番外編 風香のポエム一
私は今日もポエムを書く。
もちろん、春仁様の事をだ。さーて何を書こうかな。
<ハル様は私の王子様。
けど意外と硬派なのかな。
軟派なのかな。
どっちだろう。
私の愛しのダーリン。
いつか、○○をされたい。
私に行ってきますとただいまのチューを>
あんまりの内容に我ながら赤面ものだ。見られたら恥ずかし過ぎて気絶できる自信がある。けどそれくらいストレスが溜まっていた。要はハル様不足なのだった。
「……うう。ハル様に会いたい」
小声で呟いてため息をつく。実は肇子様が風邪をひいたらしく、ハル様はそちらにかかりっきりなのだ。姫宮様方もいらしていない。私には息子が一人生まれていた。恒仁という。もう二歳になっている。数え年では三歳か。
「……女御様。若宮様をお連れしましたよ」
「あ。小式部が連れてきてくれたのね。ご苦労様」
「ええ。若宮様ももう大きくなられましたね」
小式部が手を引いて恒仁と私の所までやってきた。二歳と四ヶ月だったか。既に立って歩くのをマスターしている。
「……おたあさま」
「恒仁。よく来てくれたわね。いらっしゃい」
にっこりと笑って私はとてとてと歩く恒仁に近づいた。両脇に手を差し入れて縦抱きにする。恒仁はにこにこ笑いながら甘えてきた。う〜む。やっぱり可愛いわあ。我が子ながらそう思う。しばらく恒仁の相手をするのだった。
その後、やっとハル様もとい春仁様が私の居所である登華殿に来た。といってもまだ宵の口だが。
「……風香。すまないな。宣耀殿の風邪がやっと治ってきたんだ。それで来れたんだが」
「まあ、仕方ないですものね。姫宮様方はお元気ですか?」
「ああ。棐宮や千萱宮も元気にしているぞ。二人共、恒仁にまた会いたいと言っていたな」
「へえ。棐宮様や千萱宮様がそうおっしゃっていたんですね」
「風香。棐宮は君を心配していたぞ。母上みたいに風邪を患ってないかと」
春仁様は真面目な顔で言う。私は棐宮様の性格を考えたら確かになと思った。
「……それは大丈夫ですよ。春仁様も気をつけてください。棐宮様には後で御文を送ってみます」
「是非そうしてくれ。君が文を送ってくれたら宮も喜ぶだろうから」
「わかりました」
頷くと春仁様は私に近づいてくる。そうしておもむろに抱き締められた。ふわりと彼の薫衣香が鼻腔に届く。
「……風香。恒仁はもう寝ているな?」
「……ええ。どうかしましたか?」
「いや。今日はこのまま朝までいようと思ってな」
私はそれを聞いて驚いてしまう。春仁様は額にキスをすると寝所に行こうと言う。仕方なく頷いたのだった。
あれから半月くらいは春仁様のお渡りが毎日のようにあった。それのおかげで気分的には充実している。
「……女御様。棐宮様から御文です」
「……届いたのね。見せてちょうだい」
小式部から綺麗に折り畳まれた文を受け取る。今は初夏だ。その季節にふさわしい空色のご料紙だが。内容を確認した。
<風香様、お元気でしょうか?
わたくしは元気にしています。母上が風邪の気味にて臥せっていましたのでそちらへお伺いできずにいました。
風香様は風邪にかかっていないと父上から聞きました。
それを耳に入れた時は思わず胸を撫で下ろしましたね。
では体調にはくれぐれも気をつけてくださいませ。
棐宮>
流麗な筆跡で書かれている。棐宮様の几帳面な性格がよく出ていたが。私はお返事をどうしたものやらと考えた。
小式部に言って文を書くための準備をしてもらう。文机の前に座り硯石で墨を擦る。筆を取ってお返事を書いた。
<宮様、この度は御文をありがとうございます。
私は元気にしています。ご心配いただき、傷み入ります。
母君様が風邪の気味との事。ご回復なさる事をお祈り申し上げます。
宮様もお気をつけくださいまし。
それでは失礼致します。
風香>
普段よりも丁寧に書いてみた。細く折り畳んで花の形に結う。小式部を呼んで宣耀殿に届けるように言った。心得顔で小式部は頷いた。部屋を出て行くのを見送ったのだった。
数日後、肇子様の風邪が完治したと聞いた。知らせてくれたのは棐宮様だ。といっても文でだが。春仁様も安堵していた。私も内心はほっとしていた。肇子様には珍しい今様色や淡香色の反物を以前に頂いていたのだ。お返しに何を贈ろうかと悩んでいたのもあって余計に心配だった。完治したのなら贈っても差し障りはない。そう思って私は父上にお願いして薄い萌葱色や空色、薄紅色の反物を用意してもらった。
肇子様に文を添えて送り届けた。棐宮様や千萱宮様の衣装にも使っていただけたらと書いてみたら。その翌日にはお返事が届いたのだ。
<綺麗な反物をありがとうございます。
姫宮様方も喜んでいらっしゃいました。わたくしも今から仕立てて袖を通すのが楽しみです。>
綺麗な筆跡でそう書いてあった。肇子様の直筆らしい。結構、喜んでもらえたようだ。ポエムに肇子様の事を書いてみたのだった。