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優斗抜きでの話し合い




 優斗は、食料を調達するために、森へと入っていった。

 

 彼は、このチームの中でおそらくは最高戦力、実質的なリーダーだ。

 

 ゆえに、メンバーは優斗がいないチームというのは少し新鮮な気がしていた。

 

 しばらく彼らは無言だったが・・しかしぽつりと一人が口を開く。


「なんか・・最近優斗さんって、怖くない?」


「・・わかるかもしれないー」


 南雲と西園寺がそうつぶやく。

 

 それに対し、北條は目ざとく立ち上がった。


「西園寺さん!、南雲さん!、盗賊の件は仕方ないことだと思いますっ!!」


 確かに理屈上では、西園寺と南雲も、優斗のあの行動に異論をはさむつもりはない。彼女はうんざりしたかのように言葉を返す。

 

「・・それは分かってるわよ」


 彼女たちは思い返す。

 

 西園寺や南雲も、修行機関、クエストをいくつも受けていた。

 

 そこで盗賊を討伐するものも受けたこともあるのだが・・その住処で人骨を大量にみたこともあるのだ。

 

 おそらく、それが盗賊が殺した被害者のもの。

 

 確かに悪人相手とは言え、人殺しはショッキングなことだった。

 

 しかし同様に、自業自得だとも彼女たちは思っている。

 

 盗賊は人を殺している。ならば殺されるのも仕方がないのだと。

 

 むしろ、善良な人を犠牲にしないために、盗賊は積極的に殺すべきだという理屈も、自身が実践できないとはいえ今では納得している。

 

 しかし、彼女たちが心の片隅で思っているのは、その件だけではなかった。


「でも・・なんていうのかな。盗賊を殺した件を差し引いても・」


「・・・・?何が言いたいんです?」


「やっぱり優斗さん、あの日から冷たい感じが出てくるようになったわよね」


「それ分かる」


 と、南雲も同意する。

 

「なんか・・あの人と話していると、人と話しているみたいじゃないみたい・・

 なんか、機械と話しているみたいな・・」

 

「あー、確かに」

 

「機械・・そんな感じはするな」


 南雲だけでなく東堂も同意し、北條は少なからずショックを受けた。


「そんなっ、いつも通りじゃ・・」


 優斗信者である北條は、その羨望の感情ゆえに、彼の変化に気が付いていなかったが・・


 その間に、他のメンバーが口を挟んだ。


「確かに・・分かるわ」


「マージョリーさんまで!」


「最近彼、少し疲れているみたいね」


 マージョリーは、優斗の知り合いの中で最も古い仲。

 

 それだけではなく優斗のことをよく見ていると北條も感じていたのである。

 

 ゆえに、ライバル心を感じると同時に、彼女の言葉には一定の信頼を感じていた。


「なんというか、余裕がなくなってきているわね。今まで完璧に近いことをしてきたから、あの魔王の侵攻がよっぽど効いているみたい・・」


「・・・っ!」


「・・確かにな」


 そこにアンジェリカが続く。

 

「自分のミスのせいで仲間が一人でも命を断ってしまうことも、冒険者なら日常茶飯事だ。それが原因で引退する冒険者も少なくないと聞く。

 だから、今彼はとても不安定なのだろうな」


「っ・・・」


 北條は頭を抱えた。

 

 彼から見て、優斗はとても疲れている風には見えなかったのである。

 

 自覚してはいなかったが、今までの経験から北條は優斗を少々神格化しすぎている節があった。

 

 ゆえに、自分が彼のことをあまり良く知っていなかったことに愕然とする。

 

「・・・・」


 いや、優斗のことを信頼していたのは彼だけではない。

 

 北條ほどではないとはいえ、この中で一番強い優斗のことを、全員信頼していたはずだった。

 

 

 敵が強大とはいえ、彼についていけば魔王を倒せるのだと今まで彼らは心のどこかで信じていた。

 

 

 しかし、そんな自分たちのチームのリーダーが少しなりとも揺らいだことによって、メンバーの間に不安が流れる。

 

 それはまるで、完璧だとダイアモンドが、少しの衝撃で割れたようなもの。


 と、そこで、北條は立ち上がった。そして、言う。

 

「だったら・・私たちがその分強くなればいい話でしょうっ?!」


「「っ!」」


 その言葉は、何も考えていない、絞りだしたかのような言葉だった。

 

 優斗のことを神格化している故の、彼を見放してほしくないという自分勝手な思い。

 

 しかし、その言葉で、メンバーは全員大事なことに気づかされた。

 

(そうだった・・、あいつだって人間だ・・完璧じゃあない)


(私でも、同じ目のあったらいつも通りに動けるかどうか分からないのに・・)


(ふふ、私、いつの間にか、あの人に依存し過ぎていたみたいね)


 そう、神格化していたのは、北條だけではない。

 

 優斗が完璧なゆえに、精神的に全員彼に依存し過ぎていた。

 

 しかし、今の北條の言葉で、自分が完璧な彼をサポートすればいい話だと悟ったのだった。

 

「確かに、よくよく考えてみればそうでしたな」

 

「そうだな。優斗さんが強くなるだけじゃあない。俺たちも優斗さんと同じくらい、いやそれ以上に強くなれば、あの惨劇だって防げたはずなんだ」


「それなのに、私たちは、他人事みたいに・・!!」


 初めは優斗を中心としてまとまったようなチームだったが、、不思議なことに、今は彼抜きで一つの思いを共有していた。

 

 それは、優斗に頼り過ぎず、そして彼をケアするということ。

 

 そして回復したみんなの力を合わせて魔王を討伐することだった。

 

 北條が見回して言う。

 

「じゃあ、まず、優斗さんが帰ってきたら、皆で彼に問い詰めましょう!!」


「そうだな。月並みなカウンセリングだが、誰かに話せば楽になるっていうしな」


「そうしようそうしよう!!」


 そして、、帰ってきた優斗に、メンバーたちは問い詰める。

 

 その時、優斗はついに観念して、あの時魔王に言われた言葉を公表した。

 

 そのことについて、優斗自身は癒されただろうか。

 

 実のところ、逆効果ではあった。

 

 今まで、妹や母親のトラウマを封印していた彼が、そのことを言うのは、精神的なダメージといえる。

 

 しかし・・

 

 だが、少なくとも、チーム全体の指揮は上がったと言えよう。

 

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