一体撃破、一体接近
一方、攻撃を当てられた方はというと。
「「ギャァアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
マージョリーの魔法攻撃に、『彼女』は直撃した。
だが、、一人。
攻撃が当たっているモンスターは『一人』だけだった。
それは、術を優斗たち一行に使用していた個体。
術に集中して本体は無防備だったゆえに、回避できなかっただ。
無事だったもう一人は、咄嗟に近くの動物の死体の中に入って何とか難を逃れていた。
精神魔法攻撃で倒したその猛獣の死体だが・・皮は防御力に優れており、魔法攻撃も通りにくい。
ゆえにそのマージョリーの超級魔法攻撃を受けずに済んだのだ。
攻撃が止んだ後、その魔王の子分の片割れは、死体から出てきて近くの仲間だったもの手に取る。
「・・っ!」
そして、その眼に驚愕がうっすらと浮かんだ。
即死。元々エネルギーが高くなく、スキル特化の二人だった彼女たち。
超強力な攻撃に被弾すればどうなるかは言うまでもないだろう。
それはまるで悲しんでいるようにも見えた・・が。
「わーい!!いただきまーす!!」
それは勘違いだった。
むしゃむしゃと、相棒の死体を食いはじめる。
彼女たちに仲間意識というものはない。
単に利用しあっていただけのこと。
今死んだ片われは、遠距離からの精神攻撃担当、そしてもう片方は近づいてきたモンスターを処理する役割だった。
素早く食事を済ましたあと、げっぷをして周囲を見回した。そこにはこちらを見ている複数の飛翔体。
そのドローンが出てきてから、攻撃が飛んできた。
見たこともない物体ではあったが、今起きた現象から、本能でそれが何かを判断する。
「んじゃ、、早く行かなきゃ」
彼女は移動する。
このドラゴンの山で培ってきた素早さで以てして、逃げるのではなく優斗たち一行に立ち向かう。
たとえ、この状況で逃げても、そのドローンによって追跡され続けるだろうと考えての行動だった。
そして、それを実行するだけのポテンシャルも持っていると判断する。
仲間のエネルギーの摂取により、肉体強化は完了している。速力に集中させて前進する。
だが、それは理知的とは言えども、ある意味リスキーな行動だった。
そう、彼女をそうさせているのは、悲しみではなく、怒りだった。
(殺す・・殺す・・殺す・・・)
仲間意識というものがなくとも、自身の財産を犯されたという事実は、彼女に激昂にも似た感情を引き起こしていたのだ。
つまりより正確に言うなら、、殺意。
それを携え、その魔王のしもべは、彼らへと接近を試みようとしていた。
「・・やったか?!」
マージョリーさんの雷攻撃は、遠目から見て確実に着弾したと思われた。
その問いに、北條はドローンからの監視状況を伝えてくる。
「ええ、煙で少し視界が良くありませんが、カメラの履歴によれば、あそこから逃げ出したログは残っていません。つまり、確実にやったはずです」
「そうか・・」
気が緩んだ。そして、仲間を確認すると、今まであった狂気的な表情が落ち着いている。
「んん・・?」「すー、すー」
まだ意識は戻らないが、しかし少なくとも先ほどの狂気的な状態は治っているようだった。
「よかった・・」
と、一瞬気が緩んだその瞬間、、
「すみません!!」
「っ!?」
危機的な声がメイドロボから聞こえ、緊張する。
「前言撤回です!!まだ一人生き残っています!!
モンスターの死体の中に隠れていたみたいで、仲間の死骸を食べて・・こちらに向かってきます!!」
「っ、、!」
その方向を見てみると、遠目からこちらに急接近する人影が一つ。そこには魔王の気配だとかそういったものは関係ない。隠そうともしない殺意がありありと感じられた。
「皆は・・?!」
「「うーん・・?」「まだ三分・・」「くぅーん」」
ダメだ。状態異常の影響で、すぐさま戦える状況ではない。
「無事な私たち三人で対応するしかないようね・・!!」
「そうみたいだね・・!!」
少し不安だが、しかしこういったときのために彼のメイドロボには少し細工をしてあるのだ。
「北條君!!練習通りにいこう!!」
「・・はい!!」
ブルルルルルルルウウウンと、エンジンが響き渡り、僕たち三人は戦闘中特有の緊張感が流れる。
少しでも時間を稼ぐために、車は走らせることにした。
そして、その間マージョリーさんが呪文を詠唱する。
今度は範囲型の魔法ではなく、砲撃系の魔法だ。
相手はこちらに急接近しているわけだし、そのほうが被弾させやすいから良い判断だろう。
そして、対する相手一人。この速さから、おそらく接近型の能力だろう。
走らせる方向に伏兵の可能性もあったかもしれないが、北條君のドローンのおかげでその心配はない。
ちなみにドローンには熱、電波、魔力を感知する機能もついているのだ。地中などに仲間が隠れている可能性もない。
ゆえに、勝負は彼女がこの車に追いついてから、そう思っていたのだが、
「・・・?!」
マージョリーさんが詠唱を中断し、顔を青くした。
「マージョリーさん?!!」
慌てて安否を確認する。鑑定するとその状態異常が分かった。
(魔力が・・枯渇寸前・・・?!どんどん減っていって・・!!)
前言撤回だ。敵は遠距離からでも発動できる、ドレイン系の能力なのだろう。
「マージョリーさん!早くポーションを飲んで!!」
「あ、ありがとう・・!」
一時的に回復することはできた。が、
その減少速度が時間が経つにつれ少しずつ加速してゆく。
「そうか・・!!」
それはおそらく、敵の距離が近づくほど、強力に魔力を吸ってくるのだ。
今は離れているおかげでこの程度のドレインで済んでいる。
だが、すぐそこに接近してきたら一瞬で魔力を枯渇させられるのではないか。そう予測した。
魔法使い職にとって、大魔法を使う際は、一時的でも大きく魔力を消費する。ゆえに彼女は不調が現れたのだろう。
ポジティブに考えるならば、まだ距離が開いているうちに気が付いてよかった。
自身を鑑定すると、マージョリーさんと同じ現象が起きていた。
ドレインは、状態異常を与えるスキルではないので、ステータス操作スキルによって無効化することはできない。
だが、、有効な対処法はある。
僕はあのスキルを発動させた。これで、相手は時間さえ立てば勝手に自滅するはず。
ただ、、問題は、時間がなさすぎるということだ。敵にあの効果が表れるまでには、時間が少なすぎる。
そのために、少なからず相手に抵抗する必要があった。
僕は北條に目くばせをする。
「やるんですね・・?」
自信なさげな声だが、無理もないだろう。
正直、彼には荷が重すぎるかもしれない。しかし、勝機はある。
「頼む、、数分で良い。時間を稼いでくれ。
そうすれば・・確実に奴を倒すことができる」
その言葉で、マージョリーさんは気が付いたのだろう。
「アレをやっているのね・・!!」
「はい・・!!しかし、それが利いてくるまでには時間が必要です・・!」
僕たちがやるべきは時間稼ぎ。
ただそれだけでいい。のだが、、。
相手は普通の相手ではない。万全な準備が必要。
そして、これからどうするのかの作戦を手短に話したのだ。