戦いの前兆
「・・・」
車には、奇妙な重苦しい沈黙。
それは、向かう先に、戦いを強いられる相手がいるからだ。
どうやら、僕には魔王を感知する第六感が働くらしい。
あれから、その感覚だけを頼りに、移動するだけの日々が続いた。
あまりにも頼りない根拠での行動に皆を突き合わせているのは心苦しい。
だが、、日に日にその感覚は強まっていく。
この方向で間違いない。そう確信していた。
「なぁ・・優斗さん・・!!」
東堂が口を開いた。
「何となく貴方の雰囲気から察しているんですが、、近いのか?」
「そ、そうだよ!!」「いよいよなのね?」
彼女たちの質問に対し、マージョリーさんはこちらを見る。
「優斗、そろそろあの事をいうべきじゃないの?」
「・・そうだね」
キキっと。
車を停止させた。そしてメンバー全員に向き直る。
「皆も気が付いている通り、そろそろ再び魔王との戦闘になると思う。
そして今回は前回と違う」
「ある程度力を蓄えているのね?」
「ああ」
これだけ日をまたいだのだ。
魔王も僕らを撃退せんと準備を着々と進めているはず。
無論、こちらも研鑽を重ねている。抵抗するだけの力は持っているはずだ。
だが、それでも命がけということは変わりない。
「だから・・」
これは勇者と魔王の戦いとはいえ、それは参加の意志あってこそだと思っている。
それはマージョリーさんやアンジェリカさんと数日前から話し合って決めたこと。
相手は魔王だ。どんな手を使ってくるか予想もできない。
もしかしたら、抵抗できずに死ぬ可能性すらあるのだ。
つまり、「ここでパーティーを離脱するなら止めない」
そういう結論に至ったのだ。
だが、それを言う前に、
「優斗さん」
東堂は、立ち上がる。
「優斗さん、ここまで着てそれはないですよ」
南雲もそれに追随して、こちらに寄ってきた。
「うん!!私たちだってあれからとっても強くなったんだからね!!」
西園寺も、ぎゅっと杖を握り締めて覚悟したように言う。
「まあ少し怖いけど・・ここまできて私だって引き下がれないわ!」
北條が彼らを掻き分けてこちらに顔を近づけ言う。
「僕もこの義体の操作に慣れてきたころなんです!!
兵器ありの戦闘なら負けません!!」
つまり、全員戦いに参加するということだった。
「‥分かった」
そして僕は他三人のほうへと顔をむける。マージョリーとアンジェリカさん、ポチには、既に聞いていた。聞くまでもないという風に、彼女たちもうなづく。
そして、僕は決意する。
彼らが経った今、覚悟してくれた。
だからこそ、彼らを死なすわけにはいかない。
確実に仲間も守りつつ確実に魔王も倒す。
少し難しいかもしれない。
だが、僕の培ってきたスキル、研鑽してきた技術、ステータスなら、それも可能なはずだ。
「力を多少取り戻しているとはいえ、魔王はまだまだ完全体とは程遠い・・!」
確信を持って僕は拳を握り、言った。
「全員で追い詰めて、安全確実に奴を屠ろう!」
「「「ええ!!「ああ!!」「うん!!」「はい!!」」」
そして、、戦いが始まる。
だが、のちにこの戦いが、勇者と魔王、
その『最悪の戦い』と呼ばれることを、
僕たちはまだ知らない。
「ねえ、、もうそろそろ来る頃かな?」
「・・いえ、まだかもしれないよ」
少女の形をした異形が、並んで岩の陰に隠れていた。
この地獄のような地域に、木々は少ない。
ここでは火や毒が飛び交う生き物には優しくない土地だからだ。あるとしても、それは十中八九強力な植物型モンスターだ。
彼女たちは。
無防備と言ってもいいだろう。だが、、彼女は肉をかじった。
それは、先ほどまで生きていたモンスターの肉・・、既に彼女たちは周囲のモンスターに狙われていたのだ。
だが、それに対し、彼女たちは強烈な『魔法攻撃』で反撃。哀れにも彼女たちを襲った怪物は肉として捕食される羽目になったのだ。
餌は周囲から自らやってくるのだ。
しかも、彼女の一人は、接近されればされるほど有利になる能力を持っている。。
ゆえに、動く必要はない。彼女たちはそれから数日、数週間、その場でじっとしていた。
だが、、ついに。気づく。
自分たちとは相反する気配。
邪悪に反する清浄な気配を彼女たちは感じたのだ。
「・・きたー」
「きたねー」
気配で、魔王を屠らんとする勇者、、優斗たち一行の存在に気が付く。
だが、彼女たちは動かない。
遠距離から仕留める。相手は何も分からずに自滅していく。
それが彼女たちが得た能力なのだ。
「何秒で殺せるかなー?あはっ!」
「食べたいね。勇者の肉。あはは!」
その表情は、肉食獣の顔。
他の生き物を食べ物としか思っていない、生態系のトップクラスの生命体だった。