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幕間 ある少女の幸運【後編】(読み飛ばし可)


 

 

「うおおおおおおおおおお!!」


 ダークブレイカーの一人が、犬型モンスターをハンマーで全力でたたく。

 

「グゥンッ!」


 相手は一撃で粉砕しつつ、吹き飛ばしていく。

 

 だが、余りにも大振り過ぎた。

 

 別の個体が彼の腕を爪で引き裂く。

 

「ギャウッ!!」

 

「くっ・・・!!」


 だが、彼らも並大抵の冒険者ではない。ステータスが高いこともあり、その傷の深さはそれほどでもなかった。

 

 彼らにとってしてみれば、ポーションを飲めばすぐに治る程度のものだ。

 

 しかし、彼らはそんなことをせずに、攻撃に己の全行動をささげている。

 

 どんなに傷つこうとも、体力温存など一切考えずに全力で殴り倒すといったゾンビ戦法だ。

 

 既に出血で危険な領域に突入している者もいた。だが、それでも戦うことをやめない。


「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」


  

 

 それを、木陰からトラブルメーカーの少女、リョウコが見ていた。

 

「うわぁ・・すごい戦い・・!!」


 通常のの戦いというものをまともに知らない彼女は、その無謀な戦いがとても良く見えた。

 

 しかし、、ふと彼女は疑問に思った。

 

(あれ・・?

 でもなんで町が魔王探しで大変な時に、この人たちはこんなところで戦ってるんだろー?ふしぎだなー?)


 少し首をひねってから、彼女は我が意を得たりとポンと手を叩いた。

 

(もしかして、、ここらへんに魔王がいるってことなのかな?!)


 それは当然勘違いなのだが、そう勘違い彼女は、立ち上がって魔王探しに彼らから離れていく。

 

「よーしっ!!そうと決まれば・・!!私だって魔王を見つけるんだもんね!!!」


 魔王を倒せば報酬も貰える上に、大幅なレベルアップが見込める。それがモチベーションになっているというのもある。

 

 だが、彼女が今一番大事だったのは、仲間のシュウジとリュウタを見返すことだった。

 

 いつも馬鹿にされているお返しをしたいといつも思っていたのだ。

 

(魔王を倒したら、あいつらもぎゃふんと言うかもしれない!!)


 そうぎゅっと拳を作り、決意する。

 

 だが、彼女のその行為は自殺行為だった。

 

 そうここは森の最奥部。

 

 森は深く潜れば潜るほど、強いモンスターがうじゃうじゃと出現するようになるのだ。

 

 今まで無事だったのは、彼らダークブレイカーたちの後をつけてきたからだということに彼女は気が付いていない。

 

 

 

 

 

 

 もちろん、ダークブレイカーの面々は、今、一人の少女がどこかに行ったことは知らない。

 

 依然生死の境をさまよいながら、武器を振るっていた。

 

 いわば、ランナーズハイの状態。

 

(ああ、なんか気持ちよくなってきた・・)


(少し景色がかすんできたけど、、もうここで終わりでいいや・・)


 何の罪もない勇者を憎み、リーダーを失った彼らに残っているのは、もはや戦いの技術のみ。

 

 その技術とともに沈んでいけるならば、彼らとて本望だった。

 

 次々と仲間が倒れ始めていく。


 しかし、、ちょうど、その時だった。

 

「キャァアアアアアアアア!!」


 と、高音の叫び声が、森に良く響いた。

 

 ピタリと、ゾンビのように動いていた冒険者たちは、ハッと正気を取り戻し思わず動きを止める。

 

「なんだ・・?今のは・・?」

 

 それは、明らかに人の声だった。

 

「ここら辺に、人の声でなくモンスターなんていなかったよな・・」


「ああ・・」


 疑問に思った彼らは、ぞろぞろと、彼らは何かに導かれるかのようにそこへと走っていく。

 

 トラブルメーカーゆえに、彼らからそう離れていない位置で、彼女はピンチに陥っていた。

 

「「っ・・!!」」


 一同は絶句した。

 

 そこには、今の極限状態の彼らにとって、脳が数倍脚色していたのだろう。

 

 そこには、世界で一番美しいと見間違う女の子がいた。

 

「えぐっ・・えぐっ・・お、お兄ちゃん・・助けて・・!!」

 

 そう、リョウコはトレントの蔦に絡まっていた。

 

 そして、その服をはぎ取られようとしていたのである。

 

 太ももや腹などが露出し、きわどい部位が今まさに露にならんとしていたのだ。

 

 

 そう、なぜ彼女がシュウジとリュウタに見放されなかったのか・・。

 

 それは彼女が中学生とは思えないほどにナイスバディだったからである。

 

 そんな体格の事情もあり、その絵画的美しさに一同は宗教的感銘を受けた。

 

 極限状態で、しかもここ数か月鬱に似た状態だった彼らにとってしてみれば、

 

 それは女神のような美しさだったのだ。

 

 瞬間、彼らは自分が何をするべきかを悟った。 


 トレントの蔦を切断し、斧で素早く討伐。

 

「あ、ありがとう・・えぐっ・・!!優しい冒険者・・さん・!!」

 

 涙ぐむリョウコ。

 

 それに対し、彼らの代表であるジョセフが、彼女の前にひざまずいて言う。

 

「大丈夫でしょうか・・!?女神さま・・!」


「・・ふぇ?」


 疑問符を提示する彼女をよそに、一同は体育会系のノリで叫んだ。


「「私たちをお導きください!!女神様!」」

 

「ふぇえええええええ??!!!!!」

 

 人は弱っているところに付け込まれると、あっさりと宗教にハマってしまうという。

 

 図らずとも彼女はその信仰の対象に選ばれてしまったのだ。

 

 

 

 

 そして、その数時間後。

 

「おい、まだリョウコは帰ってきてないのか?!」


「ああ、そうみたいだね」


 シュウジとリュウタは、宿の前で深刻な顔で話し合っていた。


「くそ・・!やっぱり魔王にやられたのか・・?!街中だからって完全に油断していた・・!!」


「リュウタ、今はそんなことを言っている場合じゃないだろう!」


「・・くっ!

 ここの近くやあいつの行きそうなところを使い魔に探させたが、見つかってないんだよな?!」


「ああ、仕方ない。少し値が張るが、クエストを受注しよう!?」


「くっ・・!それしかないか」


 もっと早くそう決断すべきだったと、彼らは走り出す。


 だが、踵を返してふりかえったと同時に、偶然にも


「アレ?みんな」


 いつもの能天気な顔がそこにあった。


「「リョウコ!!」」


 彼は一斉に振り向いた。

 

 まず彼らの胸に飛来するのは、安堵。

 

 そして次に、こんな奴に少しでも心配した自分たちが馬鹿だったという羞恥心。

 

 それに加えて、こちらの気も知らないでという怒りだっただろう。

 

 しかし、、

 

「お前いったいどこ・・に?」


 振り向くと安堵よりも、『驚愕』が先に来た。

 

 彼ら二人は、そこにリョウコがいる『だけ』だと思っていた。

 

 だが、実際には、

 

「「・・・・・」」

 

「「ひっ!?」」


 思わず悲鳴を上げてしまう。

 

 血まみれの、たくさんの屈強な冒険者たちが、彼女の周りにいたのである。

 

 そして、それだけならまだ理解できた。おそらくその冒険者たちの怒りを買ってしまったのだろうと解釈できた。

 

 しかし、不可解なことに、

 

 その屈強な冒険者は、リョウコを神輿のようなものに乗せて運んでいたのだ。

 

 彼女はその椅子の上で、彼らに団扇を仰がれたりしてくつろいでいる。

 

 明らかに普通の事態ではない。

 

 何がどう転べば、こういう風になったのだろうか。

 

 もしかして、彼女の真の能力が目覚め、彼らを洗脳したのかとさえ思った。

 

「えっと・・リョウコ、その方々はいったい・・?」


「あ、えっとねー!このおじさんたちは私と遊んでくれるのー!あと命の恩人かなー!」


「・・は、はぁ?」


 彼女の言葉が何一つ理解できない。

 

 そして、次にその取り巻きの一人が、こちらに近づいてきて子供相手とは思えない大声で、


「コラっ!!貴様ら!!」


「「ひっ!!」」


 狂信者特有の、やけにキラキラとした目で叱責される。


「このお方は我々の女神様だぞ!!もう少し言葉を選ばないか!!」


「そうだそうだ!!」


 その眼はまさしく狂信者のものだった。


  

 こうして、リョウコたち一行の冒険に、頼れる新しい仲間が加わる。

 

 ダークブレイカー改め、偶像崇拝者アイドルガーディアン

 

 彼らのおかげで、彼女は以前よりリュウタやシュウジに馬鹿にされずに済んだのだった。

 

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