていう、方法だ。


 意識が落ちたら、プランプラン逝くわけよ。発見した人は、恐怖のトラウマを植え付けることになるだろうけどね。

 

 それでも、俺は俺を優先して死ぬんだ。


 スマホで、ほどけない縄の結び方を調べ、首を括る輪の作り方も調べる。


 死ぬ瞬間まで人は学ぶのだ。誰に活かされる訳では無いんだけどね。


 準備は出来た。後は、薬を飲んで、縁に座るだけだ。


 「短い人生だったな」なんて言葉に出してみる。

 なんにも思わないな。びっくりするくらいなにも感じない。


 死にたいと消えたいという感情に支配されてから、他になにも感じなくなってしまった。

 怖いもない、ただただ死にたいんだ。

 あ、でも痛いのは嫌だけどね、それは嫌だ。うん。俺は我が儘なんだ。


 

 コンビニで買ってきた、やっすい水で薬をがぶ飲みする。

 お腹一杯だ。最後の晩餐は、水と薬。味気ないねぇ。


 屋上の柵を乗り越えて、縁に座る。

 ひゃー!流石に怖い、高い。玉ヒュンだね。にしても、それを越えるくらいに気持ちいいな。

 

 こんなに、風が気持ち良くて、青空が綺麗で、雲もいろいろな形に自由に浮かんで。太陽の光は、俺を暖かく包み込んでくれる。


 これが、俺が見る最後の景色。

 人と話せなくなり、人の社会で自分の居場所が無いように感じ、息苦しく。

 誰からも見られない人生。

 

 俺の人生。


 俺の人生の最後は、この平等に与えられる美しい景色だった。

 



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