母の気持ち
「どうして!」
うぐぐぅ
ファンリーは唸る。
「仕方がないだろ、どこからどう見てもヨウ国人とわかるような姿では歩けないんだから」
ヤムはファンリーじっとみてなかなかいい感じだと思うだけどね。
ファンリーは女装させられていたのだ。
ヤカモズ帝国の西南にいる岩砂漠民族の女性衣装だった。その民族はヤカモズ帝国の全土で商隊にでて商売をしている。ヤカモズ帝国どこにいても商売ガラ信用はされていないがその民族がどの町や村にいても不思議に思われなかった。その民族の特徴は大柄で女性は濃い色のショールを頭からかけて顔を隠していた。ヤカモズ人より細身なヨウ国のファンリーが変装するにはぴったりの姿だった。
「そうだけど、なんでこんなに胸に詰め物をしなくてはならないんだ」
「しかたないだろ。その背の高さで女性らしいくびれを入れるとだいたいそれぐらいは必要なんだよ」
ファンリーは色気もなく両手で詰め物胸を下から持ち上げた。
「そうなのか、、、」
ファンリーが肩を落としているとユナは目を合わせてじっと見つめた。
「すごく綺麗ですよ」
「!」
ファンリーはユナに言われて気分が良くなったのかそれ以来文句を言わなくなった。
そんな姿をヤムは白い目で見ていた。ラエルはそんな母を見てまぁまぁと笑いながら肩を軽くたたいた。
一方ユナは髪を布で隠しルセの少年の姿でヤムと並ぶと親子に見えた。
「僕たち兄弟みたいだね」
「本当にそうだったら良かったのに」
ヤムはしみじみそう思った。
「母さん・・・。ひどい事になる前に急ごう」
村中の家を一軒一軒入り探る兵が近づくのが見えた。こちらまでくるのも時間の問題だった。ユナ達は持つものをもってヤムのマラン村を後にした。
ファンリーはヤムがなぜこの格好をさせたのか良くわかった。兵が少なく治安が少し悪い村や町だったりした。そんな町や村に泊まる度になぜかファンリーは夜に襲われた。ルセの貧しい村の男だった為、ファンリーより弱く、ファンリーはすぐに撃退する事ができた。そして夜に襲った事に罪悪を覚えるのか村も町の人も兵に言ったり追いかけてくる事はしなかった。
そんな村をでた後ファンリーは不満をもらした。
「ヤムさん、俺は寝不足だ」
なにが隣の部屋で起きてるのかわかっていたのでヤムは申し訳なく思っていた。
「おかげで安心してユナも私もぐっすり眠れる。ありがとうね」
「う」
ヤムの心のこもった感謝をファンリーは反論できなかった。
出稼ぎの貧しそうな親子と後腐れのなさそうな商隊外れの美女だったらどちを襲うかといったら後者に決まっていた。ユナやヤムさんが襲われるよりかは自分が襲われた方がいいとは思った為、これ以上ファンリーは何も言わなかった。
ヤムは言えなかったが実は息子の案だった。
息子のいった通りだね。治安がわるくても村や町を保っている以上貧しい者を襲う事はないと思う。だけど保険としてファンリーを目立つ美女にしておけば母さんとユナさんはほぼ襲われることはないだろうと自分が襲われるよりも母さんやユナさんが襲われる方が正義感の強いリーさんだから耐えられるだとうと。
私も夫もあまり頭が良くないのに誰に似たのか聡い子にそだったね。こんなご時世じゃなかったらお大臣にもなっていたかもしれないね。
ヤムは感じているのだ、このご時世でもラエルだったそこそこの地位になる事ができたがあえて出世を望まなかった事を。
それを感じいるヤムは寂しく思った。