ひと時の休息
盗賊の処理に思ったより時間がかかったことに謝りつつ、僕は車を発進させる。
だが、、
ブロロロロロロロと、
スピードが乗ってくるまで、彼らは何か話そうとしなかった。
どうしたのだろうと疑問に思ったところに、
「あの、優斗・・さっきの戦い・・」
マージョリーさんが声を掛けてきた。
「ああ、どうだった?」
「えっと・・うん、とても強くなったわよね」
「・・ありがとうございます」
褒められた。だが、これで満足してはいけない。
あのスタイルはまだ慣れていない。魔王を倒すためには、まだまだ修行が足りないのだ。
しかし、方向性としてはあれでいいだろう。そう思っていたのだが、
「あそこまでしなくても・・」
ぽつりと南雲の声が聞こえた。
それに同意するように南雲が言う。
「ええ・・ちょっと、怖かったって言うか・・」
「・・え?」
思わず、胸中の暗黒が広がりそうになる。
(何が悪かった?盗賊を殺してはいけなかった?確かに彼らは人間。しかし奴らは魔王を倒すために重大な障害となろうとしていた。でも心理的に?精神的に受けつかないといことなのか?チームの崩壊・・・?でもそれでは魔王が・・!!)
一瞬で、不安とともに考えがまとまらなくなる。
だが、その渦に巻き込まれる前に、
「だったら・・!」
北條が叫んだ。
「あの盗賊たちを生かして、魔王を倒せなくなったらどうするつもりなんですか!」
「え?!ちょっと・・」「そんなことは・・」
それでも、彼はまくしたてた。
「魔王を倒せなければ、皆死んじゃうんですよ!!
平和に生きている人たちよりもあの盗賊たちの命を優先するって言うんですか?!」
「っ・・!」
それを聞いて、彼女たちは息を飲んだようだった。
「わ、分かってるわよ・・そんなに怒らなくても・・」
「うう・・」
南雲などは涙目になっている。
何やら悪い雰囲気。僕個人の心の靄も増大しているように感じる。
元はといえば僕が招いた種だ。なんとか彼を止めようとしたのだが、
「北條殿、その辺にしておくべきですぞ」
アンジェリカが目をつぶり、一喝する。
「ここに居る全員は仲間。魔王を倒そうとする意思は誰も同じだ。
こんなつまらないことで争っている場合ではないぞ」
「・・分かってますよ。
すみません、南雲さん、西園寺さん、
いきなり声を荒げて申し訳ありませんでした」
そう言って北條はそっぽを向いた。
そう、ステータス強化は精神面も強化されると言われている。
たった今、盗賊とはいえ、彼女たちが人が死ぬところによる精神ダメージは軽減されているはずだ。
しかし、軽減されているとはいえ、彼らに不快な思いを与えてしまったのは事実。
「皆・・僕からもごめん。
先を急ぐあまり、いきなり盗賊を殺すなんて・・」
効率化のために今までトレーニングを積んでいたが、これからは捕縛するためのスキルも高めておこう。
そう思い、僕らは旅を続けていった。
そして、、あれから数週刊が経った。
急ぐ旅ゆえに、その間中、ほとんどくるまから降りずに移動をしていたのだが。
しかし、度重なる地道な戦闘の蓄積、疲労だけでない。
同じような味の保存食、車の振動の寝心地の悪さから、ストレスも溜まっていると感じてもいた。
一同に疲労感からくる悪い雰囲気が伝ってくるようだった。
「・・そろそろ限界だよ~」
「優斗殿、そろそろ休憩するべきではないか?」
「確かにそうだね」
というわけで、今日は、夕暮れ時から、宿泊するための場所に車を停車させることにした。
「今日は野宿か~」
「でも、宿屋に泊まりたいけど、ここから近くの国まで数日かかるし」
女子たちが不満げだったが、しかしアンジェリカさんはサバイバルの経験があるのか、
「ちょっと待っていろ。こういうのには経験がある」
そう言って、近くの森から藁などを作って即席のベッドを創ったり、あるいは湖を探して水浴びなどをしてストレスを発散していた。
まあ、そんなことをしなくても、北條のスキルでベッドなどを取り寄せることはできるのだが・・。
「わーい!!キャンプだー!!」
「たまにはこういうのもいいわね」
中々皆満足しているようなので、何も問題はないだろう。
食料は果物などを拾ってきていたのだが、しかしメインの肉も必要なはずだ。
「じゃあ、僕は動物を狩ってくるから・・君たちは休んでいてくれ」
「え? 私もついていくわよ?」「私もついていきます!」
そう言ってくれるのはうれしかったが、しかし今日は彼らの疲労を癒す日。ここは僕が手っ取り早く狩ってくる方が効率的だ。
「大丈夫。皆は休んでいてくれ」
「そう・・?まあ無駄な心配かもしれないけど、気を付けてね?」
「ありがたく休ませていただきます!!」
そうして僕は久しぶりの一人行動を取ることになった。
そういえば、昔・・でもないが、マージョリーさんのところで修行していた時、こうやって一人でモンスターを狩っていたことを思い出す。
集団行動ではない。
仲間を意識せずに、好きなようにモンスターと戦うというのも、中々リフレッシュができた。
死線を瞬間的に避け、フェイントやけん制を交え、最後にとどめの一撃を与える。
ドスッ。
「ぎゃおおおおおおおおお!!」
盗賊を殺したとき以来の、久しぶりの血の匂い。他のことを考える暇もない、血沸き肉躍る戦闘。
この時間だけは、胸の靄を少しでも意識に上らせずにいることができる。
これは現実逃避ではない。むしろこの悪い感情に飲まれてしまうことこそが現実に向き合っていないということだろう。
僕の場合、狩りをしているときが一番リフレッシュできるらしい。同時に修練にもなる。
だからか、、
「!ようやく帰ってきた!!」
「優斗さん!」
かろうじて日が暮れるまでには戻ることができたのだが。
「狩りのことだけど・・・こんなに量食べないですよね?」
少し頑張りすぎて、大量の獲物を持ち帰ってしまうのは、仕方がないことだろう。