ヤムさんのではないですよ
ユナは休憩中や寝る前など空いている時間を見つけては刺繍をしていた。
「何をそんなに熱中してやってるんだいと?」
ユナが刺繍を始めてから毎日ヤムは聞いてくる。その度にユナは秘密ですと答えていた。
「なんだい。まだ秘密なのかい気になるじゃないか」
「後、少しななので待ってください」
最後のひと針を通し糸をきる。自分は結婚して幸せになる事ができないかも知れない。リーと自分の事のように思い込めて縫い上げた。
「ヤムさん、できましたよ」
刺繍していた布を拡げる。白い布に青い二羽の鳥が寄り添い、白い布に白い花の刺繍がちりばめられ光があたると綺麗に反射し浮き出てみえた。
「姫様、私のですか?」
ユナは目を丸くする。
自分のではないとわかっていていてヤムはユナをからかったのだ。
「明日、渡す時が楽しみだわ」
「えぇ」
いつも業務的な彼女が笑顔になるのを想像して嬉しくなった。
ヤムが下がり文佑との勉強の前に自分で刺繍をした布を見せた。
「見事な刺繍ですね」
文佑は感心する。
「姫様の物なのに勝手に使ってすみません。人に差し上げたいのですがいいですか?」
「ユリがおいていった物ですからユナさんの物になるので構いませんよ」
文佑は布の刺繍を再びみる。
「見事だ。誰に教えてもらったんです?あ、差し支えなければ」
「母に教えもらいました」
「ユナさんの母親はもしかしたら良い所の産まれかな?」
「なのかもしれません。再婚先の家も裕福でしたがそれでも貧しいと家を出てしまいましたから」
ヨウ国の名家か?ルセの有力の者か?祖父があえて教えないって事はそんな感じかな。




