作戦開始の合図
少し遅れたので二話投稿します
冒険者たちがスタンバイしている中、僕は後方をちらりと見る。
話の輪に唯一加わらなかったメンバー。
マージョリーさんは今、少し離れたところで、ある儀式をしている。
他の魔法使いとともに魔法術式を発動準備をしているのだ。
ところどころ、魔法エネルギーが可視化した光が瞬き、魔法使いたちの呪文が微かに聞こえる。
そう、彼女たち魔法使いが巨大な円を囲んで呪文をつぶやいているのだ。
それは、この異世界とは何段階も進んだ術式だ。
ドラゴン、、師範が特別に彼らに教えたのである。
あの『魔法』が完成すれば。
それが作戦開始の合図。
そう、今はただその時をじっと待つだけだ。
そんな中。
「いよいよだね・・」
ふと南雲が神妙につぶやき、東堂が返す。
「ああ、しかし、改めて見ると、凄まじい光景だな」
彼は、バリアを突破しようとしている大量の巨大なモンスター群を見てつぶやく。
「うん、皆と一緒とはいえ、あんなモンスターたちといままで闘ってきただなんて・・数日前までには思いもよらなかったよ~」
「そうだな。だが、そのおかげで、この数日は濃密な時間を過ごせた気がする。なんだろうな。急激に成長したというか」
東堂がこちらを見る。
「今なら、妹さんに再開しておとなしくなったあなたに、勝てるかもしれないと思っていたが・・・
あなたはそんな俺たちの成長を軽々と超えてしまった」
まったく、貴方の才能が怖いくらいだよ」
そんなことを言ってきたが、しかしその認識は間違っている。別に才能うんぬんの話ではない。訂正するために言葉を返した。
「・・いや、僕の成長は、師範の力を借りて得たようなものだから」
「そんなことはないと思う。力を借りたといっても、誰でもそれだけのオーラを纏うということはできないからな。
日ごろの鍛錬、そう土台が・・いや、しかしどこか前よりも・・」
彼は近接型故に、相手の本質を見ることが得意なのだろう。良い目をしている。
故に分かったのだろう。今の僕が、前の僕よりも・・
「・・弱そうに見えるだろう?」
「いえ、そんな」
そう僕が自嘲気味に言うが、それに西園寺が会話に入る。
「ええ、そうね。前よりもずっと弱く見えるわ」
「・・やっぱりね」
そんな西園寺の言葉が、不遜だと思ったのだろう。
生真面目な東堂がそれを制止する
「おい西園寺!あんまり失礼なこと言うなって!!」
しかし、彼女はそれに聞こえないふりをして続ける。
「でも、それ以上に、優しくなったようにも見えるわ」
「!!」
「私はどちらかというと、今の優斗君のほうが好きだけどなー」
「そうか。そう言ってくれてうれしいよ」
その言葉に僕は素直にうれしいと思う。
どうせ、あと数時間でこの戦いは終わるのだ。
ならば、殺伐としているよりも、優しいと思われる方が得なのだから。
しかし、東堂はむすっとして西園寺に不満げな表情を見せた。
「おい西園寺!!優斗さんといえどそういうことを言うのは・・!!」
「ふふ、、分かってるって。でもこういうの貴方嫌がるかなーって思ってサ!」
「くそ・・ッ!分かっているならやめろよ!」
「??」
よくわからないが、、何やら彼らは以前よりも数段仲が良くなっているようだった。
一見仲が悪そうにも見えるが、雰囲気は柔らかい。
(僕がいない間に何かあったのだろうか?)
その疑問が顔に出ていたのだろう。
「ふっふ、気になりますかな?優斗どの!」
アンジェリカが横から入り込んできた。
その答えを知っているような顔をしている彼女に、僕は素直に聞いてみることにする。
「ああ、何かあったのかい?」
「ふっふ、それはですね・・なんとこの二人・・」
「「わーーー!わーーー!言うな!!言うなって!!!」」
それに対し、東堂は何やら騒ぎ立てる。
その大声でアンジェリカの声はかき消されるが、、
それ以上の大声で南雲が答えを言ってしまった。
「この二人、付き合ってるんだって!!」
「わーーー!!!」
「何を恥ずかしがってるんだか」
なるほど、東堂と西園寺が恋仲に・・
しかし、 みんな笑いを抑えているのに精いっぱいのようだ。
どうやら東堂はそのことを恥ずかしがっているらしい。
「優斗さんだけには秘密にしてくれって言ったよな!!」
「いいじゃないいいじゃない! どうせバレるって!!」
「そうだよ。何を恥ずかしがっているんだか」
「ぐぐぐ・・・」
彼の心理はよくわからないが・・しかしそれが一般的に見てめでたいことであることには変わらないだろう。
「おめでとう。東堂君!」
「・・・ありがとうございます」
そして、その次の瞬間、何やら柔らかい感触を二の腕に感じる。
「・・?」
横を見ると、そこにはメイド姿のロボット、北条君がいた。
「えへ、えへへへへ」
「どうしたんだい?」
「い、いや・・なんか他の冒険者も次々に付き合っていく人たちもいますし・・
形だけでもいいから僕たちも・・ッ!」
「!」
「つ付き合って下さいいいい!!!!!!!」
「「うげ」」
いわゆる・・愛の告白。
一般的に神聖に取られがちなその言葉だったが・・
いかんせん、皆眉をひそめ次々に好き勝手に言う。
「そうかもそうかもとだと思ったら、本当にそうなのか北条・・君ってやつは・・」
「ホモ、同性愛・・正直理解できない世界ね」
「私は良いと思うな!!うん!!!」
「な、なんですか皆さんそのリアクションは!!」
「いや、別にお前の性癖を否定するつもりはないんだが・・」
「あんたたちだって付き合ってるでしょうが!!誤ってください!!」
色々と言い争っている中、僕は頭をフル回転させる。
そうか。彼は僕と付き合いたいのか。
しばし、数秒、頭を巡らせて、決断する。
、、ダメだ。僕には妹という守らねばならないものがある。
男だからという理由で断るのではない。
たとえ誰であっても僕は百花以外の愛に答えることはできないだろう。
確信し、返事を返した。
「ごめん、北条君・・僕は」
のだが、
「や、やめてください!!!」
それに遮るように北条は口をふさいだ。
「へ、返事は今じゃなくてもいいです!!い、今はこの戦いが終わってからで!!」
「そ、そうか」
「は、はははは、なんかすみません」
「いや、大丈夫だ。君も色々と思うところがあったんだな」
「ええ、、ま、まあそうですね・・えへへへ」
何か気まずい雰囲気になってしまった。
おそらく、彼もこの戦いで何か死線を潜り抜けたのだろう。
しかし、いきなりの大胆な行動に動揺を隠せない。
変な雰囲気だが、、それをぶち壊したのは。
「うむうむ、しかし北条殿」
「ッっ!!!」
彼だけではない。この周辺にいる冒険者が一瞬血の気が引くほどのオーラ。
その発生源であるアンジェリカが北条の肩に手を置いて、北極かと思うほどの冷たい口調でいう。
「この私を差し置いて優斗殿に告白とは・・抜け駆けとは感心しませぬな。ハハハハハ」
「・・・ッッ!!」
「ましてや、こんな局面で」
「す、す・・」
彼は手足のバーニアを瞬間的に作動させた。
「す、すみませーーん!!」
バシュッ!!
「どこへ行こうというのですかな?」
シュンッ!!
「おいおい」
戦いの前だというのに、彼らは追いかけっこを始めてしまう。
「あいつら、そろそろ戦いが始まるっていうのに・・!
「まったく、のんきな人たちね」
「でも面白いからいいじゃん!!」
東堂は、肩をすくめる。が、軽く笑うと、同意したようにうなづき、
「ああ、それに・・」
東堂、南雲、西園寺はこちらを見る。
「魔王は、貴方が倒してくれるんですよね?」
僕は確信をもって答える。
「・・ああ、その通りだ」
「だったら、俺たちは作戦通りに動けばいいだけだな!!」
そして、、その作戦の最初のトリガー。
ちょうどそのころに背面からその予兆が感じられる。
見ずともわかる。
マージョリーさんたち、魔法使いたちの発動せんとする魔術式。
その光、魔力があふれだしている。
「「●×▲■●×・・!!!」」
呪文もどうやら佳境に入ったようだ。振り返ると、マージョリーさんは詠唱しながらこちらを見た。
「(優斗!)」
マージョリーさんの無言の視線から、もうすぐ魔法が発動することが理解できた。
僕は周囲を見回す。
「皆、、準備は・・!」
「「・・・・ああ!」」
大丈夫なようだ。
緊張が最高潮に達し
そして、その数秒後・・
魔法が発動し、世界から『色』が『消えた』。