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最高神のほこら、トップギアへ


 そして、暗黒。

 

「・・・ここは、確か・・」


 夢の中だ。

 

 そう、たまにこういうことがある。

 

 神様、いつものトラス神と話すときのような感覚。

 

 この時に彼女に何か用があれば、少なくない確率で会うことができる。

 

 だが、、この時、何故かそれは無理だと思った。


 いつもの神聖な雰囲気ではない。暗黒。

 

 いつまでたっても、彼女には会えない。

 

 その理由は・・・。

 







 

 

 気が付いたときには・・天井。

 

「・・・・?」


 起き上がる。そこはどこかの宿屋なのだろう。

 

 床にはマージョリーさん、アンジェリカ、北條、ポチたちが寝ていた。


 気配を探ると、隣の部屋からも話声が聞こえる。他の勇者たちであろう。

 

 彼らはスースーと寝起きを立てている。

 

 ふと窓の外を見ると、そこには崩壊した瓦礫はない。

 

 まるで今までのことが夢だったかのような感覚。

 

 だが、、あれは夢ではないということを僕は知っている。


 そう、魔王とそのしもべが一国をも滅ぼしたのだ。

 

 奴らによって壊されたのはそこだけではなかったのだろう。今も奴は暴れているかもしれない。

 

 そうなったのは自分の責任だ。僕があの時に魔王の言葉に惑わされなければ・・そう、魔王は、僕の妹と母を・・・

 

「っ!!」


 その時、胸中に広がる怒り、そして無力感。

 

 これに捕まれば、動けなくなりそうな、そんな予感。

 

 それに対し、

 

 パァンッ!!

 

 瞬間的に僕は自分で自分の頬を叩く。

 

 痛みとも呼べない衝撃。魔王に殺された人々はこんなものじゃなかったはずだ。

 

 そうだ。こんなのを気にしている場合じゃない。ともかく早くいかなければ・・。

 

 そう言って、ベッドから起き上がろうとした。その動きで気が付いたのだろう。

 

「むにゃむ・・ん?・・あ!起きた!!」

 

 ベッドに突っ伏していたマージョリーさんが叫ぶと、次々と、アンジェリカ、北條、ポチたちが目を覚まして、こちらを見た。

 

「優斗殿!!」「優斗さん!!」


 そして、その声に気が付いたのだろう。隣の部屋から勇者たちが駆けつける。


「大丈夫ですか?!」


「ああ、皆・・それよりも、あれから一体どうなったのか、説明してくれ」


「えっと・・それよりもいきなり眠らせて、怒ってない?」


「ああ、怒っていない」


「そ、そうか・・」


 そして説明によれば、今が危険な状態だと察した彼らは、僕を眠らせた後、もう少し遠くの国にたどり着いた。

 

 そこは魔王の手が進んでいないところであり、僕らは数日この宿屋に泊まっいたのである。

 

「優斗・・あなたに言っておかないといけないことがあるわ」


 深刻な顔で彼女が言う。その次の言葉は半ば予想していたものだった。

 

「気配を探りに探索に出た冒険者たちが、魔王城を発見したらしいわ」

 

「・・そうか」


 魔王城。それはこの世界を破壊するための祭壇だ。


 僕たち勇者は、その魔王城を破壊しなければならない。


 でなければ、この世界に未来はない。


「前例によれば、儀式が完了し、魔王がこの世界を滅ぼすまで、早くて一年程度。まだまだ余裕がある」


 一年。おおよそ文献通りだ。魔王について過去の資料を探っていた時もあったが、それはまだ猶予があるほうであろう。

 

 そう、確かに余裕がある。それでも一秒たりとも無駄にする時間はない。

 

 そして、もう一つ、僕はあることを聞いていなかった。


「それで?」


「それって?」


「現時点での被害はどのくらいある?」


「!!」


 一同の目が泳いだ。


「・・やっぱりごまかせないわね」


 そう言って、彼らは巻物を持ってきた。

 

 それは、今冒険者に配られている資料らしい。

 

 広げると地図にバツ印がかかれている。

 

 全体の一割未満といったところだろうか。しかしそれは少ないと言っていいものではない。

 

 そうそれは、破壊された都市なのだということが注釈を見ずともわかった。

 

「こんなにたくさん・・僕のせいで・・!」


「待って!!あなたのせいじゃないわ!!」


「・・いや、あの時僕が、魔王の言うことに耳を閉じていれば・・!1」


 自分は冷徹に成っていたはずだった。

 

 心を捨てきれたと思っていた。

 

 だが、、奴の誘惑によって、僕は負けた。

 

 そして、その代償がこれだった。

 

 その滅んだ国の一つ、それはトラス神のほこらのあった場所。

 

「っ・・・!」


 そう、今の僕の脳裏には、起きる直前の感覚が残っていた。

 

 いつもはあの空間に彼女がいたというのに、先ほどあの時の空間には誰もいる気配はなかった。

 

 つまり・・赤の他人だけじゃなく・・

 

 お世話になった彼女さえも守れなかった・・。

 

「優斗・・」「優斗さん・・」


 何か声を掛けて励まそうとしてくれているのだろう。

 

 そうだ。彼らが僕の暴走を止めてくれたんだ。

 

 あの時、僕を強制敵に眠らせてくれなければ、今目の前にいる仲間でさえ犠牲にしていたのかもしれない。

 

 そうだ。実質的なリーダーである僕がこの体たらくではどうする。

 

 そう、だからこそかろうじて冷静になれたかもしれない。

 

「・・・っ!」


 ぎゅっと奥歯を噛んだ。


 ここで感情を荒げてはダメだ。

 

 ここで悲しんではダメだ。怒ってはダメだ。不安に思ってはダメだ。

 

 仮にこの感情を抑えることは無理でも、彼らにそれを見せてはいけない。

 

 できるはずだ。機械になれ。何をするべきか考え、ただそれだけを実行しろ。

 

 僕はできるだけ自然に彼らに顔を向け、言った。

 

「ありがとう。皆。もう大丈夫だ」


「・・・・優斗・・」「・・・・そ、そうか」

 

 雰囲気を払拭するかのように僕は立ち上がる。

 

「それじゃあ、さっそく行こう」

 

「ちょ、ちょっと!!まだ寝てた方が・・!!三日も寝ていたのよ!?」


 そんな彼女の手を僕は振りほどいた。


「大丈夫だよ。僕を誰だと思っているんだい?」


「っ・・それは・・!」


「さて、それじゃあ、詳しい情報を教えてくれるかな?」




 彼らから聞いた情報は以下の通りだ。

 

 まず、魔王城がある場所。

 

 それは、意外なことに、ドラゴンの山の頂上。僕らと魔王が戦った場所だ。

 

 魔王はしもべを産み落とし、国をいくつか滅ぼした後、再び戻ってそこで魔王城を構築しだしたという。

 

 話によれば、そこには霊脈と呼ばれる、持続的に強いエネルギーが発生する場所であり、魔王はそれを利用するためにそこに拠点を構えたという。

 

 そして、もう一つの情報は、黒いモンスター。そう魔王のしもべたちだ。

 

 奴らは、数は少ないものの、各地で暴れまわっているという。それらは、僕が気絶する前に存分に味わったように、通常のものよりもすさまじく強い。

 

 普通そういったボスモンスターは、特定の地域やダンジョンにしか出現しないのだが、、それらはお構いなしに国を推そうというのだ。

 

 それだけでなく、そいつらの近くではモンスターが凶暴化しているという。

 

「そして、、この騒ぎに乗じて、盗賊なども多く出現しているというわ。つまり荷馬車を守ることのできる護衛冒険者が圧倒的に足りなくなり、交通網が大部分が麻痺しているらしい」

 

「つまり、、動けるのは、最低限の身を守れる強さを持った冒険者、もしくは限られた商人のみってわけか」


「そういうことよ。そして、その高レベルの冒険者が調べたところによると、魔王のしもべたちは、最高神のほこらへと進行しているらしいわ」


「最高神のほこら?!」


 確かそれは、この世界の神々を統括しているリーダーだと、今は亡きトラス神から聞いたことがある。


「正確には、そのほこらのある国、トップギア。

 そこが壊滅的被害を受ければ、魔王城の完成を待つまでもなくこの世界は崩壊するでしょうね」

 

「ということは、勇者や冒険者たちはまずやらないといけないことは・・」


「ええ。最高神のほこらへと向かい、魔王のしもべたちを倒さなくてはいけないわ」


「・・・っ!」


 内心、魔王の悪知恵に怒りがこみ上げそうなくらいだった。

 

 おそらく、最高神のほこらを狙うのは、本命ではないのだろう。


 その目的は、自身のいる拠点、魔王城を狙う戦力を分散、および遅延させるためだ。

 

 僕ら勇者や冒険者たちは、トップギアというこの世界のコアを守るために動かざるを得ない。


 魔王にまんまと行動を制限されているのだ。

 

 勇者たちも、その話を改めて聞いたことからか、ため息をついている。

 

「んもー!しもべから盗賊から魔王城から、いくら何でも色々と起こり過ぎよ!!」


「まったくだ、、魔王城を破壊する前に、まだもう一波乱置きそうだな」


「でも、他の勇者たちもいるんでしょ?それにトップギアにも腕利きの冒険者や神が常駐しているって話だし・・!!」


「確かに、私たちはトップギアへ向かわずに、ドラゴンの山の頂点・・魔王城を攻略することに集中するのもありかもしれませんね」


 確かに、トップギアはこの世界の最重要拠点。

 

 ゆえに、常に猛者たちがそこを守っているはずだし、僕らの力は必要ないのかもしれない。

 

 だが、勇者たちはとりあえず目の前の脅威、魔王のしもべから対処すると話し合いで決定したらしく、そのために各国に勇者招集の誘いをかけているらしい。

 

「どうする?優斗?」


 その仲間からの問いに、僕は即決した。


「行きましょう。最高神のほこらのある国・・トップギアに」


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