約束と破戒
「っ!」
僕は飛んでくる武器を転がって回避。
体勢を立て直すと、まず友人のステータスを確認する。
なるほど、僕とほぼ変わらない。
ーー
生命力 20
最大マナ 20
力 20
持久力 20
魔法操作 10
敏捷 20
幸運 -600
スキル
鑑定LvMAX
言語LvMAX
ユニークスキル
技能奪取LvMAX
金属生成LvMAX
ーー
目についたのは幸運だ。現在1300に対して、彼は-600。
少し気になるが、今はあまり考える時間はないだろう。
友人は回避したのを見て、
「あぁん?!生意気によけんじゃねぇよ!!このウスノロ!!」
そういって続けて無数の武器を生成し、射出。
再び回避を繰り返す。
ワンパターンのやり取りではあるが、友人は行動を一切変えることなく武器射出し、僕は回避する。
そろそろパターンを変えてくることかと思ったのだが、
「ははは!!死ね死ね死ね!!」
彼は僕に一切攻撃を当たらなくても、楽しそうな声だ。
続いて僕は、あらかじめ作っていた金属生成製のナイフを取り出した。
攻撃をはじきつつ、走って近づく。
「ははは!無能にしては威勢がいいじゃねぇか!!いいだろう!!接近戦と行こうかぁ!!」
そう言って、彼は今度は液体金属で僕の攻撃を受け流す。
「ぐっ!」
僕は悲鳴のような声を上げる。
液体といっても、それはその物体全てが筋肉のようなものである。
重い一発一発の衝撃が腕の負担となる。
それでも何回か打ち合いを続けるが、
「そらぁ!!」
彼は大量に液体金属を生み出して、その圧倒的な体積でもってして僕の体全体を吹き飛ばす。
「ぐふっ!!」
後方に飛び、床に打ち付けられる。
反射的に咄嗟に受け身をとっては見たが、さすがにノーダメージとはいかない。
それを見て、先ほどまでの友人は怒りの表情が嘘のように、満足げな表情で問う。
「ふふふ、あんな見栄を張ってこの程度か・・もちろんこれで終わりじゃないよな?」
「その通りだ!!」
僕はすぐに立ち上がり、『怒りの表情』で彼をにらみつけた。
それを見てますます彼は満足そうに叫ぶ。
「いいぞ・・!!お前相手に優位に立つのが、この上なく気持ちいい・・!!
もっとお前を殴らせろ!!俺を楽しませろ!!」
そして、再び僕らはナイフと液体金属をぶつけ合う。
だんっ!だんっ!だんっ!だんっ!
一見互角のように見える。
だが、違う。
彼はただ楽しんでいるだけだ。
ただ僕を殺すだけを考えれば、先ほど僕を吹き飛ばしたように、圧倒的な質量でもってして吹き飛ばせばいい。。
追撃も、圧殺なり窒息させるなりいくらでもやりようがある。
だが、それをしない。
同じ行為を繰り返していた。
何故か。
そう、彼は今楽しそうなのだ。
勝つために今彼は戦っているのではない。
元の世界での劣等感を今ここで解消しているのだ。
そう、そこだ。その慢心。
ゆえに、わずかながらに僕に【勝機】がある。
僕の動きがだんだんとスローペースになったのを見て友人が笑う。
「おやおや?どうしたのかな?優斗くん。
勝ち組の君がまるで負け犬みたいじゃないか?」
「ぜい・・ぜい・・だま、れ・・!!」
僕は息を過剰に吸い込み、肺に酸素を送り込み強がりを言った。
汗がポタポタと床に吸い込まれていく。
「くっくっく、普段のお前らしくない言葉遣いだな。やっと今の状況が呑み込めてきたのか?」
「くっ・・!!だが、俺は・・!!負けない!!」
「やけに必死になるじゃないか。
まあしかし、このままお前を殺すのはつまらない。
一発だけチャンスをくれてやる」
「チャンス・・?」
内心、歓喜した。
そう、今の僕の外見上見たら、確実に疲れているとだれしも思うだろう。
しかしそれは、この戦闘中、僕が意図的に行ったのである。ヨガの呼吸をひそかに行い発汗性を高め、動きもわざと鈍く動く。口調も感情に振り回されているかのようにふるまった。
全ては彼を油断させるため。
そして彼は慢心からかこんなことを提案してきた。
「一発だけ貴様の攻撃を食らってやる
それで俺を倒すことができれば俺の負け、なんでも前の言うことを聞いてやろうじゃないか」
【来た】。狙っていた提案が。
僕は企みがばれないように必死さを装って訪ねる。
「何!?そ、それは本当か?!!」
「ああ」
液体金属を消して、そして彼は手を広げる。
「さあ、かかってこい」
「・・・」
そのポーズは、武器を持ってないことを示したいのだろう
だが、あの状態からでも一瞬で液体金属を出して反撃できるのは、観察済みだ。
彼の性格からして、僕の攻撃を受けるつもりはなく、すぐさま反撃するのだろう。
だが、疲弊しきっているはずの僕が、いきなり予想だにしない速度で一気に接近するとしたらどうだろうか。
対する彼は、驚き、液体金属を出すまで、わずかな間、隙ができる。
この距離からでも、油断さえ誘えば、彼の首にナイフを押し当てることができるのだ。。
そう、『あの技』さえだせれば・。
この作戦の唯一の懸念点。
僕はその時、大昔の記憶を呼び起こしていた。
ーー
「優斗」
「はい、師匠!!なんでしょうか!」
そのころの僕はまだ小さかった。
僕は立ち上がり、背後からの声に明るくて大きな返事をする。
師匠はいつもとは違い、威厳を保ちながら告げた。
「掃除が終わったら、今朝は、道場で私と模擬戦を行う。そこの刀の準備を済ませておくように」
「はい!わかりました師匠!!」
師匠はうなづいて道場から出て行った。僕は再び道場の廊下の拭き掃除を続行する。
彼は僕の叔父で、武術関係の本も出版しているそこそこ有名な人だった。
弟子の前では威厳を持った演技をしていたが、根はとても子供っぽい人だった。
武術を志したきっかけもただ単にモテたいだけだったと彼の本に記されている。
しかし、その実力は本物だ。もう80歳を超えているのに、20代30代の大男に圧倒するほどの戦闘力がある。
そして僕も彼とその弟子たちと過ごすうちに技術をスポンジのように吸収していたのだ。
そして、たった今言われた模擬戦。模擬と銘打ってはいるが、演舞用の刃を刀を準備しろと言われた。
むろん、それは褒められたことではない。
だが、彼は僕の鼻っ柱を折るために、寸止めで終わらせるつもりだったのだろう。
本番が始まる。
そして弟子たちが見守る中、彼はこういってしまったのだ。
「殺す気でかかってきなさい」
と。
そして、僕は
「はい!」
殺す気で向かってしまった。
普段から彼の言うことには絶対服従だった僕は、その言葉にも忠実に従い、行動を開始する。
とった行動は・・『縮地』。
それは極めれば最強の技だ。
何しろ間合いが何倍にも広がるのだ。
そう、すでに僕の間合いは、対戦開始から師匠まで到達しているのである。
そして・・
「あっ」
理性的に、殺したらダメだと思った。
そう、僕が我に返らなければ、
「ひっ!」
師匠が反射的にのけぞらなければ。
あと少しで、殺してしまうところだった。
しかし・・師匠はしりもちをついてしまった。
そして・・「ひぃいいいい!!」
情けなく逃げ出す。
そう、今思えば、そのひょうきんさが彼の本性だったのだ。
しかし、道場は静まり返っている。
今まで威厳を保っていた師匠のカリスマの仮面が剥がれ落ちてしまったのだ。
内心失望してしまったものもいただろう。
そして、その弟子たちの中でたった一人、近づいてくるものが一人。
「優斗ぁー!!」
僕はそのまま父親に殴られ、こっぴどく叱られた。
「空気を読め!この愚か者!!
貴様は今後一切道場に立ち入り禁止だ!!」
ーー
僕は一瞬のうちに昔の記憶を掘り起こし終わる。
そう、僕は『あれ以来』、道場を破門され、同時に技も『封印』していた。
しかし今は使わなければならない。何年間も使っていなかったあの技、『縮地』を。
成功率は、五分五分と言ったところだろうか。
「さあこいよ。さあさあ!」
依然友人は両手を広げ、僕の攻撃を誘っている。
それどころが、ずんずんとこちらへと寄ってきてくれるではないか。
「!」
好機。そうだ。この距離ならば、絶対に勝てる。
そして一歩目を踏み出した瞬間――
「『~~ッッッッッッッッッッ!!』」
違和感。
何かが、おかしい。
別に、友人から何かされたわけではない。
しかし、圧倒的な、忌避感。
何か、僕の足を止めるものがいた。
そう、それは現実のものではない。
それは、記憶。
『お前は・お前だけは正しくあれ、優斗』
『優斗・・妹を、頼んだわよ』
両親の記憶、そして、、
『『私は、優しいお兄ちゃんが大好きだよ』』
妹の記憶。
僕はその忌避感の根源に少し触れた気がした。
だが、しかし、
立ち止まる。
直感が囁いていた。この記憶は掘り起こしてはならないと。
そう、それに、今はその記憶を追求している暇はない。
すまない。
――約束は破らせてもらう。