プロローグ
この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありませんm(__)m
一瞬、ほんの、一瞬だ。
光。振動。サイレン。熱。
それら一つ一つが、与えられるべきだった平穏から、少年を遠ざけ、加速していく。
繋がれた柔らかな手は、惜しむ間もなく突き放され、瓦礫に飲み込まれた。
頭をなでてくれた大きな手は、荒れ狂う炎が空へと連れていった。
地面にべったりと座り込む少年の手が、冷感を得る。
先程まで食べていたバニラアイスが、カップから流れ去っていた。
そこに赤で描かれたマーブル模様は……一体?
視線を上方へやる。
そこには、彼が生まれてから5年かけて培った世界の常識を覆し、不自然に浮遊する人影があった。
その背中が、ゆっくりと反転し、少年の方へと向きを変える。
瞬間、空気が凍りつき、思考と体が切り離された。さながら意思を持つ人形のように。
少年を見下ろす、血の色をした唇が、裂けんばかりに吊り上がる。
それが表現するのは、狂おしいほど歪んだ、歓喜。
(これは、夢、)
少年の想い、そして願いは、外界へ出ることなく、脳内で霧になって消えゆく。
震える唇がそれを紡ぐのを許さない。
視界がぼやける。体が傾いでいくのが分かったが、それを止める術など、あるだろうか。
少年の思考が、ゆるゆると白くはじけていく。
薄れゆく意識の中、彼に最後に焼きついたのは、蒼だ。
どこまでも冷たく狂気が渦巻いて、それでいて、どこまでも澄んだ――蒼い瞳。