愛
「お前の家族も転生させてやろう! 其れが好い! まったくナイスアイデアだと思わんか?」
「なっ――」
「そうすれば、また家族全員で暮らせる。転生した暁には、病気も直して、お前たちにふさわしい、お前たちの為だけの世界を造ってやる。好いことづくめじゃないか!」
「何を言って――」
それは、僕が心の奥底で考え、しかし真っ先に否定していた考えだ。だって、それはつまり――
「なに、心配はいらん。簡単なことよ――たださっくりと死んでもらえばいい」
「――」言葉にならない。なんて簡単に、生き死にを口にできるのか。
「どうせろくでもない人生なのじゃろう? これ以上生き恥を晒すくらいなら、とっとと生まれ変わって、好きな人生を生きればいい。そうじゃ、父親が死んでおったな。ついでに生き返らせてやろうか?」
何か、切れる音がする。弦楽器の、張り詰めたテンションが限界を迎えるように。ぷっつりと。大事なものを、こいつはすべて、奪い去ろうというのか? 代えがたいものを、得難い、ただ唯一のものすらも。今までの人生を、すべて無為の彼方へと追いやってしまうというのか。
「人間を、生き物を、生命を、いったい何だと思ってるんだ」
「何がそんなに不満なんじゃ? 単体の命に意味などない。総体として見ればお互いに影響をもたらすが、そんな、ちっぽけな一個人にどこまで幻想を抱いておる? おめでたいやつだ。お前たち人間は、人類、いや、命というものを過大評価しすぎている。“私”は、そこまで命の値段を棚上げしたりしない。価値は等しく無価値だ。まったくもって理解できん……愚かな子よ」初めて老人は、不満を露わにする。
そうだ、理解できてないんだ。それならばしょうがない。神? 笑わせる。赤子以下、いや、生命体のなかで最も愚かだ。全知全能? 無能の間違いだろう。糸の通じていない孤独なマリオネット。一人で足りているから、他を理解する必要がないのだ。
もういい。もう、言葉を交わす必要はない。