魔王のしもべとの衝突
ブゥウウウウウンと、
車を走らせ、ついに遠目にドラゴンの山が見えるところまで近づいてきた。
周囲は何やら緑は少なく、ところどころ岩がゴロゴロと転がっている。
そんな足場の悪い道路でも、サスペンションなどを工夫して車は走行可能なように作ってある。
そして、あと数時間程度で到着するだろう。もう引き返せないところまで来てしまった。
「いよいよだな」
「あそこに魔王がいるのよね。優斗」
「・・はい」
周囲からは弱くないモンスターの気配を感じるし、実際ここまで来るまでに、何度もモンスターと戦ってきた
しかし、邪悪な気配がどんどん近づいてくるの感じる。その高レベルのモンスターが可愛く見えてくるほどのものだ。
「禍々しい邪気の核を感じます・・っ!」
間違いない。マージョリーさんに尋ねられ、僕は確信を持ってうなづいた。
「でも・・思ったよりも・・」
そう、思ったよりも『弱い』。
この気配は、まだ完全体ではない。町で戦った時よりかは比べ物にならないほどの圧力ではあるのだが、まだ対処できるレベルだ。
「あれならば・・僕たちならば倒せると思います」
「そうか・・!」
アンジェリカの鎧の音から、彼女の覚悟が伝わってきた。他のメンバーも同様。
「だ、大丈夫だよね?!私たちなら!!」
「大丈夫大丈夫!!」
「案ずるな。これまで培ってきたものを全て出すしかない」
「優斗さんがいるなら大丈夫です!!私もバックから支援しますし、いざというときは義体で・・!!」
「がるるるる・・!!」
特に、、ポチは魔王に対して憎しみ、そして闘士をたぎらせている。
誰もかれも、一騎当千レベルの使い手。
これほどの猛者ならば、行ける。
僕はそう確信した。
問題は想定外の状況。
(僕がそれに対して柔軟に対応できれば・・!)
目の前の目的地に、改めて決意を固めた。
そして、、そのたった数分後。
事件はその時に起こった。
無論、まだ目的地には到達していない。
依然遠くのほうにはまだうっすらと山が見えているだけ。
遠距離からの攻撃も十分警戒していたはずだった・・・が。
その攻撃は、直接的なものではない。
「がるるるるるるるるるる・・!!」
ひと際、ポチの唸り声が獰猛なものになっている。それは単に闘志の表れなのだと思っていた。
しかし、、何か妙だ。
「ぎゅるるるっるるるっるるっるるるるるっっ!!」
彼女のその唸り声は、理性というものをあまりにも失っている気がしてたのだ。
「‥ポチ?」
不審に思い、振り向く。
その瞬間、
「ガルッ!!!!」
「・・っ!?」
彼女は腕を振り上げていた。
その手は、すぐ隣にいた西園寺に向けられている。
(なっ・・?!!)
一瞬、呆気にとられるが、すぐに事態を把握する。
彼女は何か様子がおかしい。おそらく、これが魔王の攻撃!
ともかく考えている暇はない。
ブレーキするとともに、僕は金属生成を使い、その爪にナイフを投擲して軌道を逸らす。
カキィイイインッ!!
そして同時に跳躍して
「ポチ!!しっかりしろ!!」
彼女を背後から羽交い絞めにする。
「ガるるるるるるっ!!」
強烈な力で暴れているが、何とか金属生成で縛り付けていく。
(魔法職ではないとはいえ、高レベルのポチ相手に、強力な精神攻撃か効くなんて・・!!)
彼女ほどの猛者が狂気に充てられることは普通ならありえない。だが、相手はそれに特化した同じく高レベルの相手なのだろう。
ともかく彼女を治療しないことには始まらない。
「西園寺!!手を貸してくれ!!状態回復でポチを・・!1」
近くの西園寺に助けを求める。
だが、
「~~~~~ブツブツ」
「・・え?」
西園寺も何やら様子がおかしかった。何やらうつむいて呪文を唱えている。
(まさか・・!?)
その呪文は知っていた。
記憶が正しければあたり一帯を爆発させる呪文。
そして表情からして、彼女もポチと同じ状態。
つまり、正気を失っているようだった。
いや、彼女だけではない。東堂、南雲、アンジェリカも同様。
次々と凶暴化していったのだ。
「うらぁあああ!!」「せいやぁあああ!!」「あははははははは!!!」
「っっ!」
互いに暴力をふるおうとした。高レベル同士が戦えば、無事では済まないだろう。
しかし、、、、幸運だった。
状態異常にかかっていない仲間がまだいたのである。
「ストーンロック!!」
先に、マージョリーさんの魔法が発動したのだ。
「「ぐ、ぐぐぐぐ・・!!」」
土が彼らの体を覆っていく。
「マージョリーさん?」
「私は大丈夫よ」
ほっとするが、しかし急いで続けてこういわれた。
「それよりも、前あなたに教えた『ステータス操作』スキルって覚えてる?」
「覚えていますけど・・まさか」
すぐに何が言いたいか予想が付いた。
そう、ステータス操作スキルは、自分のスキルなどを変化させるスキル、変化と言っても、限界以上を出すことには使えないが、自信の要らないスキルを封じることはできる。
つまり、、スキルを押し付ける系の、呪い、精神攻撃系などを無効化することができるということだ。
彼女が狂っていないのは、それを使用したからであろう。
すぐさま僕も彼女に習い、スキルを使用する。
(とりあえず、『戦闘用に使うスキル以外は無効化』・・と)
習得直後ならともかく、今ではそう言った複雑な除外の仕方も可能。
しかし、安心するのはまだ早い。
今まさに戦力を大幅に減らされたのだ。この隙を狙われたらひとたまりもない。
「マージョリーさん」
「ええ、遠距離からで間違いないでしょうね・・!」
「だったら、、」
急場をしのいだ今、次にやることはこの不利な状況をリセットすること。
一度戻って、再度装備を整え、対策を考える。
それがいちばん安全だとは思う。
しかし、同時に危険かもしれない。
当然相手は自分たちが逃げるということは予想しているだろう。
(どうする・・?!)
数舜、僕は思考に全力を掛けた。当然1秒たりとも迷っている時間はない。こうしている間にも相手は何を仕掛けてくるか分からないのだ。
だが、急にある音に気が付く。
ブゥウウウウウウウウン、と。
聞き覚えのある音。僕は咄嗟に空を見上げた。
「あれは・・!」
ドローンがすでに空を覆っていたのだ。そして今まで停止していたと思っていたロボットに顔を向ける。そのメイドロボは完全に操縦を放棄しているらしく、だらんとうつむいていた。が、、
「北條君・・!!」
メイドロボには動きはなかったが、音声で忙しそうにしている彼の声が聞こえた。
「ええ、、大丈夫です!!敵は僕が探します!!」
そうか。彼はアイテム袋の中にいる。異次元空間にいるようなものだ。おそらくそれによって狂気に染まらずに済んだのだ。
そして、彼が正気でいてくれてよかった。
僕の魔王に対しての感知能力は鋭敏になってきたと言っても、まだだいたいの方向しか分からない。
つまり、こういうとき、相手がどこに潜んでいるのかは分からないのだ。潜伏している相手を探すことにかけては彼に右に出る者はいないだろう。
「すまない、頼む・・!!」
「はい!任せてください!!」
しかしいくらドローンで広範囲を捜索できる彼らと言って、速攻で見つけられるわけではない。彼が魔王を見つけるまでの数分間、、僕らは周囲を警戒していく。
相手もドローンのことはすでに察知しているだろう。必ず相手は何か仕掛けてくるはずだ。
と思ったのだが、、。
「いました!!ドラゴンの山方向に、怪しげな二人の少女型の化物が、、!!」
「よし・・!!」
その前に北條が相手の位置を特定したようだ。
これで攻めに転じられる。
「今地図を出します!!」
遠距離攻撃に関しては、僕よりも彼女のほうが強いだろう。その地図を指さして叫ぶ。
「マージョリーさん頼めますか!!」
「ええ!」
僕一人ならば、金属生成による遠距離攻撃をしただろうが、それでは破壊力や確実性に欠ける。
だがマージョリーさんならば、詠唱さえしてしまえば、遠距離から超強力な攻撃を仕掛けることができるのだ。
数十秒、彼女は詠唱を開始し、僕は防御に集中する。
そして、、
「グラフィティーフォールフィールド!!」
超級の魔法が発動した。
地図で示された前方のあるポイントを中心に、数多くの雷が貫く。
それは、威力もさることながら、範囲も広大だった。
(あれならば回避できないはず・・!!)