ひと時の甘い時間
「死ぬ・・だって・・?」
「ええ、あなた、ここ数日、、というよりも、妹さんとあった時から、様子が変よ」
「変・・・?」
確かに。変といえば変だろう。
いや、むしろ平静でいられるわけがない。ずっと死んでいたと思っていた妹、百花に合えたのだ。
僕は、彼女のこと、そして彼女が死んだことを忘れようとしていた。
そうでなければ生きることができなかったからだ。
癒えることのないと思っていたどうしようもない古傷。
それを十数年以上も抱えていきてきたのである。
それが、つい数日前に完全に癒えたのだ。
確かに、魔王への復讐心は、多少落ち着いたかもしれない。
だが、それでも、僕は百花のために生きようと思った。
だから魔王を倒して、彼女のために、彼女の仕事のために、、魔王を倒して・・彼女のために・・!!
「でも、僕は、今、やる気に満ちている。
だから、いつもよりも僕は、強いはず・・」」
「そういうところよ」
「・・・え?」
僕の決意に対し、冷めた目で見るマージョリーさん。
それに対し、何か心を見透かされたかのようだった。
「あなた・・妹と会うよりも、格段に『弱く』なっているわ」
「弱く・・・?」
いや、そんなことはないはずだ。
むしろ、体中に力がみなぎっている。
心も爽快で、何も怖い者はないはずなのに・・。
「いえ、あなたの『強さ』は、心を殺しせば殺すほど、高まっていくものだった・・
機械的になればなるほど、、ね」
「・・!」
「だから、心を取り戻したあなたは、今までの自分の鍛錬を否定しているということになるのよ
思い返してみなさい。ここ最近、あなたは戦う時、何を考えているのかしら?」
「妹のことを・・そうか」
理解した。
完全に理解した。
僕は、戦う時、無意識に常に状況を見、戦いについての状況把握をしていた。
だが、百花とあってからは違った。兄として彼女のために成果を立てることしか頭になかったのだ。
だからこそ、先ほどあの巨人に対し、ハイリスクハイリターンの攻撃を取って、そして返り討ちにあったのである。
僕としたことが、こんな初歩的なミスを犯すなんて・・。
「くっ・・マージョリーさん、やはり僕は・・;」
「そう、あなたは妹さんとあったことによって、トラウマが完全に癒えたかもしれない
でもその代償として、以前のような鋭い強さを失ってしまったのよ。」
「・・・・・」
僕は、ふらふらと戦場に背を向けた。
「ゆ、優斗さん!!」
「優斗どの!!」
背中に二人の声がかかるが、しかし、今のボクにとって、それに対して十分な対応をとることはできない。
皮肉なものだ。妹のためにではない戦いがボクにとって一番強くなれるというのか・・・
だがそんな戦いになんの意味があるというのか・・。
そう、わかってしまった。感覚として理解してしまった。
トラウマを払拭したことにより、どんなに気を付けていてもわずかにな心のゆるみ、微量の隙が生まれてしまうのである。
高レベルの戦いにおいて、それがわずかだったとしても、それは致命的な隙になりうるのだ。
だからこそ、そう。
僕は、もう、魔王討伐に参加することができない。
そう確信して戦場を後にした。
「優斗さん・・」「優斗どの・・・」
「・・・・・」
僕は、黙って魔法と金属製性、そして体術を鍛えるためのルーチンワークトレーニングを続けていた。
僕が戦場から離脱してから、マージョリーさんとその他のメンバーに敵を任せたのだ。
そして、北条とアンジェリカが付いてきてくれたのである。
だが、それでも僕は、彼女たちに気を使うことができない心境だった。
「・・・ごめん、少し静かに訓練したいから、少し黙ってくれないか?」
「は!はい・・!」「ももも申し訳ない!」
そう言って、僕はさらに訓練に没頭する。
(そうだ。心を取り戻したことにより、弱くなったといのならば、再び心を失えばいいんだ・・!)
つまりは、無の境地。
すべての感情を捨て、機械的に最速で動くことができれば、また再び以前の感覚をつかむことができるはずである。
だが・・・まだだ。まだ足りない。
そうやって、僕が修行を続けて、
数日たって彼らは帰ってきた。
城門へと、冒険者たちが入ってくる。
城で褒章を受けるためだ。
その中に東堂、西園寺、南雲、マージョリーさんもいた。
彼らを見つけると、北条とアンジェリカは駆け寄る。
二人も心配だったのだろう。
「ど、どうでした!!」「優斗どのなしで、大丈夫でしたか!!」
と尋ねると、
「ああ、楽勝だったぜ
東堂がそういい、他メンバーもうなづく。
「さすがは腕利きの冒険者だよ!」
「勇者もちらほらいたし、バフやヒールなども受けたから思ったより楽だったわよ」
「そ、そうか・・よかった」
何だろう。
この感覚は。
思ってもみなかった言葉に、少し驚く。
そうか。今まで僕がこのパーティを率いてきたのだ。
僕無しでは苦戦すると無意識で思っていたのである。
だが、そうではないらしい。
彼らは本当に余裕そうな顔をしていた。
つまり、僕がいなくても彼らは魔王のしもべと戦えるのだ。
ならば、魔王も、彼らに任せるというのも、また一つの選択だろう。
いや、、それでも、、僕は・・・っっ!!
ふと、無意識に思わず奥歯を噛んでいることに気が付いた。
「優斗・・」
マージョリーさんが僕に心配そうに近づいてくる。・・が。
「それじゃあ、僕は、城に戻って修行の続きをするんで」
僕は、振り向いて、突き放すようにその場から離れていった。
「・・・・・」
それに対し、マージョリーさんは何も言わなかった・・が。
さっきまでの一同の会話が急に静寂に変わったことに、気が付かないふりをしながら、何も感じないふりをしながら。
僕は再び修行の日々を送るのだった。
そして、、それから、何匹かの魔王のしもべを彼らは討伐していった。
彼らは僕抜きでもうまくやっているらしい。
対して僕は、修行をしつつ、彼らとは別口でトップギアから少し離れた所へと遠出していた。
強敵を求めて周囲を探索していたのである。
魔王の狂気に影響されて、多少狂暴化しているとはいえ、一般的な普通のモンスター。
魔王のしもべよりかは楽・・・と、思いたかった。が、
「ぐっ・・!!」
「ぎゃおおおおおおおんっ!!」
近距離で遠吠えをくらい、僕は吹っ飛んだ。
すぐさま体制を立て直すが、もし今のが致死的な攻撃だった場合、すでに死んでいたかもしれない。
理由は分かっていた。集中しなければならない展開において、思わず一瞬の隙をさらしてしまったのである。
それも、一度や二度ではない。どうしても
(・・・やはり、僕は・・・)
弱くなっている。
いや、そうはいっても、ステータスやスキルが弱くなっているわけではない。
そう、決定的に戦いにおける心構えが足りないのだ。
心構え、、つまり、何も考えずに、心を殺し、冷静に合理的に理論的に行動する感覚。
前までは、盗賊も何も考えずに殺せるほど、心を殺せていたはずだった。
それは、トラウマのことを考えないためだ。トラウマから逃げるために、僕はあれほどのパフォーマンスを出すことができていた。
だが、今は、妹に出会い、トラウマが解消された。
そして、心の余裕が出来てしまった。
だからこその、弱体化。
僕は、精神が弱くなってしまったのだ。