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十年目、帰還を諦めた転移者はいまさら主人公になる  作者: 氷純
第二章 十年目の転移者とダンジョン街

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第12話 攻略報告

 ダンジョンを出たトールたちを迎えたのは冒険者ギルドの職員だった。

 魔力濃度が下がったことでトールたちが封印に成功したと判断し、商業ギルドなどのやっかみを受けないうちに保護するべく待っていたらしい。

 職員と共にトールたちを待っていた冒険者たちが歓声を上げる。


「ざまぁみやがれ、商業ギルド!」


 わいわい騒ぎながらフラーレタリアの防壁をくぐれば当然住人の目を引いた。

 ダンジョン内の魔力濃度が下がって数日、封印成功の報はすでに周知されており、混乱は大きくない。


「……やはりというべきか、あまり喜ばれてはいませんね」


 メーリィが小さく呟く。


「放っておけ。すぐに涙を浮かべて仕事をする羽目になる奴らだ」


 素直に封印成功を喜べない住人の複雑そうな視線を無視し、トールたちは報告のため冒険者ギルドに向かった。

 ギルドの一階で待っていたのはフラーレタリア支部長だ。


「まずは、よくやってくれた。封印成功、おめでとう。報酬は用意している。報告書は明日でよい。……わしは寝たい」


 目の下に濃いクマができているフラーレタリア支部長は疲れ切った声でつぶやいた。

 案内してくれた職員がトールに耳打ちする。


「封印の正当性の説明をフラーレタリア議会でやったり、商業ギルドに魔機獣の襲撃が来ることを説明したり、ダンジョン封印後を見越して防衛戦力を整えるよう衛兵や議員に根回ししたり、外部のギルド支部に応援を打診したりと大忙しだったようです」

「あぁ、なんかすまん。序列持ちが二組もパーティを組んで封印目的に潜ったら、事前に手を打つわな」


 通常の攻略であれば、一階層進むごとに一度地上へ戻り、対策と報告を済ませてから再度潜る。そうでなければ仮に全滅した時、到達階層の更新がされないばかりか、ギルドは情報を何一つ得られないからだ。

 しかし、序列持ちが二組ともなれば魔物しか出ないダンジョンなど強行突破しかねない。

 事実、トールたちは一度も地上に戻らず封印にこぎつけた。


 封印の報告どころか最深部到達の報告すらない中、ダンジョン封印の成功を前提に根回しする難しさ。支部長が周囲をどう説得したのか分からないが、疲労の仕方から見て苦労のほどがうかがい知れる。

 支部長は眉間を揉んだ。


「いや、謝罪はいらんよ。事前に報告が上がったら商業ギルドがどんな妨害をしたかもわからんからな。あの分からず屋どもにはいい薬だ。わしも薬がほしいがな」

「炭酸ポーション、いりますか?」

「……もらおう」


 メーリィの申し出に少し悩む素振りを見せた支部長だったが、誘惑に抗いきれず欲しがった。


 本来は冒険者たちが依頼達成までの計画を話し合うときに使うテーブルの空きを見つけたユーフィとメーリィが余ったポーションと沸騰散で炭酸ポーションを調合し始める。

 調合過程を見るのが初めての冒険者たちや支部長が興味津々で手元を覗き込み、二酸化炭素が沸き上がるポコポコという音を聞いて感心したように唸った。


「本当に炭酸を作っている」

「こうやって作ってたのか。原理が分からん」


 メーリィがガソジンから炭酸ポーションを取り出してコップに注ぎ、支部長に差し出した。

 受け取った支部長は物珍しそうに炭酸ポーションを眺める。前線を退いて事務仕事や外部との調整が主な仕事になっている支部長にとって、炭酸ポーションは縁遠いものだったのだろう。


「どれどれ」


 コップを傾けた支部長は飲みなれない炭酸に一瞬眉をひそめたが、見る見るうちに体力が回復したのを感じたのだろう、驚いたように左手を握ったり開いたりして感覚を確かめた。


「こうも効き目が違うのか。病みつきになりそうだ」

「薬ですので、頼るのは良くありませんよ」

「あぁ、すまん、すまん。しかし、これはすごい。商業ギルドの連中の罪深さがよくわかるな」


 よほど感銘を受けたのか、商業ギルドに若干の敵意をにじませる支部長に周囲の冒険者たちが深く頷いた。

 トールはその時、双子が一瞬にやりと笑ったのを見た気がした。


 ユーフィが支部長から空のコップを受け取りつつ話しかける。


「実は、今後こういった事態が発生しないように一つ提案があるんです」

「提案?」

「はい」


 ユーフィとメーリィが両手を合わせて小首をかしげる。

 あざとくもかわいらしいポーズの双子を見た支部長は、孫にお小遣いをねだられた祖父のような顔をした。

 しかし、自分がだらしない顔をしたのを自覚したらしく、軽い咳払いをした後支部長らしい厳めしい顔に戻した。


「君たち双子の炭酸ポーションは多くの冒険者の命を救った。今後も救うだろう。そんな君たちの提案だというなら、聞いてみよう」

「では、遠慮なく、ブランド化による品質保証と冒険者ギルドへの委託販売による普及とその運転資金を稼ぐためにワイン蔵や錬金術師ギルドとの提携を提案します」

「具体的には炭酸温泉とコラボしてすでに周知されている炭酸ポーションの即効性を印象付けつつブランド化と品質保証を同時に達成」

「う、うむ?」

「今後の普及に当たりフラーレタリア商業ギルドと同様の行動にでる者が現れないよう冒険者ギルドが後ろ盾になりつつ、主な消費者である冒険者への直接窓口として機能してもらいます」

「また、各地への普及を行うためには炭酸ポーションが必要ですが、この製造費用を稼ぐためにワイン蔵と錬金術師ギルドを巻き込みます。ワイン蔵にはスパークリングワインの製造を条件に――」

「待て、待て、仕事を大量に増やすな!」

「――美味しかったですか、炭酸ポーション?」


 飲みましたよね、とにっこり笑うユーフィに、支部長は引きつった笑いを浮かべた。

 効果はその身をもって実感し、これが普及すれば冒険者が助かることも表明してしまった。

 支部長は立場上、双子の提案を断るわけにはいかない。


「……経理担当と話をしてからだ」

「大丈夫です。数日は待ちますよ」


 支部長があっさりと丸め込まれる流れを見ていた冒険者たちが怯える。


「序列持ちのツレ怖え」

「炭酸ポーション普及させたらあの双子ちゃんも序列持ちになりそう」


 成り行きを見守っていたトールを岩塊のフドゥが肘でつついた。


「あんたの仲間、したたかだな」

「俺がちょっと抜けてるから、頼りになるんだ」


 呼び出された経理担当と軽く話をしてから、双子が戻ってくる。


「トールさん、ちょっとお金が入りましたし、しばらく時間も空きましたので温泉町にいきましょう」

「ダンジョンでの疲れを癒して商談に臨みたいです。問題解決に力を貸してくれた、岩塊、鞘討ちの皆さんもご一緒にどうでしょうか?」


 メーリィがトールの腕に抱きつき、返事も聞かずに温泉町へ歩き出す。ユーフィがダンジョン攻略パーティを誘うと、フドゥもバストーラも二つ返事で了承した。

 早速温泉地に向かおうとするトールたちを支部長が呼び止める。


「ちょっと待ってくれ。商業ギルドの重鎮が謝罪に来るはずだ。みそぎを済ませないとここの連中も納得しないから、付き合ってくれないか?」


 すでに支部長の説明を受けてこれから特需が来ることを知った商業ギルドが手のひらを返したらしい。

 メーリィがトールを見上げる。


「どうしましょうか?」

「二人が決めるといい。直接被害を受けたのは二人なんだからな」

「……そうですね。待ちましょうか」


 何かもうけ話を考えているな、とトールはメーリィとユーフィの表情から読み取った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、主人公たちを敵に回した商業ギルドが悪いよなぁって話 商業ギルド別のやり方もあったんじゃない?とかおもったり
[一言] 綺麗な花にはトゲがある さて、商業ギルドにはどれくらい深く刺さるのか
[一言] ここで特許かな? 年次式の製造許可証みたいなのを発行 手数料と売上の何%かをギルドの取り分に を謝罪を盾に捩じ込む 前例が出来るから他のギルドでも問題ない 両ギルドが後ろ盾に成らざるを得ない…
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