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亜空間での修行



 そして、三日後。


 僕にとっては、それ以上の長い長い期間だったが。


 師範にもう十分と許可をもらい、久しぶりに『元の世界』へと帰還した。


 と同時に、増幅する邪悪な波動を感じる。



「・・・やはり、魔王はあと少しで復活するようですね。師範」


「その通り。あともう少しでこの世界はおしまいみたいじゃ」




 このままでは、魔王城の術式は完成し、この異世界は崩壊。そして魔王は次なる世界を求めてまた旅に出る。



 だが、そうはならないということは、自分がよく知っている。


 僕が・・いや僕らがそうはさせないのだ。



「・・・」


 僕がそう決意していると、ドラゴン型の玩具ロボット・・・師範は、こちらをじっと見て、ニヤッと表情を崩した。


「いい面構えになったものじゃわい・。さすがはわしが仕上げただけはある」


「はい・・あなたが良い訓練法やアドバイス・・そしてあの空間を提供してくれたからです」


 そう、僕はこの三日間、時間が引き延ばされた空間で修行をしていたのである。




 修行・・そう、そこでの時間は充実していた。


 今までの修行とは比べ物にならないほどの濃密さ。


 エネルギーが体にみなぎっているような実感・・。


 そして、何より魔王を倒すために重要なのは・・あの『スキル』、いや『術式』。


 これによって、確実に魔王を『倒せる』という確信があった。




 僕はドラゴンのホワイトノイズに頭を下げる。


「本当に、感謝してもしきれません」


 ドラゴンは機械の瞳を閉じて言う。



「良い良い。元々はわしの責任じゃしな。

 それに、わしは大したことはしとらんよ。


 すべては貴様の実力じゃ」



 そういわれて悪い気はしないが、謙遜しすぎではないだろうか。


 仮にそうだとしても僕一人だけでは何とかならなかったことがある。



 そう、時間。


 魔王討伐に間に合わせるため、普通ならばたった3日で今の境地に達するのは到底不可能。


 世界崩壊までのタイムリミットまでに覚醒することができたのはこの突然現れた謎のドラゴン、、師範のおかげなのだ。



「いえ、しかし、あの時間を引き延ばす世界、あれを作るには相当のエネルギーが必要ではないですか?」


 そのことについて尋ねてみると。


「ふん、、実はあの空間は実は簡単なんじゃがな。ただこの世界の外に転送させただけの話よ。


 世界の外は時間の流れも違うゆえに微量なエネルギーでの調整も容易。すなわちただのチートという奴じゃ」



 突き放すかのように答えを返す。




 それを聞いて、得心した。


(そうか、あの空間は、やはり、そういうことだったのか・・)


 そう、あのトレーニング空間は、この異世界に来る前、神様がいた世界に似ていたのである。


 つまりは世界の外。


 僕はこの三日間の、、いや、主観的に言えば『3年』の修行を思い出した。













「どうじゃ?優斗よ。この空間は」


「・・・っ!!」


 ドラゴンに言われ、魔法のゲートをくぐった直後から、ここが違和感だらけだと感じ取った。


 神様のいた、白い空間とは真逆。


 ここはまさに暗黒の空間。




 いや、ただ暗黒ならばどれだけよかっただろう。


 足元、上空、右左、前後、そのどの方向にも『何もなかった』のだ。


 凍えるような、冷たい空間、孤独、それこそが僕が3年間修業に費やした空間。


 今ではなんてことはないように思えるが、ここに来た当時はなんて寂しい場所なのだろうと感じた。


 ここは宇宙空間、いや、ドラゴンの言う言葉通りならば、本当の宇宙――ただし世界の外という意味での――なのだろう。



 足元は、何やら固い感触。重力も確かに感じるではあるが、それは単にこのドラゴンが魔力でこの空間を構成して作っているだけだ。


「ここは・・一体?」

 

「くくく、これを見よ」



 ドラゴンは、機械の口を開き、魔力を収束させると、一つの巨大なアイテムを作り出した。


 それは、砂時計。さらさらと砂が微量ずつ落ち始める。



「これは・・?」


「これは、制限時間よ。この空間にいられるだけの・・な」


「・・?」



「この空間は外の空間とは時間の流れを遅くしてある。


 ここでの一年が、外にとっての一日に等しい。


 それに、ここでは世界の加護・・つまりステータスの影響が乗らぬ故に、特訓にはピッタリじゃ。


 つまり、どういうことか分かるな?」



「なるほど・・つまり、ここで修行しろ、と」

 

「その通りじゃ。・・気乗りせんか?」


 機械の眉を八の字にしてそう言ってきた。




 僕はその時、この空間に少なからず恐怖的なものを抱いている自分に気が付く。


 時間が延びるのは本当にありがたい。本当に藁にもすがる気持ちで彼の助力に感謝しなければいけないのに。


 そう、体の感覚がざわついていた。


 まるで、この空間には、自分の体の大部分が存在しないかのような・・心もとなさ。



(そうか、これが、ステータスの影響を受けない、というやつか)


 そして、そのことに気が付いた瞬間、自分は心の中で自分を叱咤する。



(おびえている場合か!!渡りに船じゃないか!!そう、僕は弱い・・!

 だから、ここで強くなるんだ!!)


 そう、最初から決まっていたことだった。


「別に違う方法を試してみてもいいが、これよりかは少し可能性は低く・・」


「いえ、やります」


「・・いい面構えじゃわい」


 

 そして、ドラゴンは、修行方法を提示した。


「では、まずは基礎トレーニングからじゃ。


 貴様のユニークスキルは、金属製性。


 それを使って、自らの表皮を覆うのじゃ」


「・・こうですか?」


 金属製性、いままで何度も使ってきたスキルだ。当然そんなことは簡単にできる。


 一瞬で全身に薄い鎧のようにまとう。


 しかし、、今まで鎧のように使ったことはあったが、全身にというのは、あまり動きにくいがゆえに使ったことはなかった。



 試しに腕を動かしてみると、金属特有の重量を感じる。


「うむ、ある程度はうまく使えるようじゃな。


 それでは、その状態のまま、とりあえず一週間過ごしてみよ」


「・・しかし、その間は食料は・・」


「言い忘れとったが、この空間では腹が減ることもないし、老廃物を出すこともない。そういう空間なのでな」


 それじゃ、頑張れよ。


 そういいながらドラゴンは扉の向こうに去っていく。




「・・・・・・」


 扉自体が消滅し、闇の中に僕はいた。


 ここには何もない。


 左右上下前後、360度、すべての方向が虚無。



 その広大さに、僕はうっすらとした恐怖のようなものを覚えた。


(このまま、この鎧のまま、一週間もこのままなのか・・)


 僕は凍えるほどの寒さを感じていた。


 まるで体温を奪われるのを恐れているかのように、 思わず、全身の鎧の強度を上げてしまう。


(・・・・・)


 そのまま一分、いや一時間だろうか。もしくはもっと短かったかもしれない。


、あるとき、ふと、百花のことを思い出した。


「百花もここにいたら・・いや」(


 僕は慌ててその甘えた考えを否定する。


(それじゃあ修行にならない・・か

 しっかりしろ!僕!!)



 しかし、その思いとは裏腹に、胸に去来するのは、逃れようもない冷たさだ。今まで味わったことのないような虚しさ・・


 いや違う。


(これは・・、)



 昔からこの感覚に憶えがあった。


 それもつい数日前まであった『もの』。




 それは、妹が死んでからの僕だった。


 彼女が死に、自分も死なないように必死に心を殺していたころの僕。




 あの心は、とても冷たく、凍えるものだった。


 百花がいなければ、すべてが虚無。すべてが無意味なのだ。




 すべてが無意味だから、僕はあそこまで強くなれた。


 

 

 何も考えずに友達を助け、そして、平常な気持ちで友達を殺し、


 修行をし、そしてモンスターを倒し、人を殺し、人と話すことができた。



 

 それらの冒険は、先日までは無機質なものだと感じていた。


 まるで味のないガムのような、ただ流し読みする小説のように、自分にとって無関係なものだと感じていたのである。



 だが、それは先日までの話。


 妹と再会してからは全てが変わった。


 


 思い返せば、異世界での冒険も、すべてに意味があったと感じる。


 そして、今の生活も・・。


 生きがいとして妹と話、彼女を喜ばせるために機械を作り、カッコつけるために闘うようになってしまった。


 

(そうか・・)


 だからこその、弱体化・・・!


 いや、違う。これは弱体化ではない。




 『普通』に戻ったんだ。





 あの頃、機械じみた体術をこなすことができたのは、心を殺していたから。


 心が息を吹き返せば、当然元のように戦うことはできないだろう。





 そう、妹という、僕の心の核をなす、最大因子を取り戻した今の僕のには、あの時の動きは、もうできないだろう。



 だが、それについて、僕は悔しいと感じることはない。


 元に戻る必要もない。





 なぜならば、神と名乗るドラゴンから、この空間、そして膨大な時間を与えられた。



 ・・ならば、できる。



 この異世界に来てから、ここでの戦い方に少しずつ熟練していったように、同じく、今、この与えられた3年間を使って、


 再び、新しい自分になった上での『戦い方』を模索すればいい!






 僕はゆっくりと体を動かした。


 重い。まるで鉛の中を動いているかのようだ。


 


 だが、それを力づくではなく、金属に意識を隅々までいきわたらせ、工夫しながら少しずつコツをつかんでいく。


 まずはこの鎧の状態でトレーニングができるように、走り込みから始めなくては!!!!!





 ・・・・・。




 ・・・・・。



 ・・・・・。




 ・・・・・。




 ただただ、無言、静寂の時間が過ぎてゆく。


 しかし、その間、決して彼は希望の炎を絶やすことはなかった。


 

 ただ一心に、自らを高めるために、努力、研鑽、工夫を、地道に積み重ねていく。


 

 


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