幸福な日常
そして、以前の強さを取り戻すために様々な訓練をしたが、、
ダメだった。
その落胆を表に出さないよう注意しながら、僕は現在の宿泊先、、百花の住むトップギアのほこらへと帰ってきた。
「おかえりなさい!お兄ちゃん!」
「あ、ああ・・。おかえり。百花」
そう言って僕の前へと走り寄ってくる。
市に分かれる前のように、僕は自然に彼女の頭をなでていた。それに対し百花は嬉しそうに笑う。
「それで、今日はどこに行ってたの?!」
「今日は、近くのダンジョンにね」
「どんな敵を倒したの?」
「馬の頭を持ったミノタウロスってモンスターで・・」
そんな他愛のない話をしながら、城の中へと入っていく。
ここのほこらは、神が住まう場所ということで、普通の城の役割も持っている
周囲には神々や、メイドと思わしき翼を生えた天使たちがいきかっていた。
そして、ひとしきり話をした後、彼女は言った。
「ねえ、次から私も連れて行って!」
「・・・え?」
その言葉に、周囲の神々はぎょっとする。
うすうす気が付いていたことだが、おそらく彼らは百花がボクとともにいることをよしとしていないようだった。
その理由はおそらく・・
「いけません!」
「これ以上、仕事をためこまれては・・・」
そういうことだろう。
「百花、彼らの言うことは本当かい?」
「・・・だって、お兄ちゃんのことを陰ながら見守るっていうのが、私が最高神になってあげる条件なんですもの」
「そうだったのか・・」
神の法律?がどうなっているのかよくわからない。だが、周囲は
「ですが、今は魔王が着て色々なシステムがめちゃくちゃになっているのです!!」
「これ以上貴方様に休まれては、こちらの負担が!」
などと騒いでいた。
だが、妹は断固譲るつもりはないらしく、
「最低限のことはしますわ。だから、お兄ちゃんと私の時間を奪わないでください」
「・・・」
そう言って彼らは顔を見合わせてしぶしぶとどこかへと消えていった。
僕は心配になって彼女に言う。
「百花・・いいのかい?」
「ええ。最初からそういう約束でしたもの。職務を最低限果たして自分からお兄ちゃんに近づかないのならば、好きなだけ見守っていいと」
「そ、そっか・・」
少し不安だったが、、彼女がそういうのならば大丈夫なのだろう。
そうして、、
僕は妹を連れて、修行をするようになっていった。
「ぐっ・・!!」
むろん、妹が見ているということは、それだけ気が散ってしまうということでもある。
そのおかげで、いつもよりも相手からの被弾が多くなってしまっていた。
だが・・。
「お兄ちゃん!!」
彼女が手をかざすと、光が飛んできて傷が一瞬でなくなった。
「あ、ありがとう!」
礼を言いつつ、集中するが、最初これを受けた時は驚いた。
(遠距離からこれほどの治癒を・・)
百花は回復魔法を使えるらしい。。
そしてその魔法は特殊らしく、疲れすらも解消したのである。。
一応言っておくが、普通の回復魔法、ポーションは、疲労まで解消するわけではないのだ。
こんな魔法は効いたことがない。
さすがは最高神・・いや百花といったところだろうか。
彼女のおかげで、僕は何時間も連続でモンスターと戦うことができた。
・・・が、しかしそれで何か得たものがあったとは到底思えなかった。
付き合ってくれた百花には悪いが、むしろ彼女がいないほうが訓練になるとさえ思う。
「どうせ、被弾してもすぐに回復してもらえる」その事実が、僕の心に緊張感をなくしてしまうのだ。
どんなに危機的状況をイメージしても、心に余裕を与えてしまうのである。
それは、まるでピクニックに来たかのような緊張感のない戦いだった。
僕の動きは鋭さというよりも、穏やかさややさしさのようなものがまとい始めるようになってすらいたのである。
しかし、、だからと言って百花に、協力を辞めてもらうよう言ってもらうことは何故かできなかった。
いや、わかっている。
僕は妹に甘いのだ。
彼女の望んでいることならば、可能な限りなんでもやりたくなってしまう。
だからこそ、僕あhこの状態のまま、戦い続けるしかなかった。
そして、数分後、何発も被弾しながら、余裕で相手のモンスターを地に伏せた。
「・・終わった?」
「・・ああ」
「やったぁっ!!お兄ちゃんはやっぱり強いね!!」
「・・・・ああ」
僕は微妙な気持ちのまま、修行という名の何かを続けていたのである。
そして、、そんな日々が何日も続いた。
その間も、魔王のしもべは襲来しつつ、冒険者たちは見事防衛し、打倒していた。
(僕はいらないんじゃあないか・・?)
そう、少し残念な気持ちになる。
だが、そんなとき、ふと隣を見ると、百花がこちらを見て、微笑み、
「大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「・・何がだい?」
そう聞く。すると彼女は、抱き着き、背中をなでる。
「なんか、とても暗い顔していたけど、でも大丈夫。
魔王はちゃんと私たちがたおすから」
「・・・百花」
「それに・・」
彼女は一度離れぐっと拳を握り、
「ちゃんと皆であいつを倒す用意しているから、
お兄ちゃんは何も不安に思わなくていいんだよ!!」
「そうか・・」
こうして、僕は強くなる理由がなくなった。
その日から、僕は、あまり修行に必死にならなくなっていたのである。
その分、おしゃべりや、機械作りに精を出す時間が増えた。
機械、、主に、妹が喜びそうなかわいい動物型のロボットだ。
それを送り、彼女が「ありがとう!」と言って笑うことが、何より満足な時間だった。
そう、、
それは幸福な日々だったのだろう。
これでいいはずだ。そう自分に言い聞かせながら、修行という名の遊びに興じていた。
そう、遊び。
高難易度ダンジョンでさえ、彼女の補助のおかげでクリアできたほどである。
心のどこかで、多少の罪悪感、虚無感を残しつつも、それはそれで、充実した毎日だった。
だが・・思い返してみれば、そこであきらめていたら、この世界は終わっていた。
魔王に蹂躙されて終わっていただろう。
そう、とても幸運なことだが、
ある一つの偶然が起こり、僕は再び戦場に立てるようになったのだ。
そのきっかけは、一つのドラゴン。