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友人との再会、そして決裂


「やっとついたか」


 やっと森を抜けた。


 すぐそこに町の城壁が見える。

 

 現在は夕方になるかならないかといった時刻。

 

 ここまで来るまでに、多少モンスターと遭遇したが、神眼で使えば安全だった。

 

 ともかく、まだ日は落ちていない。

 

 聞き込みをして友人の行方を突き止めなければ。

 

 僕は城門へと走ると、暇そうにしていた門番がこちらを向いて驚く。

   

「おや?またその服装・・あなたはもしかして転移者?」

 

「そうですけど・・入場料が必要ですか?」

 

 門番はニコリと作り笑いをした。


「?」


 そして両手を揉んでこびへつらうようにいう。。

 

「へへ、そんなものはいりませんよ。

 転移者は異世界から来られた大事なお客さんです。

 お金をとるなんてとんでもありません」

 

「そうですか」


 もしかしたら追い払われるかもしれないと思っていたが、杞憂だったらしい。


 だが、僕は何か裏があるのかもしれないと思い、一応その理由を聞いておく。


「しかし、大丈夫なのですか?

 僕みたいな不審な人を入れて」

 

「まあ、そうですね。

 ぶっちゃけますと、国益のためです。

 転生者や転移者は強力なスキルをお持ちとか。

 ギルドに入って、どんどん強いモンスターを狩って、素材や魔石を流通させてくれれば国も豊かになるのです。丁重に扱えと言われているのですな。

 私個人としても、うまくいけばボーナスが入るし、無下にすれば隊長から怒られるのです」

 

「なるほど」


 どうやら転移者は有益だと彼らは考えているようだ。とても親切に説明してくれる。


 過去に転移者がらみで何かあったのかもしれない。

 

 ならば、もう少し甘えることにしよう。

 

「でしたら、ついでに一つ聞きたいことが」


「なんでしょう」


「人を探しているのです。

 僕以外の転移者がこの国に入国しませんでしたか?」

 

「ええ。いましたよ。数日前に。

 こんな短い間隔で来るのは珍しいですが」


「!」


 やはり予想通り、友人はここに来た可能性が高い。

 

「お知り合いか何かで?」


「ええ。彼は今はどこにいるかわかりますか?」


「入国してすぐならギルドや宿に泊まっていると思いますが・・。

 申し訳ありませんが、分からないですな。もしかするとここにはいないかもしれません。

 少なくともこの城門からは出ていませんね」


「そうですか」


「あ、でもギルドに人探しを依頼することもできるはずです。

 転移者ゆえに、特別に無料で高報酬の依頼を貼ってくれることでしょう。そういった前例も過去に多くありますし」


 人探しの依頼・・そういうのもあるのか。

 

 かなり役に立つ情報だった。僕は彼に感謝する。


「ありがとうございます」

 

「いいってことよ!」


 とても助かった。

 

 というわけで僕は急ぎ足でギルドに向かう。

 







 町は、昔見たファンタジー小説の挿絵そのままだった。

 

 往来には大きな剣や弓を持った戦士が多く往来を行きかっている。


 明らかに人間ではない種族、人型にトカゲのような頭をしたもの、翼を生えたものもいた。

 

 馬車馬には、当然のように頭に角が生えていたり、足が6本の者もいる。

 

 さらに道の端っこで出し物をしている道化師のような方は、道具を宙に浮かせたり、炎や水を手から出して見るものを楽しませていた。

 

「・・すごい」


 改めて異世界に来たことを感じさせる風景。

 

 特にあの道化師。あれはおそらく魔法というのを使っているのかもしれない。


 明らかに物理法則を無視した、現実的でない光景に興味をひかれる。

 

 しかし。僕は気を引き締めた。


 観光に来ているわけではないのだ。


 門番に教えてもらった道を頼りに僕はギルドへと足を進める。

 

 そして、目的地が見えた時である。

 

「あれか・・」


 わざわざ日本語で大きくギルドと書かれており、


 そして、何故か僕の『注意を惹く』人物がその前に立っていた。


「?」

 

 みすぼらしい格好をした小学生くらいの女の子だ。

 

 重そうな首輪や腕輪をかけており、猫か犬のような耳を頭からはやしている。

 

 彼女は誰かを探しているのか、周囲をきょろきょろと見渡していた。

 

 僕は少し『気になりながら』も通り過ぎようとしたのだが、


「・・っ!」


 彼女はこちらを見ると一瞬驚いて、


「あっ!あのっ!!転移者さんっ?!」


 高い声で僕のほうを見てそう言った。


「!」


 その瞬間、僕は何かを思い出しかけた。


 しかし、


(あ・・れ??)


 掴もうとした記憶がぼんやりと記憶がかすむ。


 こんなこと、今までに一度もなかったはずなのに。どうしてだろう。

 

 それは『とても大切なこと』だったような気がするが・・どうしても思い出せない。

 

 いや、違う?


 思い出せないんじゃない。これは・・

 

 【思い出したくない?】

 

 一瞬そんな思考が脳裏に流れる。


 が、しかしそれにお構いなしに女の子はすぐに僕の腕をひしっと掴む。


「?!」


 驚く僕をよそに、彼女はこういった。

 

「あ、あの・・!!あの方・・いえ、違います、えっと、そ、そう!

 私はこのギルドの案内・・ガールなので・・!

 その、えっと、案内させていただきます!」

 

 彼女は何故か初対面の僕に対し、ぎゅっと腕を掴んで、放そうとする気配もしない。

 

 これでは【いざというときに動けない】。危険だ。


 町の中では森とは別の危険があると考え、咄嗟に取れるような服の下の位置にいくつかナイフを隠し持っているのだ。


 そういった理由から、その腕を振りほどこうとしたのだが。

 

 その理性とは裏腹に、僕はそのままこう言ってしまう。

 

「ああ、頼んだ」


「はいです!」


 そう、何故かこの子には『無下に扱うべきではない』と思っていた。


(・‥なぜ?)


 多少の違和感に包まれながらも、僕はされるがまま女の子に引っ張られながらギルドの門をくぐる。

 

 そして目に映るのは

 

「ギャハハハハハ!!」「おーい!ビールもう一杯!!」


 多くの人々がひしめき合っていた。


 3mはあるだろう巨漢、細見だが腹筋が割れた剣士、紐ビキニによく似た形状の鎧を着た女性。

 

 ありとあらゆるファンタジー職業を濃縮したような空間がそこにはあった。

 

 体育館以上もあるとても広い空間。


 そして入口付近以外に椅子とテーブルが並べられている。


 席はほぼ埋まっており、多くの人物たちが各テーブルで雑談や食事、トランプなどをたしなんでいる。


「これは壮観だな」


「ええ!そうなんです!壮観です!そうかんです、そうなんです・・なんちって!えっへへ!」


 僕の腕をぎゅっともって女の子は言った。


 普通ならば寒いギャグとしてスルーするのが、作法なのだが・・


「えっへっへっへっへ・・!へへへ・・」

 

「?」


 だが、何か妙だ。

 彼女は何故か無理にしゃべり続けている。

 

「そうかんそうかんそうなん・・そーめん・・!

 あっ!そういえば、、あなたは転移者ですよね?

 前の世界ではどんな感じでしたか?

 この世界に着てどう思いましたか?

 

 えっと、えーっと・・」

 

 この子は・・焦っている?僕はそう感じた。


 やたら眼をそらし支離滅裂なことを言う。

 

「あ、あの・・好きです!付き合ってください!!って何言ってんだ私・・!えーっとえーっと」


 何故ここで告白?


 普通に考えれば僕が好きということなのか?だからしどろもどろになっているのか?

 

 でも、何か違うような・・。


 僕は何故か彼女に対して注意をひかれていた。


 そうか、彼女は【誰かに似ている】んだ。


 でも、誰に?


 いや、違う。そんなことよりも何かしないといけないことがあったような・・


 そう、人探しの依頼だ。


 

 ――そう考えたときである。



 

 誰かから背中を触られ

 

技能奪取スキルスティール


「?」


 背後から聞きなれた声が聞こえた。

 

「どんな手を使ったのか知らないが、多分お前の神様に助けてもらったんだろ?

 せっかくユニークスキルが復活してたのになぁ!

 へへへ、またお前のスキルを奪ってやったぜ・・!」

 

「君は・・!!」


 振り返る。


 見知った顔。


 彼は暗い色のローブに身を包み、


 やはり僕の『友人』だ。僕がこの女の子に気をとられている隙に、背後から迫っていたようだ。

 

「スターテス」


 僕はスターテスを確認する。

 



ーー




 名前 斎藤勇斗



 生命力 40


 最大マナ 40




 力 26


 持久力 37


 魔法操作 50


 敏捷 55


 幸運 1300




(10が平均的な成人の値)




スキル


神舌(全ての言語会話可能


神眼(あらゆるものの鑑定が可能




ユニークスキル


○○○○




ーー


 しまった・・。


 ユニークスキルが再び盗まれてしまった。

 

 

 

 友人は自身の技能奪取スキルスティールの説明で、触れなければいけないといっていた。

 

 だからこそ対策も楽だ。そう考えていたのに。


 生殺与奪の権利を、彼に渡してしまったことになる。


 これではいざというときに、彼を止めることができない。

 

 そう、こんな油断をさらしてしまったのは、女の子が不審な動きをしていたからである。


 彼女は、すでに僕の腕を放して友人のところに行ってしまった。


 ということは、つまり・・

 

「この子はお前の仲間なのか?」


 彼女を指さして僕は冷静に尋ねた。

 それに対して何故か友人はぎょっとする。


「・・?!なぜそんな平気な顔をしていられる?!

 お前がせっかく取り戻したユニークスキルを俺が奪ったのに・・!?」


 ああ、そうか。こんな時『人は驚かないといけないのか』。

 

 僕はすぐに悲しい表情をして言う。

 

「頼むから教えてくれないか?彼女は、君の・・」


 彼はとても不快そうな顔をしていたが、

 

 「ああ、そうか。こいつはまだ自分の状況が呑み込めてないのか・・」と呟き、

 

 嘲笑するように笑うと答えてくれた。


「ああ、そうだよ。こいつは奴隷として奴隷商人に売りに出されていたんだ。

 こんなおとなしいメスの獣人奴隷は少ないらしいが、さすが転移者様様だ。初回特典でただで譲ってくれたよ

 まあ先行投資って奴だろうな。ひひっ」


 そして、彼女の頭を乱暴にくしゃくしゃにして耳をなめ始めた。


「しかし、どんないい女に育つんだろうなぁ~!?今から楽しみだぜぇ~?」

 

「なるほど」


 その行為に何故か僕は複雑な感覚を抱く。


 そうだ、彼女の首輪や腕輪は奴隷のための装備なのだろう。

 

 あれのせいで言いなりになっているのだろう。

 

 それは、『良くない』。

 

 人として、『許してはおけないこと』だ。

 

 何故か、そう考えたときに、

 

「・・・・? あれ?」


 僕は自分自身に驚いていた。

 

 今僕は、自然に『彼女を救おう』と考えていた。

 

 彼の奴隷の身分から脱させてやろうと。

 

 いや、当然僕は『善人』なのだから、人としてそう考えるのが普通だ。

 

 しかし・・【それは魔王の出現よりも大事なことなのだろうか?】


 その答えは簡単だ。


 【そんなちっぽけなこと】は優先するべきではない。

 

 今考えることは。


 今、優先するべきことは、


 友人が魔王の支配下から抜け出せるようにすること。


 【そうだ】。【それでいい】。


 だから僕は彼に尋ねた。

 

「もう一つ質問いいかな。

 君がもらったユニークスキル技能奪取スキルスティール

 それはなんと名乗る神様から貰ったんだ?」

 

 

「ああん?

 こんな質問に何の意味があるんだよ。とうとうそこまで気が狂ったのか?

 まあいい。俺は今気分がいいからお前に合わせてやろう」

 

 獣人にパラハラをしつつ、にやにやと笑い友人はこういった。

 

「たしかあいつ『吾輩は魔王』だとかなんとか名乗ってたなぁ。ぺろぺろ」


「!」


 やはり、魔王。

 友人はやはり魔王から加護を得ているのだ。神様の言う通りだ。

 

 しかしこれだけではまだ情報が足りない。僕はつづけて質問する

 

「他に何を言っていた?

 そう、彼は君に何をさせたがっているんだ?」


「ああ、それ?」


 それを聞いた瞬間、彼は何故かにやりと笑いもったいぶる。


「それを聞いちゃうか・・

 だったら特別に教えてやるよ」


 友人は嬉しそうな声色を少しも隠そうともせずこういった。。

 

「すごいぜ?!優斗!

 あの魔王というやつ、俺にすごい情報をいくつも教えてくれた!!


 まず、この国にある最も『金持ちの商会の金庫』のありか!


 そしてこの国の全ての電力を賄うほどほどの『強力なモンスタークリスタル』の場所!!


 はたまた一番強い冒険者や、王族たちの『レアスキル』とのその拠点!!

 

 それらを俺が、俺の技能奪取スキルスティールで奪えば、もう俺に勝てる奴はいねぇ!!

 うはww!俺最強伝説きたwww!!」

 

「・・・」


 やはり。


 僕は内心の危機感が現実のものになったことを知った。

 

 そう、彼の言う通り、彼が規模の大きい商会の財産を奪えば、そこで働く人々の仕事は失うだろう。

 

 他も同じだ。スキル、道具問わず、彼らの多くの財産を奪えば、それだけ人が悲しみ、連鎖的に組織のあらゆる機能がダメになってしまう。

 

 そう、彼がやろうとしていることで、あらゆる混乱がこの国に巻き起こるのだ。

 

 やはり、彼に加護を与えた魔王は、この世界に負の感情を満ちさせようとしているらしい。


 いざというときには手段を選んではいられないだろう。


 だが、穏便に事が済むなら、それに越したことはない。


 だから、できるだけ優しい口調で説得を試みた。


「ちょっといいか?」


「あ、もしかして羨ましいんだろ?

 お前も混ぜてくれって言いたいのか?

 どうしようかなぁ~、じゃあお前も奴隷になるってなら考えても良いぜ?」

 

「その、だな。魔王の言いなりになるなんて、やめないか?」


「あ?なんでだよ?」

 

 怒気を含んだ口調で返した友人に、僕はさらに優しい口調を意識しながら説得した。


「そんなことをしたら、皆困るだろう?

 もちろん君の言いたいこともわかる。最強ってあこがれるものな。

 でもそれをしたらきっとこの国は壊れてしまう。

 僕らのような立場の弱いはずの転移者をせっかく優遇してくれてるんだから、少しは情けをかけてやってもいいんじゃないかい?

 海よりも心の広い君ならばそのことをしてくれても・・」

 

「・・・命令するのか?」


 僕の言葉を遮ったのは、怒気を含んだ表情と口調だ。


 だから慌てて言葉を紡ぐ

 

「いや、これは提案・・」


 だがしかし、駄目だった。

 彼は強く叫ぶ。


「「よりにもよって、クソ雑魚のお前が、

 俺にユニークスキルを奪われて無能のお前が、

 俺に命令するだと・・?!」」

 

 そして、手から金属生成メタルクリエイターで武器を生み出して、飛ばす。

 

「!!」


 間一髪、僕は避けた。

 

 背後の床にかんっ!とナイフが刺さった。

 

「調子に乗るなよ」

 

 シンっ・・・と

 

 途端に静まり返るギルド内。

 その中で友人の声だけがはっきりと響く。


「昔は確かにお前のほうが偉かった。

 お前は何もかもを持っていて、俺は何も持っていなかった。

 だから俺はお前に合わせてやっていた」


 そして、彼は抱えていた奴隷を投げ飛ばすと、

「きゃっ!」


 叫んだ。


「「でも今は違う。

 持っているのは俺のほうだ!!

 持っていないのはお前のほうだ!!」」

 

 完全に激昂する友人。やはり、こうなってしまうようだ。


 僕は最後の確認をとる。

 

「なら、魔王から言われたことを、やめる気はないのか?」


「言われたこと?違う。

 あいつは俺のしもべだ。

 そうだ。しもべから提供された有益な情報を、俺が有益に使うってだけの話だ!」

 

「やはり・・」


 説得は無理か。


「だったら・・」


 ――止めるしかない。

 

 金属生成メタルクリエイターを持たない僕が、金属生成メタルクリエイターLvMAXを持つ彼を。

 

 それを聞いた友人は邪悪ににやりと笑うと

 

「やってみろ!この無能が!!」


 金属生成メタルクリエイターで作り出した無数の武器を飛ばしてきた。


 

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