幕間(飛ばし読み可)ブラッドゴブリン
(この話は本編とはあまり関係がありません)
(読み飛ばしても大丈夫です)
ーー
優斗は気が付かなかった。
いや、それは彼によって何ら関係のない事柄ゆえ、仕方ないことではあった。
それは、ブラッドゴブリンがあの場面において、いきなり仲間を殺した理由についてである。
優斗はそれを、血液を自身に付着させるためだと判断した。
だが、それは誤りである。
彼は優斗を殺すことになんら価値を置いてなかった。
そう、あの個体が重要だと思っていたのは、【長を殺すこと自体】だった。
それは、下克上する本能である。
あの時、長は、普段全くありつくことのできないデリシャードの実の匂いに夢中だった。
その油断につけこみ、下克上に貪欲だったナンバー2が新しい長になったのである。
「ゴブッ!ゴブウマ!!ウマゴブ!!」
彼は新たな地位と、そして戦利品であるデリシャードの実の味に満足する。
そして食べ終わると、本能の赴くまま、
「ゴブゴブ!!」樹上の優斗を威嚇する。
そう、彼は本能に従っただけ。
決して悪気はない。
だが、それがまわりまわって自らに返ってくるとは、夢にも思わない。
少し時間が流れ、優斗を崖際までおいつめたときである。
彼は崖下に飛び降りて、走り去ったのを確認した。
ブラッドゴブリンの新しい長はあまりの予想外の行動に一瞬固まる、
が、果敢にも号令して崖下に飛び込む。
「ごぶっ!」
もし、ブラッドゴブリンの『前の長』が生きていれば、それを追わない選択もとることもできただろう。彼を追いかけないといけないという習性があるのにも関わらずだ。
落ち着いた年長のブラッドゴブリン、前の長は常に仲間の安否を優先し、無用なケガや犠牲を強いることはしなかったのだ。
だが。新しい長は若い。思慮が足らず本能を抑えきれなかった。
危険を顧みず、ほぼ垂直の崖を駆け降りる。
ヒエラルキー頂点の彼が降りたのを見て仲間も迷わず彼について行く。
当然、少しでも足がもつれれば、転がり地面に激突して死ぬ危険があった。
だが、彼らを支配しているのは本能と興奮。
そして、
「ごぶうううううううう!!!」
運よく彼は下りきった。
この時点ではほぼノーダメージ。
しかし・・
「ごぶっ?!」
その先にある『大木』を彼は見ていなかった。
自身に迫りくる『壁』。
自身の制御できるスピードを上回っており、方向転換もできなかった。
「ごっぶ!」
激突。
続いて後続の大量なウルフたちも激突し、大半のブラッドゴブリンが気絶する。
そう、これだけなら、多少の犠牲はあれ、全滅はしなかっただろう。
しかし、、、
ぼろぼろぼろぼろ・・
運悪く、【土砂崩れ】が起きた。
多くのブラッドゴブリンが駆け降りた振動。それが原因で巨大な岩が多く降り注いだのだ。
そう、その落下地点は、大量のウルフたちのいる場所。
ずどんっ!
見るまでもなく、その結果は、圧死。一匹残らずブラッドゴブリンの群れは全滅した。
もう、優斗を追うものこの場にはいない。あるのは土砂に埋まったモンスターの死体だけだ。
しかし・・元はと言えば、
もしブラッドゴブリンの長が、優斗のデリシャードの【奪おう】としなければ、
優斗の命を【奪おう】としなければ・・
彼らはまだ長生きできたであろう。
この世界において、優斗を傷つけるものは、この世界の理が許さないのである。
【・・・・】