悪あがき
僕は内心、『ほくそ笑んで』いたのだろう。
「・・・ん?」
何か違和感を感じたのか。魔王は急に足を止めた。
何か危険を察知したのか。油断ならないセンスだが、、もう遅い。
突然、二つの技名を叫ぶ声が響いた。
「ホーリーウィップ!!」「アイスエイジ!!」
シュルシュルっと。魔王いる地面から光の帯が飛び出し、奴の足に巻き付いた。
と同時に、足元から瞬間的に凍り付いてゆく。
南雲と西園寺の魔法だ。
あの恐怖は半分演技だったのだろうか。あえて聞くことはしないが、ともかく計画通り彼らは魔法を使ってくれた。
そして、マージョリーさんがさらに魔法を発動させた。
「グランドウォールタイフーン!!」
巨大な魔法陣が現れ、そこから透明の強大な圧力、風が吹いてゆく。
「ぐ・・?」
風。そう一言でいうのは簡単だが、その風は魔王の巨体をも動かすほどの圧力だ。
氷漬けにされて動けない魔王は倒れ、後方へと転がっていく。
そう、一度勢いをつけてしまえば、、彼の体重からその急な斜面に抵抗するのは難しいだろう。
そう、まるですり鉢のように斜面ができている。先ほどの謎の爆発の影響だろう。その地形をあらかじめ遠目からドローンで確認してあったのだ。
そして向かうのは、その中心付近。
そこに取り付けられているのは、、冷蔵庫ほどもある巨大な機械・・いや、爆弾だ。
僕らが戦っている間、バレないようにこっそりとドローンで北條がやってくれていたのだ。
その爆弾には危険ゆえに安全装置をいくつも取り付けてあり、準備が数分必要なのだが、、それをたった今、完了させていたのだ。
あれこそが圧縮爆弾。範囲内のあらゆる物体を削り取り、真空すら生み出す禁忌の兵器。
この計画は、魔王にその爆弾がある場所へと誘導することで完了する。
だが、問題は、どうやって誘導するか、だ。
そのためには、一瞬の油断を誘い、地形すらも利用しなければならない。
そう、それはまさしく蟻地獄。奴を仕留めるためにぴったりの舞台だ。
あとは奴が爆弾に到達した瞬間に、金属生成でできたこの糸に魔力を流すだけだ。
だが、、
「ぐぅ・・!!な、な、な・・・っ!!」
奴も僕たちの作戦にすごすご乗ってくれないようだ。
「なめるなあぁああああぁああああああああ!!!」
バキィイイイイイイン!!
「なっ・・!!」
体の水分を強制的に氷結させたれていたはずだが、、奴は力づくでその氷の縛りを破壊する。
そして、光の帯すら力づくで破壊し、斜面に四つん這いで這いつくばる。
マージョリーさんの魔法の風によって、跳躍し一気に駆け上ることはできないものの、腕を数本追加ではやしつつ、魔王は駆け上ってくる。
「・・!!」
「優斗!!」
僕は駆けだした。
この状況は想定していたものだった。
だが、作戦を離す際に皆には言っていない。
何故なら、この役が一番危険なところだからだ。
僕は車に乗ると、アクセルを踏んで人工の『蟻地獄』の中へと進んでいった。
「なっ・・・?!!」
走行中、近くの岩に金属の糸を縛り付け、命綱とし、
さらに車に金属で追加の装甲を纏わせる。
目的地は、当然魔王の場所だ。
収縮爆弾という、魔王にとってのデッドゾーン。
そこに押し込むために僕は車ごと突進したのだ。
その時、北條四郎は、マージョリーさんの襟首をつかんで叫ぶ。
「マージョリーさん!!早く風魔法を解除・・いや、少し威力を減らすだけでも・・!!この風量では優斗さんごとあの爆弾に巻き込まれてしまいます!!」
彼はその兵器を開発していたがゆえに、その危険性も熟知していたのだろう。その声には一層の焦りが見えた。
しかしその熱意も、彼女の冷たい声によって減じられた。
「いや、できないわ」
「っ!・・で、でもこのままだと優斗は!!」
「あそこに命綱が見えるでしょ。あれがあるから大丈夫だわ」
「で、ですが、、もしかするとタイミングを間違えて・・」
確かに、ここまでの戦闘の激しさからして、それはあり得ることだった。
だが、それを思ってもなお、マージョリーは最初の答えをつらぬく。
「いえ、それはないわ」
「どうしてそんなことが言えるんですか?!優斗さんは機械じゃないんですよ?!一瞬のミスが命取り!だから」
「それでもよ。あの子は、こんな局面でミスをするような凡人じゃないわ。
必ず生きて帰ってくる。
「・・!!」
「あんた、優斗のことが好きなんでしょ。なら信じなさい」
それはまさしく正妻(自称)の余裕。
その確信によって北條もかなりの落ち着きを取り戻した。
「・・・・分かりました・・!!信じてみます!!あの人のことを・・!!」
いや、彼だけではない。アンジェリカ、ポチ、東堂、南雲、西園寺、全員が北條を信じていた。
必ずこのアクションで、彼が魔王を討ちとってくれることを、一片たりとも疑う余地はなかった。
だが・・彼らにとって、唯一の誤算があるとするならば・・
魔王は、優斗にとってのある『切り札』を持っていたということだった。
僕の操縦する車、、いや、ドリルや棘を先端付近に取り付けた戦車に似た何かは、魔王の元へと無事接敵した。
ギュイイイイイイイイイイイイイイ!!!
それに対し、魔王は多くの腕でその攻撃を阻んでいる。
重量、そして回転、ブレード、それ以外にも、僕自信は厚い金属の板を挟んで、後方から前方へと金属生成で絶えず飛び道具を放っている。
それによって、奴はこちらの攻撃を止めることに忙しらしく、僕ら全体として斜面と風に従って少しずつ爆弾へと近づいていた。
だが、、こんな状況において、魔王は場違いにもとてつもなく落ち着いた声で語り掛けてきた。
「やるじゃあないか・・優斗、、と言ったか」
「!!」
最初、それが魔王の声だとは思わなかった。それほどまでに冷静さをたたえた声。まるでこれが午後のティータイムなのかというくらいに奴は言ったのだ。
だが、当然その声には、依然、邪気、あるいは狂気を携えている。
状況はこちらが有利。
僕は以前無視を続け、攻撃の手を緩めなかった。
だが、奴もそれを気にしないという風に、
「ああ、われの後ろのある兵器・・いや、爆弾かな?
貴様らは、あれで私を殺せると思っているんだろう?ククックック・・」
騙り続ける。
「『その通り』だな」
「・・・・?」
なんだ?
なんなんだ?
「いや、正確には、あの爆弾で死ぬことはないだろう。どんな攻撃でも、今の状態の我ならば、かろうじて再生し生き延びることはできるだおる。
だが、同じことだ。そのあと弱った我をお前らは仕留めるのだろうな。クックックック」
何か企んでいると言った口調。
『何かこいつは何かを隠している』。
そう頭の片隅に直感するが、依然押しているのは変わらないのだ。
僕は無視と寡黙を貫き攻撃の手を緩めない。
「・・・・・」
「優斗よ。なぜ我がそんな風に『貴様ら』を脅威に思うのか・・お前にはわかるかぁ?」
分からない。わかるわけがない。
だが、お前は倒す。
「実は、我はお前のことを、以前から知っていたんだ。お前が元居た世界にいたときからな」
「・・・」
いや、そうか。何となくわかった。
この声は、おそらく最後の悪あがきのようなものなのだろう。
以前から知っていた?
ああ、確かに魔王は、この世界に来る前の僕のことを知っていたかもしれない。
しかし仮にそれが本当だとしても今この瞬間わざわざ言うことではないはずだ。
だが、、魔王は言う。
「お前の家族、母親と妹は、原因不明の病気で死んだよなぁ・・?」
「っ・・・!!」
思わず何故それをと叫びそうになった。
いや、違う。冷静に成れ。
あてずっぽうだ。
そう、それに今この戦いにおいてあまり関係はない。
仮に、本当だとしてもこの場で魔王を殺すほうが何においても優先される。
少し攻撃の手を止めてしまったが、慌てて続行する。
「今、、攻撃が少し止んだなぁ?
「・・・・」
「あてずっぽうだと思っているんだろう?
なら、お前の家庭事情をすこしだけ当ててやろうかぁ・・
お前は妹と仲が良く、道場の中で一番強かった」
道場・・そのことを誰かに話した記憶はない。つまり僕しか知りえない情報だ。
こいつは本当に僕のことを知っていたのか・・?!
「病気の母親に妹を託されたが、その数年後に妹も後を追うように同じ病気で死亡・・」
いや、違う。攻撃の手を緩めるな。
奴の言うことは全て嘘だ。
「それなぁ・・」
「私が殺したんだ」