迎撃、直撃
既に数百メートルまで、女の子の形をしたモンスターは迫っていた。気配からして魔王のしもべなのだろう。
遠距離からの即発動する洗脳に続き、その相手は近づくだけで魔力を吸い取る能力。
そんな凶悪な力は今まで聞いたことがない。
もはやポーションを飲んでも数秒でMPが枯渇するほどだ。
まるで、水を飲んでも飲んでも乾く。砂漠のような飢餓感。
一応、集中すれば魔力をとどめることもできるようだが・・戦いながらと並列するのならば、かなりの精神的疲労が溜まるだろう。
全てのマジックポーションをマージョリーさんに集中させ、最後の魔力を振り絞り、強力な一撃をひりだした。
「ファイアウォール!!」
手前に炎の線が水平に惹かれたかと思うと、それが上空へと延びていき、壁となった。
そして、急激に奥へと進んでいく。相手からすれば壁が真正面から迫ってくるようなものだろう。
普通ならば回避不能の販促技。
しかし、目の前の化物型の少女は、回避しようとせず、
「あはははははははははh!!!」
逆に速度を上げて突っ込んできた。
当然、炎に焼かれる。が、、
「な、なんだって?!」
加えて加速して突き抜け、接触時間を減らすことでダメージを最低限にしたのだ。
ノーダメージとはいかないが、抜けてできた怪物少女は多少の炭化で済んでいる。
依然そのスピードは衰えていない。
そして、今行った魔法攻撃によって、
加えて、ドレインのスピードがさらに速まり、
「も、もうだめ・・!」
マージョリーさんが魔力枯渇で気絶した。
魔力枯渇。
その症状は、すぐにポーションで回復すればなんら問題はない。
だが、問題は目の前の敵だった。
僕は依然、『あるスキル』を発動し続けている。
ゆえに、今まともに戦えるのは、北條君しかいない。
その彼が操縦するメイドロボは、動きやすいようにミニスカートとスパッツを履いており、そして構えている。
「こ、来い・・!! 私が相手です・・・!!」
「ひひひ・・!!」
少女の顔がすぐ見えるところまで接近している。先ほどよりもドレイン効果がさらに強くなっているのを感じていた。
油断すればすぐにでも意識を持っていかれそうだ。
僕は直接戦えないが、最低限の援護はさせてもらう。
手首のスナップを聞かせて、素早く相手に見られないように地面にあるものを投げた。
そう、そして『それ』は、たった今、彼女が今足に触れている位置に来る。
(今だ・・!!)
そう、今仕掛けたのは罠だ。
僕は金属の糸から、力を送り込む。それと同時に、その先に繋がっている針状の仕掛けが作動した。
キィイイインッッ!!
「っ!?」
少女の足にいくつもの穴が開いた。
それは微弱な魔力を与えることで、自動的にウニのように放射状に広がるように魔法式を組み込んである。
「よしっ!捕らえた!」
警戒されるかと思ったが、予想よりも戦闘経験が少ないのだろう。能力が強すぎて研鑽する余地が無かったのだろうか。
だが、少女は、乱杭歯をにやりと端を釣り上げて、、笑った。そして、
「ぎゃははははは!!!」
下半身と上半身を分離させた!?
「なっ・・・?!」
僕と北條は驚く。
続けて、下半身を捨て、上半身から羽をはやした『それ』は、空中からこちらへと迫ってくる。
「くっ・・!あれじゃ罠はもう使えないか・・!!」
しかも、飛行になったことで、さらにスピードが倍増した。
相手はこちらに近づくだけでドレインの効果を上げることができる。速さにさえ特化してしまえば本体の強さなど関係ないのだろう。
ならば、、!!
「作戦どおり、ドローンで対応!!」
「はい!わかりました!」
ドローンに内蔵された魔法攻撃装置。それは先日より威力も数も数段パワーアップしてある。
それに対し、相手は意外なことに少しも回避しようとしない。
着弾と同時に爆発が生じる。
だが、、煙が後方へと流れたときに、「イヒヒヒヒ!」
効いていないないという風に飛行を続けていた。いや、ダメージがないわけじゃない。だが、、それよりも得られる魔力のほうが多いのだ。
「再生・・!!そうか・・!!ドレインした魔力を使って・・!!」
事前に仕掛けておいた防壁は全て突破された。
あとは、北條君のロボットに任せるしかない。
彼は集中しているのか、黙って車の上で立ち上がり・・そして跳躍した。
「イヒッ?」
そして弧を描いて飛翔する少女の元に到達し、そして、、
「エクスクートドール・・!!
抱きしめた。
いや、そう見えるだけだ。あれは全身に細かい刃物やピアノ線を出し入れできる仕掛けがいくつも取り付けられている。
つまり、一瞬で対象を細切れにすることができるのだ。そしてそれだけではない。
足の裏などに取り付けられたバーニアを使い、空中ジャンプのように彼は車へと戻ってきた。
そして、、「モーニングアフター・・!」
爆発。
彼が細切れにした瞬間、小型アームによって爆弾を埋め込んだのだ。それによって、核を直接破壊できるという、残酷ながらも殺傷力に優れる技術だ。
その爆炎は、完全に失速したらしく車の速度についていけず後方へと流れていった。
不確定要素の多い相手だったが、、どうやら上手くいったようだ。
「や、やりました・・!!」
自分でも信じられないという風に北條君は言った。
「ああ・・!!よくやった・・!1」
確実にやったと思い、自らを鑑定。しかし、ドレインはまだ続いている?!
「いや・・!!待ってくれ!まだ油断は・・!!」
「え?」
爆炎の中から、先ほどとは比べ物にならないスピードで飛翔体が迫ってくる。
その姿を僕は一瞬見た。それは顔だけになった先ほどの少女・・いや化物。
「ギィイイイイイイイイイイイイ!!!!」
おそらく、体を再生するのを諦め、頭を砲台のように打ち出したのだ。
「・・ぐっ!!」
勝利を確信したこともあってか、かなり瞬間的に近づけさせてしまった。数メートル先に迫りくる化物。ここまで接近されれば、腕を動かそうにも魔力の枯渇でうまくいかない。
だが、、北條は違った。この場で唯一たった一人だけ動くことのできる人物。
彼は咄嗟に自らの義体を盾にした。
バキッ・・!と、パーツのいくつかが破壊される音。
「ぐっ・・!1」
その衝撃を後ろへと逃がさないために、あえて自分から横に身を投げ出し、車から転落する。
「ほ、ほうじょう・・くん・・?!!」
そうしている間にも車は動き続ける。後方へと二名は流れていった。
義体、確かに彼の本当の肉体は、アイテム袋の異次元の中にある。しかし、、アイテム袋は人形の内部に『内蔵』されているのだ。
今まではそのアイテム袋は僕が所持していたが、、あれほどの義体を動かすには、遠距離では不十分だったのである。
しかし、、何故その研究を、今の今までやろうとしなかったのだろうか。
「く・・そ・・!!」
震える手でゆっくりとポーションを取り出し一気飲みする。多少距離が離れたとは言っても、すぐに魔力が枯渇するが、、今はそんなことよりも少しでも正気を上げるほうに行動しなければならない。
そして、運転席へと飛び乗り、ハンドルを握って、Uターンした。
無論、近づくのは怪物少女と北條が振り落とされた場所。
少女は既に不完全ながらも肉体を再生しており、北條の上に文字通り肉薄してマウントを取っていた。
彼は全身に隠された刃物によって抵抗するも、今だ拳を振り上げて殴る彼女から逃れられていない。
既に彼のパーツは大部分が破損している。だが今重要なのは、胸あたりの部分だ。彼の生命線であるアイテム袋はその位置に収められている。
「(間に合え・・!!)」
もちろん戦闘用ゆえに、かなり強力な素材で囲っているものの、何度も強い衝撃を与え続けられれば破壊される。
そして、今、、運の悪いことにその箱は露出され、今少女に殴られ続けていた。
「(間に合え・・!!)」
車を猛スピードで走らせ続け、、そして、魔力が再び枯渇していく。
だが、これでいい。もうそろそろのはずだ。そろそろ最初から仕掛けていた秘策が発動するとき・・!
僕はハンドルを離して車から最後の力を振り絞り跳躍した。
「グヒッ?!」
そして、化物に触れる。当然、全身の力が抜け、僕は地面に墜落した。
だが、それでもかろうじて足首を掴み、触れ続ける。
もっとだ。もっと・・!!
怪物は首をかしげる。何をしたかったのだろうと言いたげなその態度だが、そんなことはどうでもいいと悟ったのだろう。
足を振り上げて、頭を風船のようにつぶそうとする。そして僕はそれを避けることもできずに・・
直撃]した。