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d e m

悪夢の転生




 真っ白い、広大な空間で目を覚ました。ここはどこだろうと真っ新な頭で考えた瞬間、数秒前の光景がフラッシュバックした。

 不意に背中に届いた衝撃、吹き飛ばされ、分かたれる上半身と下半身、路上に転がり、大型自動車に引きずり込まれる腰から下、それを、意識が途切れる直前まで、ただ見ているしかなかった、臓物をまき散らす胴体だけの自分――


「――ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 弾かれたように、叫びながらその場にうずくまった。

 激痛が、脳裏に染み付いた経験が、神経細胞を通じて電流を走らせる。手足は、そろっている。体も、何故かわからないが繋がっている。だが、脳幹の奥に根付いたトラウマは、痛みを介して自分に訴えかけている。

 その体は幻想だ。覚えているだろう? あの衝撃を。お前は、さっき死んだのだ、と――


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 頭を抱え、髪を掻きむしり、絶叫する。耐えられない。耐えられるはずもない経験を、自分はしたのだ。幻肢痛については、聞いたことがある。体のある部位、例えば手や足などを切断した後、あるはずもない手足に痛みを感じることだったはず。では、今の自分は? この耐え難い苦痛は、いったいどこから、何からもたらされているんだ?

 落ち着け、考えるな、叫ぶな、呼吸を整えろ。何もわかっていない。確かに、自分は死んだかもしれない。だが、身体は無事だ。この痛みは、偽物だ。無視しろ、今は、とにかく冷静になれ……。

「――すー、はー、すー、はー……」深い呼吸を意識する。暴れる心臓と脳を、肺に酸素を目いっぱい取り込むことで正常に戻す。思考は一切放棄し、このルーティーンのみに集中する。だんだんと、意識がクリアになっていくのが感じられた。

 大丈夫と自分に言い聞かせて、少しずつ、正気を取り戻していく。まだ少し怖いが、自分の体がどうなっているのか、確かめないわけにはいかない。ゆっくりと、恐る恐るだが、両手で体に触れていった。

 頭、異常なし。さっき動転したせいで多少皮膚を傷つけて出血していたが、それ以外は無事。首、異常なし。絶叫した影響で喉が痛いが些末なことだ。両腕、大丈夫。どこも欠損していないし、指もそろっている。胴体……一番怖かったが、問題なし。服の上から触っただけだが、着ていたスーツの下には、二十五年寄り添った、だらしのない肉体が存在している。腰から足先はなでるようにスライドさせる。大丈夫、問題ない。自分は、確かに生きている。


「――――っくぅ……!」


 涙が止まらなかった。悪夢のようだった。自分がなくなっていく感覚に、正気を失いかけた。今存在できている喜びに咽び泣いた。


「神よ……! 感謝します……! 罪深い僕に、慈悲を与えてくださり、本当に……!」


 頭を深く垂れ、手を合わせ、祈りの言葉を唱える。自分の日々の信仰が、神に届いたのだろうか。今まで、神の存在を信じてはいたが、その恩寵を見ることは叶わなかった。恐らく、信仰心が未熟なのだろうと思っていた。僕はまだ何も成しておらず、聖霊の御業に会うに値しないのだと。だが、今、その御業を、身をもって体感した。神は、見ていてくださった……


「主よ、父と子と聖霊の御名において――」


「私を呼んだかな?」


「――!」息をのんだ。誰かが、僕の祈りに答えたからだ。


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