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八話、迎える朝

  私が目を覚ましたのはまだ明け方といえる時間だった。


  隣に寝ていた東宮様も目を覚ましたらしい。昨夜は接吻をしてそのまま寝入ってしまった。まあ、けっこう緊張はしたけど。辺りはまだ暗いようだ。


「……風香姫?」


「おはようございます。東宮様」


「姫。東宮と言わず名前で呼んでおくれ」


  私は驚きのあまり固まった。東宮様は本気らしくてじっと見つめたままで待っている。確か、東宮様の名前は……。


「……は、春仁様」


「いいね。もう一回呼んでくれないか」


「わかりました。春仁様」


  顔に熱が集まる。それでもやけで呼んだ。東宮様もとい春仁様は嬉しそうにしているようだった。


「じゃあ、私は行くよ」


「はい。行ってらってしゃいませ」


  そう言うと春仁様は近づいてきて私の髪を撫でた。優しく撫でられて余計に恥ずかしくなる。


「……姫ではなく。風香と呼んでもいいか?」


「ええ。いいですよ。お好きなようにお呼びください」


「風香。また今宵も来るから」


  低い声で言われて私は俯いた。それでも悪い気持ちはしなくてコクリと頷いた。額に軽く接吻をされる。春仁様はそのまま行ってしまった。私はへたり込んでしまったのだった。



  朝方になり堀河こと香屋子姉さん達がやってきた。皆、心配そうにしている。どうしたのだろうと思っていたら香屋子姉さんがすぐ近くにやってきた。小声で問われる。


「……史華ちゃん。何もされなかった?」


「……ええ。キスをされたくらいだけど」


  いきなりではあるが前世の名前で呼ばれた。それでもいつもの事だったから答えた。姉さんはふうむと眉間にしわを寄せる。


「あの方は意外と女慣れしてるわ。気をつけなさいよ」


「裕子さん。何でそんな事がわかるの?」


「……女の勘よ。春仁様はなかなかの遊び人だわ。だから気をつけてって言ったの」


  そういうものだろうかと思う。裕子さんこと香屋子姉さんはこれでも私より人生経験が前世の分プラスで豊富だ。勘も鋭い所がある。まあ、聞いておいた方がいいかなと考えた。


「わかった。アドバイスありがとう。裕子さん」


「どういたしまして。また何かあったら知らせてね」


  そう言うと香屋子姉さんは離れた。その後は周防達と一緒に私の身支度を手伝ってくれたのだった。


 

  お昼になり、私の居所である登華殿に父様といとこの成明(なりあき)様の二人がやってきた。ご機嫌伺いに来たらしい。


「……女御様。久しぶりです。お元気でしたか?」


  父様が心配そうに訊いてきた。私の代わりに周防が答える。


「ええ。お久しぶりです。左の大臣(おとど)様や頭中将様もお元気そうで何よりでございます」


  頭中将というのは成明様の役職名だ。左の大臣は父様の役職名になる。二人ともにこやかに笑いながら答えた。


「いやいや。女御様が入内なさってからというものの我が邸も火が消えたような有り様でしてな。一の姫も出仕をしてしまったから余計にね」


「まあ。でしたら東宮様にお宿下がりのお許しをいただかないとなりませんね」


  周防がまた代わりに言う。けど私は何にも言っていない。仕方ないので開いていた衵扇をそっと閉じた。音が鳴るとすぐに女房達が気づいたらしい。


「……皆。左の大臣様と頭中将殿、堀河を残して退がりなさい」


  一言命じると女房達は静かに部屋を退出していく。しばらく経って成明様や父様、香屋子姉さんだけが残った。


「ところで。女御様。人払いをしたという事は何かありましたか?」


  頭中将もとい成明様が訊いてきた。私は衵扇を再び開いて答える。


「……ええ。昨夜、東宮様がいらして」


「東宮様が。まさか、女御様にお渡りがあったという事ですか」


「生憎、東宮様は直ぐにお帰りになられました。どういう事かと思いまして」


「なるほど。東宮様は女御様に手を出しておられないと」


「……さすがに察しがいいですね。成明様」


  胡乱げに見つめながら言うと成明様は苦笑いした。


「遊び人という程、経験を積んだわけではないですがね。それでも俺であってもわかりますよ」


「そういうものかしら」


「女御様。東宮様は気にかけておられましたよ。そうお気を落とさずに」


「……ありがとう」


「礼には及びませんよ。また、相談したい事があったらおっしゃってください」


  わかったと言うと成明様はにっこりと笑った。何気に彼もイケメンだなと思ったのだった。


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