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失敗の犠牲


「もっと早くできませんかっ?!」


「ご、ごめん・・これが精いっぱいで・・」

 

「っ・・!!」

 

 僕らは、ドラゴンの山から一番近くの国に飛んで行っていた。

 

 魔法職の西園寺、南雲、マージョリーの飛行魔法。

 

 彼女たちの労力と魔力をエンジンに、とてつもなく早い速度を出せるが、しかしそれでもまだ僕は遅いと感じてしまっていた。

 

 いや、、遅いも早いも関係ないだろう。

 

 既に、到着したころには、すべてが終わっていたのだから。

 

 

 数時間後・・・

 

 そこには、崩壊した国があった。

 

「・・っ!!」


 それは、圧倒的な無残な場所だった。

 

 理不尽な災害などと言ったほうがよっぽど説得力があるだろう。いや、僕一人に降りかかる責任がおもすぎて、、そうだと思いたいのかもしれない。

 

「くそっ!!」


 咄嗟に僕は建物の瓦礫をどかしていった。

 

「くそくそくそくそくそっ!!!」

 

「優斗っ・・!!」


「マージョリーさんも手伝ってください!!もしかしたら生存者が・・!!」


「待って!優斗!!」


 彼女はなにか叱責するような声色で叫んだ。他の仲間も呆然とこちらを見つめている。

 

 ・・わかっている。僕が冷静じゃないっていうのは。

 

 だからこそ、色々な感情がごちゃまぜになった頭で必死に考えて叫ぶ。


「ええ、知っています!!僕のせいで・・この国の人々が、ほぼ全員死んでいるのは分かっています!!でも、、、確かめてみないと・・!!」


 そこまで言って、僕は少し頭が回ってきたようだった。


「そうだ!!北條君!!ドローンを飛ばして捜索を・・!!」


 だが、北條君含め、彼らは呆然とこちらを見つめていた。


「そうじゃない!!優斗!!後ろを見て!!」


「命よりも優先するべきものがあるって・・いう・・?」


 僕は彼女や、メンバーが見ている方向を見る。

 

 やつは、瓦礫の上空で翼をはためかせこちらを見ていた。。

 

「・・っ!!」

 

 そこには、黒いドラグーン型のモンスター。

 

 全身の色が、液状になった時の魔王の色にそっくりだ。見た目だけじゃない。魔力も奴のもので間違いない。

 

 そう、それは魔王の分身なのだろうと直感。

 

 ただし、前回の弱弱しいものとはわけが違う。

 

 それは理性こそないが、ドラゴンの山で戦った魔王と遜色ない邪気。

 

 いや、それも全体の数パーセントのエネルギー量にすぎないのだろう。

 

 だが、今、瓦礫の下に埋もれているかもしれない誰かを助けるために戦うにしては、とてつもなく強い相手。

 

 まともに戦えば、最低数日かけて倒さねばならないだろう。

 

 だが、まだ手はあるかもしれない。そうだ。ここで僕が足止めしている間に、仲間が救助を行えば・・!!

 

「僕一人だけでやる!!皆は生き残っている住民を助けるんだ!!」


「っ!!無茶よ!!あんなモンスターに一人で立ち向かうだなんて・・!!」

 

 無茶だって?やってみないと分からないだろう?

 

 このくらいの相手なら、数パーセントの軌跡を手繰り寄せさえすれば勝てる、かもしれないし、、、?

 

 それに、皆が国の捜索を早くやってくれればその分次の国に行って助けることができる。この国の面積は確か100万平方センチ程度だから7人分で割って・・?

 

 ああ、そうか・・。僕は、無茶なことを言っているのか。

 

 でも、


「無茶なのは分かっている!!」


「・・・!!」


 驚いたような感触が背後から伝わってきた。そうだ。こんなの僕らしくない。

 

 そう、僕は世界を守るつもりでいた。

 

 だが、一時の個人的な気の迷いでこのザマだ。ドンドンと手のひらからプライドというものが零れ落ちてくる。

 

 しかし、悲しんで何もかもを帳消しにできるのならば、既にやっている。

 

 だからこそ、辛い時でも動かないといけない。たとえ帳消しにできなくても、帳消しに近づけるように戦わなくてはいけない。

 

 そう、ゾンビ的でもプログラム的でも構わない。冷静になれ。取捨選択し、できることとできないことを振り分け、集中しろ。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 僕は、周囲に瞬間的に金属の糸を放った。

 

「ぎゅるっ!?」


 魔王の分身であるドラグーンは、一瞬驚く。魔力を大量に消費し、鋭く尖らせて飛ばした金属とそれに繋がった極細の糸が、その体に巻き付き動けなくなる。

 

 そして、、その糸を引っ張った。

 

 まるで滑車の要領で、周囲の岩と繋がっていた岩が、ドラグーン目掛けて飛んでいく。

 

「ぎゅぎゃ!!」


 そして、360度全ての方向から衝突し、圧殺したかに思えた・・・が。

 

(まだだ・・!!)


 その瞬間僕は接近し、そして手の平を奴に触れて、炎魔法を発動する。

 

「インフェルノ、ファイア!!」


「ギャァアアアアアアアアアアアアア!!!」


 鳥類じみた断末魔を上げる。

 

 だが、今の上級魔法で消費させたエネルギーは微々たるものだろう。対し僕は今のでかなりの魔力を消費してしまった。

 

 さらに奴はぼとぼととタール状に岩の間から肉体をしみだしていく。スライム状になり逃げだすつもりか。なら、、、、

 

「アブソリュート、フリーズ!!」


 すかさず凍結させる。


「・・・ぐっ!!」


 魔力枯渇寸前特有のめまいが起こる。すかさず僕はポーションをアイテム袋から取り出し飲む。

 

 だが、それでも疲労が溜まっている。ポーションでは回復できない体の疲れ。何度もポーションを多用しているとわかる、眠らないと取れない疲れが僕を支配する。

 

 しかし、それで済むなら安いものだ。

 

 今、奴は固まっているが、それでも力づくで脱出しようとしているのが見て取れた。

 

 魔力を冷気に変換し続けろ。奴をこのまま氷の中に閉じ込めて置くんだ。

 

 僕は回復の呼吸を続けながら叫んだ。

 

「・・・この間に皆は生存者の捜索を!!」

 

「で、でも・・!!あなたは・・!!」「大丈夫に見えないです!!」


 マージョリーさん、他のメンバーもこちらを不安そうに見ていた。

 

 それに対し、僕は振り向いて、顔の筋肉を操作し、ほほ笑んでいるように見せる。


「僕は大丈夫。こんな敵余裕だよ。」


「っ・・!!分かったわ・・!!」

 

 しぶしぶと言った風に、彼らは瓦礫に向かおうとした。

 

 しかし、その瞬間。

 

 ピシっ・・と。氷を破壊する音が。

 

「・・・っ!!」


 反応が遅れた。

 

 数日間、ドラゴンの山に向かっていた時から、戦い続けた代償が出たのだろう。

 

 もしくは、、いずれこうなる定めだったのか・・。

 

 完全に不意打ちを食らってしまった。

 

 だが、、

 

「危ないですっ!!」


 ポチに体当たりを食らう。そのおかげで僕は攻撃をギリギリ回避することができた。

 

「・・・あ、ありがとう」


「あの、優斗さん、、顔色が悪いですよ・・?」


「え?」


「そうです!!優斗様!!」


 アンジェリカも言う。

 

「お言葉ですが、今のあなたは普通じゃありません!!」


「・・・!」


 そんなのは分かっている。

 

 しかし、今はそうと分かっていても、やるしかないんだ。

 

 しかし、東堂も言う。

 

「そうだ。気持ちは分かるが、あのモンスターがいる以上、生存者は絶望的だろう」

 

「・・・・」


 北條も言う。


「今私たち勇者がやるべきは、、魔王を追うことです。そして、魔王城ができているなら、それを破壊するべきです!!」


 そうだ。彼の言う通りだ。


 頭では納得している。

 

 しかし、、それでも僕はごねた。


「そうかもしれない。だけど・・」

 

「バカ!!あんたの決断で、私たちとあんた自身を危険にさらしてどうするの?!!」


「そうかもしれないけど!!!」


 いや、、今ならわかる。

 

 あの時の僕は、ただ単に拗ねていただけだったのだ。

 

 一度、ここまでのことをしでかしたばかりに、それを取り返そうと馬鹿なことをしていただけだった。

 

 そのことを、彼らは分かっていたのだろう。

 

「はぁ・・」と大きくため息をつき、マージョリーさんは、


「スリープ」と言った。


「え?」


 驚く。それは睡眠魔法。その対象は僕だった。

 

「ちょっと・・!!君たちなにを・・!」


 思わず抵抗する。しかし、西園寺、南雲も同じように魔法を重ねかけしてきたのだ。

 

 皆、勇者クラスの魔法能力を持っている。疲労状態になっているその時の僕にとってそれに抵抗することは不可能だった。

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