幕間 魔王城にて
魔王視点
ドンッドンッドンッ!
「ふむ・・」
魔王は、薄暗い空間にいた。
かといって、狭いわけではない。
異常なほどだだっ広く、そして上空から見て円形状の空間に魔王はいた。
その壁や床は、建築物とは思えない。
有機物のような何やら浮き出た血管や、スポンジ状の穴が無数に開いている。
そして、何より目に付くのは、その円形状の中心にあるのは、巨大な心臓。
室内にはそこから湧き出る邪悪なオーラが満ちており、常人ならば一瞬で絶命してしまうほどである。
人の何倍もあるそれはどす黒く、常に鼓動している。
だがその鼓動は、本体以外由来のものも含まれていた。
ドンッドンッドンッ!!
「ぐるるうううううううううううゆううとおおおおおおおおおおおお・・」
低いおぞけの走るうなり声。それはかろうじて人語を発していることが分かる。
そう、人型のおぞましいモンスターが、その心臓を殴っていた。
魔王にはその心臓が破壊される心配など一切なかった。
そう、むしろ壊すどころか、そのモンスターは、心臓にエネルギーを与えているのである。
どす黒い憎しみのエネルギーを。
魔王は、くっくっく・・と、思い出したように時節笑う。
そう、ここは魔王城。その中心となる最上階。
目の前にある巨大な心臓こそが、この城の本体ともいうべきものであり、その心臓に十分に負のエネルギーが満たされることによって術式は発動する。
そう、言うまでもない、世界を破滅させる装置こそが、その心臓だった。
そして、、それを先ほどから絶え間なく殴り続けているモンスター。
それは、優斗の友人・・・の人格をやどしたモンスター。
魔王は、彼の魂がどこに行ったかなど、知ったことではない。
だが、少なくともその人格に宿るおぞましい精神は素晴らしいものであることを実感していた。
そう、ただの情報に過ぎないその人格データ。
それが偶然にも負の感情エネルギーを半永久的に増幅させるように固定されていたのだ。
人格というものは、絡まったスパゲッティコードのようなものだ。
コピーアンドペーストすることは容易でも、その内容を読み解くのは魔王であれ困難を極める。
故に、原理はよくわからないが、その人格は、無限に虚空から負のエネルギーをくみ出すような存在になり果てていたのである。
そう、それはまさしく、ほおっておけば宇宙そのものを破壊するような存在であると同時に、
魔王にとってこれほど貴重な道具はなかった。
そう、それはまさに、魔王という『種族』からすれば、喉から手が出るほど欲しがる、魔道具。神器とさえ評してもいいくらいの概念存在になっていたのだ。
それに気が付いた魔王は、それをこの魔王城に使わない手はなかった。
それが、今回のしもべの大群の強襲の顛末。
(くくく・・、まったく良い掘り出し物を見つけましたねぇ。
この世界を破壊した後も、貴方には働いてもらいますよ)
そう、魔王はつぶやいた。
楽しそうに、怒り狂い漆黒の心臓を叩き続ける怪物を見つめながら。
「がるるうううううううううううううううううううううううう!!!ごろ、ごろずうううううううううううううううう!!!」
世界崩壊まで・・あと3日。