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十年目、帰還を諦めた転移者はいまさら主人公になる  作者: 氷純
第三章 十年目の転移者と十年目の冒険者と……
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第13話  解決策

 激しい戦闘を始めるトールとロクックから視線を外し、ユーフィとメーリィは周囲を見まわす。

 コーエンがゴーレムを盾にしながら双子を見た。


「時間稼ぎをしてどうするの。正直、合理的な解法はロクックをここで殺してあげることよ?」

「トールさんがそれを望んでいません。ならば、解決策を模索するべきです」

「これだから人間は……」


 合理性が欠片もない、とコーエンは呆れたようにトールを見た。

 メーリィがコーエンを横目に見る。


「ロクックさんの発言を総合すると、暴走の原因は魔石の魔力不足です。オーバーパーツを取り外せば元に戻ると思うのですが、どうでしょうか?」


 根本的な原因はオーバーパーツにあると判断して、原因を取り除く考え方だ。ともあれ、それをロクックが考えないはずはないとも双子は思う。

 メーリィが意見を求めれば、オーバーパーツの副作用を予想していたらしいコーエンはロクックを観察しながら返した。


「食事をすると症状が治まるとも証言していたわ。つまり、オーバーパーツの魔石に魔力が馴染んでいる。癒着しているのよ。オーバーパーツを外せば暴走そのものは止まるでしょうけど、どんな障害をきたすか分からない。おそらく、魔石を取られた魔機獣と同様に死ぬわね」

「では、魔力回復ポーションを飲むのはどうでしょうか?」

「Bランクの冒険者なら真っ先に試すでしょうね。解決しなかったのは魔力の回復が追い付いていないのか、魔力の性質の変換を人体部分ではなくオーバーパーツに頼ってしまうせいで吸収そのものができなくなっているのか」

「制御装置の破壊は無意味だともロクックさんは証言していましたね。となると、何らかの方法で魔石に魔力を補充するしかありませんね」

「決まりね。殺すしかないわ」


 魔石に魔力を補充する技術はない。

 解決策はないと、コーエンはロクックを殺すようゴーレムに指示を出そうとして、動きを止めた。

 トールの鎖戦輪が五機のゴーレムが内蔵する魔石すれすれをかすめたのである。

 手を出すなという警告だ。

 オーバーパーツを付けたBランク冒険者と戦闘を継続しながら双子とコーエンの会話を聞き、牽制まで行う余裕があるらしい。

 コーエンはあきらめてため息をついた。


「トールさん、感情に流されて問題を先送りしてもろくな結果にならないわよ?」

「良い結果を導くための努力ができるうちは先送りとは言いませんよ」


 横からユーフィが口をはさみ、コーエンの手を取った。


「協力してください」

「協力といってもね。魔石に魔力を供給する方法があるとでも?」

「実験します」

「……考えがあるのね?」


 にわかには信じられず、コーエンはユーフィの目を真正面から見返して訊ねる。

 ユーフィは静かに頷いて、ゴーレムを一機、指さした。


「ゴーレムを一機、潰します」

「……私のゴーレムを?」


 すっと真顔になったコーエンが剣呑な色を帯びた声で聴き返す。

 ユーフィはコーエンを見つめ返して頷いた。


「はい。ゴーレムに使用されている魔石と、魔力を取り出す機構を改造します」


 ゴーレム性愛者を公言するコーエンに対する要求として、最悪の部類なのは理解していたが、それでもユーフィは目的を説明する。


「魔力の個人差が振動によるものなら、蓄音機の要領でその性質を記録し、振動を変換しながら魔力を魔石に流し込めば充填できるかもしれません。その実験のためには、魔力が充填可能な容量の空きがある魔石と、魔力を取り出し流し込む機構が必要なんです。ぜひ、協力を」

「分かったわ。ただ、素人が弄れるほど、単純な造りはしていないから、作業は私がやる」


 ユーフィに協力を仰がれ、コーエンは仕方なさそうに頷いた。

 早速ゴーレムの背中に回り込んで外装パーツを手際よく外し始めるコーエンに、ユーフィとメーリィが目を白黒させる。


「……あの、言い出しておいてなんですけど、良いんですか?」

「あのね、勘違いしているみたいだけど私だって人命第一くらいの価値観は持っているわよ。そもそも、ゴーレム性愛者だからってゴーレムなら何でもいいわけではないの。話もしないゴーレムに愛は感じないわ」


 あっさりと、周囲のゴーレムに恋愛感情を持ってないことを暴露して、コーエンはゴーレムから魔石と魔力導線を取り出した。


「それで、これをどうするのよ。蓄音機っていうものがまず分からないのだけど?」

「蓄音機というのは音を記録するための機械です。音は振動ですから、蝋で作った層に振動を刻み込んで記録し、刻んだ溝を針でなぞって振動を再現することで音を再生する仕組みです」

「本当はカイガラムシの分泌物などを使いたいのですが、今回は魔機獣の脂肪を鹸化して作った獣蝋で作ります」


 メーリィが早口で説明する。

 双子はすでに構造や仕組みまで頭の中に構築してあるらしい。


「炭酸ポーションの開発者だけあって、本当に実現しそうで怖いわ」


 しかし、コーエンは問題点を見つけて指摘する。


「本当に振動を揃えれば魔石に充填できるかはともかく、振動の再現度が分からないね。再現度が低いと魔石は魔力を拒むかも。それに、再現した振動にどうやって魔力を乗せるの?」

「どれくらいの再現度が求められるかはわかりません。ですが、再現した振動に魔力を乗せるのは簡単です。記録媒体にエンチャントを施して魔力を宿し、それそのものを魔石とみなして魔力導線を繋いで魔力を引き出します」

「……分かった。ゴーレムに道中で仕留めた魔機獣の死骸を持ってこさせる。蓄音機とやらの製作を始めなさい。これで本当に魔力を込められるなら、私の理想のゴーレムも作れて一石二鳥だし、協力は惜しまないわ」


 すぐそばで高位冒険者が死闘を繰り広げているとは思えないはつらつとした笑みを浮かべるコーエンは大物だった。

 ユーフィとメーリィは頷きあい、トールに声をかける。


「必要資材を確保して戻ります。頑張ってください!」


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― 新着の感想 ―
[一言] これを利用した魔力指紋?による個人判別機とか作れそう。
[良い点] 作者さんの作品で主人公が強いて珍しいような。 [気になる点] 腕だけじゃ踏ん張りが効かないから、中枢神経も侵されてる感じかな? いや、自殺も止められるとなると大脳に直結してないと無理な訳で…
[一言] ロクックはこの街が大好きなんだな 迷惑かけないように、耐えてきたところで幸運が舞い込んできた感じか。 トールだけでなく、双子とコーエンという「この分野における最大の叡智」が集まってるのだか…
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